恋愛ジレンマ
1度気にするとそればかりが目に入ってしまう。
そんな法則があるとどこかで聞いたことがあるが、なるほど確かにそのとおりなのかもしれない。
気に入った歌手や服装などを見つけるとしばらくはテレビや街中でそればかり目に留まってしまう、と言ったことは誰にでも思い当たる節があるのではないだろうか?
かくいう僕も最近ずっと目に留まるもの、いや“人”がいる。
僕にとって高崎 蓮菜はそういう存在だった。
高校に入学して約半年。学校祭や定期テストなども終えたこの時期になって何故かクラスの女子がどこにいても目に入るようになった。
ツルツルとしていそうな綺麗な黒髪も
少し怒っているようなキリッとした目も
モデルというよりは少し心配になる程の細い身体も
大人しくてあまり口を開かない清楚な性格も
どれもが彼女と会っていない時ですら想像してしまう。
ただの高校生の恋愛感情だと言えばそれまでだが、僕は少し違う気がする。中学生の時、人並みにある女の子を好きになった。でもその子は今みたいにどこにいても目には留まらなかった。
でも彼女は、高崎 蓮菜は違った。
購買や図書館に行った時、部活中に授業中。時には休日にまで出くわす事もある。
偶然と言えばそれまでだが、何故か引き寄せられてしまう。目に入ってしまう。
これは一体なんなのだろうか?
「 お前、それは蓮菜ちゃんが気になっているんだろう。それだけの話よ」
ある放課後思い切って中学時代からの友人に相談してみたらやはり最初に思っていたような事を言われた。
「 確かに僕も最初はそう思ったよ。でも前は気にならなかったのに突然目に入るようになったんだ。ほら、中学の時さ僕が好きになった子いたじゃん」
「あ〜みんなのアイドルだったあの子か露骨にアピールしてたけど全部笑顔で総スルー。いやぁ懐かしいな 」
「 い、いや今は僕が総スルーされた話じゃなくてさ……」
うぅ……苦い思い出だったのに。
「 そのときにもここまで目に留まる事は無かったんだ。だからもしかしたら何か別の理由があるんじゃないかって思って」
「 ふ〜む、彼女が目に留まる理由ねえ。まあ、思い当たる事はあるっちゃあるけど」
「 えっ?本当か?」
流石恋愛経験豊富なだけあるなあ。中学の時から付き合っている人は見たことないけど、よく恋愛について教えて貰っていたものだ。
「 つまり中学の時のお前はただのミーハー野郎だったんだ。高校になってようやく、初めて、本当の恋愛感情が湧いてきたって事に違いない」
「 そ、そうだったのか!?」
何てことだ……僕は気づかないうちに彼女を本気で好きになっていたのか。
「 ああ、蓮菜ちゃんがどこにいても目に入るのはお前が本気で惚れているからに決まっている。お前は今ようやく初恋をしているんだ」
「初恋か……何か照れるな」
「照れる必要などない。恋愛マスターの俺は既に小学生の時にそんなもの済ましているさ」
「流石だよ!恋愛マスター」
「へっ、よせやい。まあ本当の事だけどさ」
やっぱり相談して良かったなぁ。頼りになる。
「恋愛マスター、僕はこのあとどうすればいいんだろう?」
「ふっ、お前はまだまだだなぁそんなもの決まっている。本気で惚れた女には当たって砕けろだ。今から告白でもしてこい」
「そ、そうだよね!うん。今なら何だか何でも出来る気がするよ行ってきます」
「おう、頑張れよ」
教室を飛び出すと、何とすぐに高崎さんが見つかった。こんなに早く見つかるなんて!やっぱりこれは本気で惚れていたんだ。
「あの、高崎さん!ちょっと良いかな?」
「な、何ですか?」
顔が赤くなっている。大丈夫だろうか?
「あのさ、少し前から思っていたんだ。何でか分からないけどどこに行っても君のことが目に入ってくるなぁって」
「っ!!」
「それでそのことについて友達に相談に乗ってもらったんだ。そしたら理由が分かったよ。つまり君が……」
「ゴ、ゴメンなさい!!!!」
え、ええええええ?
告白する前に振られたの僕?
「……そうだよね。僕なんかとは付き合えないよね。ありがとう。きちんと振ってくれてこれからも友達でいてほしいな」
「え??振ってくれて???だ、誰がですか?」
「君が」
「だ、誰を?」
「僕を振ったに決まっているじゃないか」
「ちっ違います!!!!そんなことする訳無いじゃないですかっ!!!!!」
顔を真っ赤にして普段からは想像出来ないような大声をあげる彼女は新鮮でやっぱり可愛かった。
「だってゴメンなさいって」
「そ、それは私があなたをずっと追いかけていた事に気付いて怒っているのかと……」
「へ??追いかけているって???誰が?」
「それは私が」
「だ、誰を?」
「あ、あなたをですよっもう……」
え、ええええええええ???
次の日の朝僕は見当ハズレのアドバイスをしてくれた親友に説明をしていた。
「つまり僕がどこででも蓮菜が目に入ったりするのは。彼女が僕を追いかけてだったんだ。そりゃ中学の時とは違うはずだよね」
「……そうか」
「でもいつからだったんだろう?僕も長いこと彼女を見ていたような気がするしね。それはもしかしたら彼女が僕を追いかけるようになるより先だったかもしれない」
「…………そうか」
「卵が先か鶏が先かみたいな話でさ。僕が見てたから蓮菜が僕を好きになって追いかけてくれたのか。それとも彼女が僕を追いかけてたから僕が好きになったのか……まあ、どっちでもいいけどね」
「………………そうか、っじゃねーよ!!!自慢かこの野郎!!!何だそのオチ納得いかねーよバーカ」
「でも恋愛マスターなんだし……」
「ゲームのなかでなっ!中学からお前だけだよ!俺のそんな戯言信じてたのっ!!ちくしょー裏切り者め!大体なんだ急に蓮菜ちゃんを呼び捨てになってるし昨日何があったか教えろ〜」
ボカスカと叩かれながら、今回結局彼のお陰で付き合えることになった。僕らの恋愛が勘違いから始まったように僕の勘違いから本当に彼が恋愛マスターになることもあるのではないか。なんて考えていた。