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食レポ時々説明しよう魔王とは

「では改めて。私の名前はラインハルト・ルーズィン。こちらでは皇龍夜と名乗っている。異世界の魔王をしていて、穹とは父親のような立ち位置の親友だ。性質は秘密で、レベルは9999。全能力値は99999だ。何か質問は? 嗚呼、食べながらで構わないから」

この台詞の時の状況を説明しよう。

お出かけから帰ってきて、ご飯の支度をして、料理並べて、いただきますを言った後の台詞である。

ルーさんとナイスバディ様は少し固まっていた。うん、そんな事よりかぼちゃの煮付けうまー!! ほくほくしててほんのり甘いし、何よりパサパサし過ぎてない。食べた時に、水気が足りてなかったら悲しくなるよな!! あ、白和えもうまー!! お出汁さっぱりべちゃべちゃし過ぎてないほうれん草のほんの少し残った苦味で箸がとまらんなー!! テンション上がると句読点なんていらんのです。それはただの飾りです。龍夜のご飯うめぇ……ご飯なんか土鍋で炊きやがってご馳走さまですいい仕事だ!! 焼き魚……だと!? 大根おろしに醤油は正に至高……口に含めば魚の香ばしい匂いが鼻に抜けて俺はもう幸せです……!! お代わりしたい!! お代わりいただけるだろうか……!! いいや、無理だ、するねっ!!

「ご飯お代わり!!」

「土鍋はキッチンだ」

「穹、行っきまーす!!」




穹の思考が食レポで埋め尽くされている間、目の前の女神とルマンは、件の穹を見ていた。食べっぷりが凄いものな。分かるぞその気持ち。最初は私も戸惑ったものだ。あれからもう何年も前になるのか……。

「……質問はないのか?」

「……ええと、あたしの気のせいだったらごめんねぇ、ハルトくんのレベル……9999って言ったぁ?」

「レベル9999で間違いない。他には?」

何故かハルトくん呼びになってしまったが、私は聞かなかった事にする。長く生きていると、恥も外聞もへったくれも無くなるからな。私含め女神然り。ハルトくんレベル9999と真顔で言えるぞ。いや言わないが。

本格的に固まってしまった。早く料理に手をつけて貰わないと、冷めてしまう。かぼちゃの煮付けが今日の自信作なのだが。

「ちょ、ちょっと待ちたまえ!! え? 最大でも5000までしか上がらないという事を、私はナタスウィーリア様から聞いたのだぞ!? そんな……9999とは聞いた事が……」

再起動したのはいいものの、私のレベルが気になり過ぎて仕方ないらしい。私とて好きでカンストした訳ではない。

「言い難いのだが、私は一度5000で止まっている。ただ元居た世界の生き物が増え過ぎたせいで、レベルのリミットブレイクが起きたのだ。今のレベルは確実にカンスト状態と言える」

「生き物が増え過ぎて……それは、どういう事かしらぁ……貴方の性質と関係あるのかしら」

教えてほしいわと小首を傾げながらあざとく言われたが、正直私に劣るとはいえ、海千山千のご婦人である。食指も動かん。

見た目に騙されると痛い目を見るぞ、と世の中の男性諸君に注意をしたい。女性は見た目ではない。いかに安心できる雰囲気をお持ちであるかだ。胃袋を掴まれれば、それはそれは幸せな事だろう。私には必要ないが。

「ご飯お代わり!!」

「土鍋はキッチンだ」

「穹、行っきまーす!!」

土鍋ご飯にして良かった。炊飯器だと格段に味が落ちるのだ。保温し続けると黄色っぽくなるし何よりパサパサしている。上の方のご飯等は水分が抜けきってカチカチになってしまうし……何の話だったか。

しかし、ううむ何だろう、どこかで聞いたような台詞が……。まあ、よかろう。

「とりあえず、完全に冷える前に食べたまえ。それから話をしようじゃないか」

神妙な顔をしながら頷いた女神とルマンがフォークを手に取り食事を始めた。ううむ……洋食の方が良かったな……失敗した。

表情が明るくなったので、口には合ったようだ。食べにくそうだが。すまん。

では私も。

うむ、少し冷めているが。まぁ、仕方あるまい。

かぼちゃの煮付けはやはり美味だった事を強調しておく。




もう食べれません。幸せです。土鍋ご飯うまー。噛むたびにお米本来の甘さがぶわわって口の中に広がるのよね。美味しいのよね。つい食べ過ぎちゃうのよね……。最近太った気がする。

「確かに脇腹辺りがふよんふよんしている気がする」

「き、聞こえなぁい、聞こえなああああい……!!」

龍夜が自分の分と、拒否ったけど奪われた俺の分の食器をシンクに持って行く際に、ボソリと言われた。へこんだ。あーあー聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

いや、てか、また心読みやがったな。

「異世界主従よ、話は洗い物が終わってからにしてくれたまえ」

シンクから聞こえてくる龍夜の声に、家庭的な魔王様って、それは本当に魔王様って言えるのだろうかとかつい思ってしまった。

例に漏れなく、ルーさんやナイスバディ様も思ったみたいで、友達の家に遊びに行った時に出された飲み物が、某炭酸の容器に入っためんつゆだった時みたいな顔をしていた。……ナイスバディ様って何かアレだな。もう女神様でいいかな。何か自分自身が阿呆っぽく感じてきだした。

「あたしの知ってる魔王となんか違うわぁ……」

「……見た目からして違いますよ……あれの見た目髑髏でしたし……」

あれが所謂ギャップ萌えって奴だな。

「違う」

ちゃっちゃっか洗い物を済ませた龍夜が的確かつ簡素な突っ込みを伴ってリビングに戻ってきた。え? 違うー? ギャップ萌え違うー? 俺には訳が分からないよ!!

