第59話:陛下と宰相の密室毒殺未遂事件
<ユーエリア視点>
エリザベス様が王城の庭の池で暗殺されそうになってから2日後。
エリザベス様の体力が回復したので詳しい話を聞く事にした。
「庭園の薔薇園を歩いていたら、変な匂いがしたのよ。
いきなり眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまったわ」
「犯人の顔は見ていないのですか?」
「・・・目がかすんで覚えてないわ」
どうやら犯人の顔は見てないようだ。
しかし、手掛かりはある。
「ジークハルト殿、薔薇園の庭には
なんか睡眠の香を焚く装置が設置あったらしいわね」
「ああ、緑の騎士団が押収した。
複雑なカラクリがしてあって中に風の魔法陣が印刻されていた。
眠りの香を入れると自然に外に噴出される仕組みらしい」
私も調べたけど、
あれは時限装置になっていてタイマーで睡眠の香が出るらしい。
この時限装置を作るには昔の錬金術に詳しい奴でないとできないわね。
それともう一つ・・・。
「現場をすぐ見に行ったんだけど、
少しジュディの魂の欠片の反応がしたわ」
「俺も感じた。あれは式神の反応だ・・・」
雷信も感じたらしい。
ジュディの霊力の籠った式神の反応がかすかだけどあったのよね。
「普通、式神というのは自分の分身を作る時には自分の魂を使うのよ。
だから、魂の霊力もその場の名残として残る事が多いの」
「ジュディの計算ミスは自分自身で式神を使った点だな」
私と雷信はそのジュディの霊力の魂の欠片を感じ取ったわけ、
だから犯人の目星がついたわけだけど;
「だけど、霊力と言う未知の力をどうやって説明するかが問題なんだよな;
エンジェルム王国では陰陽術を理解するにはちょっと難しいぞ;」
リックが渋い顔しながらそう言った。
そうなのよね・・・。
いきなり式神を使ったって言う明確な証拠は説明しづらい;
霊力の専門家なら一発で分かるけど;
エンジェルム王国の人は理解できるのだろうか?
「それなら雷森羅国の陰陽術の専門家を呼ぼう。
何か明確に霊力を使った証拠を見つけてくれるかもしれない」
「ああ、俺らの国には陰陽術を使う陰陽師がくさるほどいるからな」
雷信と拓海はそう言って、
雷森羅国と連絡を取るため式神で召喚した鳥を飛ばした。
「これではっきりすればエリザベス様暗殺未遂事件が解決しそうね
後は王妃様毒殺未遂の証拠さえ見つかればいいのだけど・・・
毒を仕込んだトリックは分かってるけど
特殊毒で証拠が消されているのが痛いわ」
「そうですね・・・犯人が分かってるのに
捕まえられないのが悔しいです」
そう言ってスーナ嬢はくちびるを噛んで悔しがってた。
ガタッ・・・!!
何か物音がしたわ。ドアが少し開いてる;
誰か立ち聞きしていたのかしら?
まずいわ;噂が広まったら証拠がもみ消されるかも;
私たちは立ち聞きした奴を探す事にした。
<リムニスタ陛下視点>
俺はエリザベスの寝室の前でとんでもない事を聞いてしまった。
エリザベス暗殺未遂犯とリリアーヌ毒殺未遂犯がジュディ男爵令嬢だと!!
・・・許せない!!
俺は怒りの炎で燃え上がった。
王の勅命でジュディを牢にぶち込んでやる!!!
そう思って、俺はジュディを探した。
「あ、父上どうしたのですか?」
「リチャードか?ジュディ殿は一緒ではないのか?」
リチャードが1人で城の廊下を歩いていた。
ジュディは一緒ではないらしい。
「ジュディは宰相の部屋に行くと言ってました。
何か話がしたいらしいです」
「分かった・・・」
ジュディは宰相の部屋にいるらしい。
そういえばジュディは宰相の姪だったな。
まさか宰相とグルなのか?
俺は疑念を持ちつつ宰相の部屋へ向かった。
宰相の部屋に入るとジュディと宰相は何か話していた。
ん?宰相の様子が変だ・・・;
目の焦点が合ってない。
「勇者の聖剣はどこ?」
「地下の・・・アクアの泉の・・」
「宰相しっかりしろ!!」
パンッ!!!!
ガシャン!!
「はっ;私はどうしたのでしょう?」
俺は宰相の頬を叩き正気に返した。
叩いた勢いでコーヒーのカップが床に落ちた。
「ジュディ殿・・・。
これはどういう事か説明してもらおうか!!
宰相に何を聞こうとした?!」
「ちっ・・・王様が来るなんて予想外だわ」
俺がジュディに詰問すると、ジュディは爪を噛んで悔しがった。
「宰相を操って何を聞こうとしたかは知らんが・・・。
エリザベスとリリアーヌを害したのもお前らしいな!!
王の勅命を使ってお前を拘束させてもらうぞ!!
地下牢で反省しろ!!」
「な、ジュディが・・・!?」
「ふふふ・・・そこまでバレてるのね。
それならあなたたちを始末するしかないわね」
俺の勅命に絶句する宰相を余所に、
ジュディは緑の粉の入った瓶を開けて煙が充満した。
「な・・・毒の香か?」
「く、苦しい・・・」
「これは人間だけに効く毒よ。
効果が遅いのが難点だけど死んでね。
じゃあ、私は逃げるわね」
苦しむ俺たちを冷たく見つめてからジュディは部屋を出て行った。
「くそっ・・・ジュディめ・・・」
俺は遠のく意識の中ジュディを怨みながら倒れた。
く・・・ジュディめ・・・;
<ユーエリア視点>
私は部屋のドアに残っていた魔力反応から
立ち聞きしていたのは陛下と断定した。
もし、私の話を聞いてたならジュディを無理矢理捕まえようとするか
下手したらその場で打ち首にするかもしれない;
そんな不安を抱えつつ陛下を探した。
「どうしたのですか?
ユーエリア殿、それにリックたちもそんなに慌てて;」
リチャード様が慌てている私たちは不思議に思ったのか
駆け寄ってきた。
「陛下がどこにいるか知りませんか?」
「たしかジュディに会いに宰相の部屋に行ったはず」
「くっ・・・やっぱ聞かれてたわけね;
急がないと・・・!!」
私たちは宰相の部屋に向かおうとした。
「僕もジュディを迎えに宰相の部屋に行くよ。
たぶんコーヒー談義で盛り上がってるだろうね。
2人ともコーヒー好きだから」
なんて言ってリチャード様はのん気にそう言って私たちについてきた。
・・・こっちの気も知らないで。
なんてイラつきつつ宰相の部屋に着いた。
鍵が掛かってるようだ。
「なんか・・・緑色の煙が漏れてないか?」
「これは毒?!」
「「「「「「なんだって!!!!!」」」」
リックがドアの隙間から漏れている毒の煙を見つけた。
私が毒と言うと
みんなそれを聞いて真っ青な顔をした。
「父上と宰相、もしかしたらジュディもあの中に?!!
ジュディーーー!!!ジュディ!!!!!」
リチャード様は真っ青な顔をしてドアを開けようとするが開かない。
「宰相のドアはたしかオートロックだったから;
鍵が無いと開かないはずだ;」
「そんな!!鍵!!誰か!!鍵を持ってこい!!」
ジークハルトがそう言うとリチャード様は錯乱してそう叫んだ。
「お嬢様!」
「ウィキ!!」
ウィキがジュディを縄で拘束して現れた。
ジュディは憮然としてる。
「こいつがお城から逃げ出そうとしたから拘束した。
たぶん、後ろめたい事をした後だろうな。
宰相の部屋を監視水晶で見ていたが
こいつ陛下たちを毒ガスで殺そうとしてた。
一応、お城の主要人物の部屋に監視水晶を設置しておいてよかったぜ」
「な、ジュディがそんな事するはずがない!!」
ウィキの証言にリチャードは怒ってそう反論した。
「ま、とにかくこのままじゃ陛下が死んじゃうから
助けるのが先だ。
ちょっと待ってろ・・・」
そう言ってウィキがピアノ線を取りだした。
それをドアの下の隙間から差し込んだ。
「風魔法でレバーの内側にピアノ線を引っかけるとオートロックは開く。
室内からであればドアノブやレバーを動かすだけで開くからな。
魔道式の鍵じゃなくて助かったな」
そう言ってウィキは宰相の部屋のドアを開けた。
毒の風が部屋中に充満している。
「『ピュリフィ』」
私は浄化の魔法で部屋の毒を浄化した。
毒の煙がすっかり消え去った。
「親父!!宰相!!」
「しっかりして!!」
倒れている陛下と宰相に駆け寄るリックとエリザベス。
彼らを揺すると息はまだあるようだ。
「2人ともどいて。
解毒剤を飲ませる。これは人間だけ効く毒だな。
コレクションにこの毒の解毒剤が残っててよかったぜ」
ウィキは陛下を宰相に解毒剤を飲ませた。