「じゃあ……ギャップ萌えとは何ぞや」

「穹が知らない事を私に聞かれても困る」

「じゃあ何で否定したんだよ!! 合ってるかもしれないじゃないか!!」

「穹……少し想像してみろ私の魔王衣装を。そこから割烹着姿の私を想像してみろ……所謂ないわーってならないか?」

「うわあ。うわあ。止めろ想像させんな。お前の威厳という威厳が死に絶えたぞ……! あれちょっと待てお前本当は知って」

「じゃあ、質疑応答タイムラウンド2だ。気分によって答えたり答えなかったりするぞー」

「いやちゃんと答えような!! じゃなくてまずは俺に対して答えろよこの魔王!!」

「何を当たり前な事を」

無表情のくせしてたまに何かしら空気を壊し、些細な笑いを取ろうと画策するんだからもうこの魔王様って本当に意味不明。



程よく空気をクラッシュしたと思い込んだところで、本題に入ろうと思う。

「私の性質は秘密だと言ったろう」

「秘密って言ったわねぇ……どっちの意味合いなのかしらぁ。喋れないのか、本当に性質が秘密なのか……」

機嫌がいい猫みたいな表情でこちらを見る女神。

嗚呼、面倒だ。私はこの性質が嫌で堪らないのに。

「…………余り喋りたくない、というのが本音だな。声に出して、相手が認識して、より強く作用するのが、我等の性質だ。よもや忘れたとは言わせまいぞ? ……私が性質を言葉にする時は、相手を徹底的に排除したい時だけだ。それ以外の時は声に出したいとも思わぬ」

息をのむ音がルマンと女神から聞こえた。

「……龍夜、右手」

「嗚呼……すまない」

思わず右手を強く握り混み過ぎて、爪が皮膚を突き破ってしまっていた。穹は心配そうに私の右手を軽く擦る。

直ぐ治るからいいものの、見ていて気持ちの良いものではないだろう……。私の場合、表情に反映されないので、穹の頭を汚れてない左手でわしゃわしゃ撫でておく。安心したように笑顔を見せてきたので効果は有ったようだ。

衛生的に余りよろしくないが、台拭きで血を拭う。台拭きは血で汚れもしたし、多少解れていたので、勿体無いが破棄する事にした。

「燃えよ」

台拭きを塵一つ残さず燃やし尽くす。

焦げた臭いが辺りに漂い消えていった。

「私は自分の性質が好きではない……嫌で堪らないのだ……いい機会だから魔王や性質について簡単に説明しようではないか。女神、貴女が魔王について知っているかどうかはまた別として、ルマンは知りたいだろうからな」

ルマンは静かに頷いた。女神はといえばショックを受けたような顔をしている。私の性質が何となくプラスに作用するものではないと分かったのかもしらん。

「そうだな……まず世界というのは数多有るのは知っているな? 『世界』と『神』が揃って、初めて世界として成り立つのも知っているな? どちらが先に出現するのかはその時まで分からないが、『世界』に出現した『神』は、生きとし生けるものを生み出す。が、魔王とはその生きとし生けるものの願い、祈り、絶望、希望、感情等から生まれる。例外も有るがね。力や意志の塊が人格を伴い人の形をして生きていると思えば分かりやすいか? 誕生の経緯や、世界によっては、『神』と同義になる場合もあるし、打ち倒されるだけの標的でしかない場合もある事を理解しておいて欲しい。そして魔王だけでなく、力を持った存在には性質というものがある。祈りから生まれたのならば、性質は祈りになる。その性質によって能力や自分のみの力などが決まるが…まあ、蛇足になるからこれはいいか。分かるか? 私が性質を話したがらない訳が」

長い台詞を喋ると、舌が疲れる。話したくない話題だからこそ顕著に。途中から舌を噛みそうになった。

手元の水を一口含み喉を潤す。

「……貴殿は、その性質を抱えてしまった。貴殿にとって好ましくない類いの性質を。……出生や出自は自分ではどうする事も出来ぬからな」

「そうね、あたしがしつこく聞きすぎたみたい。ごめんねぇ、貴方の逆鱗がそれもだなんて、知らなかった」

……この主従は揃いも揃ってお人好しというかなんというか……片方は人ではなく神だが。流石、楽観。

「まあ、うん……龍夜、ステータス欄には性質が表示されないから仕方ないさ。抱えてる性質は確かにあれだけど、お前が間違ったように使わなければ大丈夫だろ。頼りにしてるぜ、龍夜」

穹。

穹、私の大切な養い子。

……あれが穹を私に放り出すように任せてから幾年も経ったが、ここまでいい子になるとは思わなかった。

今の穹を見て、放り出さなければ良かったと後悔するがいい。

だが、何だろうか、ちりちりとした違和感が頭の片隅で存在を主張している。

………もしや……。

「……穹がいい子に育ってパパは嬉しい」

「台無し!!」

「私は知っているぞソラ! これは『オヤクソク』という奴だな!!」

「合ってるけど、違う!! シリアスどこに行ったんだよ!?」

「男性陣は楽しそうねぇ。仲良くて何よりだわぁ」

長く生き過ぎると、恥も外聞もないとは言ったが、流石に照れる顔は見せにくい。すまん穹。そして全幅の信頼を、有り難う。

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