すると2人は顔色が良くなった。
「よかった」
「ウィキ、ありがとな」
エリザベスとリックは2人が助かったことに安堵していた。
「で、ジュディ男爵令嬢?言い逃れはできないぞ。
陛下たちを毒殺しようとした犯行の現場を
映した監視水晶のデータは
無属性の魔道石に記録済みだからな」
「く・・・」
ウィキにデータの入った無属性の魔道石を見せられ、
ジュディは悔しそうに俯いた。
「なんで!!父上たちを殺そうとしたんだ!!ジュディ!!」
「・・・」
涙目でリチャード様はジュディに聞いた。
ジュディは黙って答えない。
「・・・なんか怪しかったのよね。
ジュディは宰相の姪のはずなのに
貴族の食事のマナーを知らなかったし。
それに・・・、ねぇジュディ?」
「なによ?」
「ジュディは宰相の好きなコーヒーの銘柄って知ってる?」
私は不機嫌なジュディにそう聞いてみた。
「アメーカンでしょ?」
「「「・・・!!」」
リチャードとリックが驚いていた。
「違うわ。宰相が好きなのはレッドマウンテンよ。
たしか宰相の姪であるあなたも同じ銘柄が好きって
宰相から聞いたことあるわ」
「そうだったな」
「・・・ジュディ?」
リックもそれを知ってるのか頷いた。
リチャードもジュディに疑念を抱いたのかまじまじと彼女を見ていた。
ジュディの怪しさにみんな注目した。
私はさらに口を開いた。
「レッドマウンテンは今年は去年の作物不良による
品切れで出回っていないわ。
今はアメーカンで代用して飲んでるって宰相から聞いたわ。
・・・あなた、今、部屋で宰相が飲んでたコーヒーから
アメーカン好きと推測したわね」
「く・・・」
悔しそうにジュディは私を睨んだ。
「ねぇ、ジュディ?あなたは本当は誰なの?」
「ふふふ・・・バレちゃ仕方ないわね」
そう言ってジュディは黒い靄に包まれると
1つの鋭い角と赤目でロングの黒髪の魔族の女になって正体を現した。
かなり露出度が高い服を着てる。
「ああああ!!!その胸!!!列車ジャック犯のデカパイ女!!」
リックは魔族の女を指差していた。
どうやら。この前の列車ジャック犯の逃げた女がジュディに化けていたようだ。
「デカパイって言うなーーーーーーーーーー!!!!!!」
そう怒りで真っ赤になりながら魔族の女は叫んだ。
「はぁはぁはぁ・・・。
あの時のガキがここにいるとわね・・・;
王子だったのね。
雰囲気が違ってたから気が付かなかったわ。
ちっ、あの時、捕まえて吐かせればよかったわ」
「は?」
そう言って興奮に息を切らせながらリックを魔族の女は睨んだ。
「どうやら王族から何か情報を聞き出したいようだな。
あわよくば、王家を乗っ取ろうとしたな」
「そうよ。あの色ボケ王子を誘惑して
目的の物の奪取とエンジェルム王国を影から支配しようとしたけど、
く・・・失敗したわ。
王家の側に企みに鋭い奴らがいるなんて・・・」
「色ボケ・・・・;」
ウィキがそう言うと魔族の女は私たちを恨めしげに見ていた。
リチャード様はショックで床にへたり込んでしまった。
「そうよ、私たちがいる限りこの国は渡さないわ。
お~ほっほっほっ!!!」
「・・・この高飛車女め」
私が高笑いすると魔族の女はさらに悔しそうに爪を噛んだ。
ふふふ、もっと悔しがりなさい。
「こうなったら、あなたたちを倒して、
無理矢理でも目的の物の場所を吐かせるわ!!
私の名前はリリスプリム
魔族の国『ニブルヘイム』の大六魔騎士の1人。
いざ、参る!!」
そう言って魔族の女は隠し持っていたナイフで縛られていた縄を切った。
オリハルコン並みの強度がある縄を切るなんて;;
特殊なナイフのようだ。
そして魔族の女はムチを取り出して私たちに襲いかかってきた。
ムチが武器とは私にケンカ売ってるわね!!
逆に返り討ちにしてあげるわ!!!
お~ほっほっほっ!!
つづく
列車ジャック犯の謎の女が再登場しましたw
リリスプリムというらしい。
どうやら魔族の女だったようですw
王家の何かを狙ってたもよう;
あわよくばリチャードを誘惑して国を操ろうとしてたらしい;
次回はそのリリスプリムとのバトルですw