第57話:引きこもりのスーナ嬢
<ユーエリア視点>
舞踏会の第一王子リチャード様のスーナ嬢婚約破棄事件を
監視水晶で見たノッレとロゼッタや
アドバーグ達使用人一同はリチャード様に憤慨してた。
「見た目だけで女の子を振るなんて何様のつもり?!」
「スーナ様はかわいいじゃん!!
何あの王子?!」
「イケメンでもあれはないと思います(怒)」
「・・・許せませんね」
「王子様と言えど許せませんな。私も同感ですぞ」
ノッレたちはみんなそう言ってリチャード王子の株は下がっていった。
その婚約破棄事件から3日後、
アークレイ伯爵家別邸にリックが訪ねてきた。
珍しくいつもの平民服じゃなくて絹のブラウスに胸に赤のリボンと
深緑色のズボンとベストの貴族服を着ている。
「どうやら、スーナ姉ちゃん、
この3日間、王都のナカハラト公爵家の別邸に引き籠ってるらしいぜ」
「まぁ、あんだけこっぴどくリチャード様に振られたから当然ね;」
どうやらスーナ嬢は公爵家の別邸の部屋から
一歩も出ないで閉じこもってるらしい。
「確かにあれだけはっきり言われると傷ついただろうな」
「・・・ヒドいと俺も思う」
うちの別邸に遊びに来ていた雷信と拓海も同意している。
「リチャード王子はかなりジュディっていう男爵令嬢に夢中みたいだな。
少し前から彼女とデートしてるって
街で噂になってたって商会の従業員から聞いたぞ」
ウィキはお茶を淹れながらそう言った。
リチャード様とジュディのデートの様子について噂を聞いたらしい。
「はぁ・・・。兄貴も兄貴だぜ;変な女に引っかかるとは;
さすがに俺もスーナ姉ちゃんが心配だから
様子見に行こうと思って、ユーエ達も一緒に行ってくれないか?」
「確かにほっとけないわね;王国の大事件っぽいし;
私も行くわ、ウィキも付き添いね」
「分かった」
私はウィキとリックと一緒にスーナ嬢の王都の屋敷に行く事に決めた。
「俺も行こう。えんじぇるむ王国の一大事だ。
雷森羅国も無関係じゃないしな」
「俺もついでに行くよ」
雷信と拓海も付いていくみたいだ。
こうして、王都のナカハラト公爵家の別邸に向かった。
商会のワープポイント経由で王都に着くと貴族のエリアの1番街に向かった。
ナカハラト公爵家の別邸は1番街の外れにあった。
どうやらこの別邸はスーナが王城へ王妃修行に行く時に
滞在先に使われてるらしい。
別邸はレンガ造りの蔦に覆われた格式のあるかなり古そうな屋敷であった。
カラスが屋根で鳴いていてかなり不気味な雰囲気である。
「怖いな・・・;」
「なんか出そうだな・・・;」
「貴族の公爵の屋敷にしては幽霊屋敷っぽいな」
「・・・カラスがかなり不気味さを演出してるな」
雷信と拓海とリックとウィキは口ぐちに屋敷の感想を述べた。
確かに何か出そうである。
入り口に近づくとエリザベス様とジークハルトがいた。
「姉貴!!ジークもなんでここに!!」
「あら、リック。ユーエリアちゃんも雷信殿たちも一緒だったのね。
私もスーナちゃんが心配でジークと様子を見に来たのよ」
「俺たちもスーナ嬢が心配でな」
リックが驚いているとエリザベス様たちも
スーナ嬢が心配で屋敷を訪ねたらしい。
今はプライベートなので2人とも気さくな喋り方である。
そんなこんなで玄関のドアのノッカーを叩く。
シーン・・・
「留守かしら?」
「でも誰も居ないのは変だな。使用人ぐらいはいるだろうに」
エリザベス様とジークハルトが訝しげに玄関を見た。
すると・・・
ギィィィィィィ・・・・。
と音を立てて玄関の扉が開いた。
そこには前髪で片目が隠れた濃紺の髪の暗めの使用人がそこにいた。
「何か御用で・・・?」
声もなんだか幽霊っぽいというか暗い。
私たちは少し引いた;
「私は第一王女のエリザベスです。
スーナ殿に面会に来ましたわ」
「そうですか・・・どうぞこちらに・・・」
エリザベス様を先頭に私たちは使用人に案内されて中に入った。
「お荷物・・・お持ちいたします・・・」
「ひっ;」
すると横にもう一人の使用人にそっくりな男が現れた。
私はびっくりして引いた;
「アーベルト・・・お客様を驚かせてはいけません」
「兄さん、すみません」
どうやら、この使用人は兄弟のようだ。双子みたいだね;
「珍しいですか・・・?」
「私たちは双子です・・・。
私がアーベルトでこっちの兄がローベルトです・・・。
ナカハラト公爵家別邸の執事をしております・・・」
どうやらこの暗い双子は執事らしい。
右目が隠れてるのがアーベルトで左目が隠れてるのがローベルトらしい。
私はおそるおそるカバンをアーベルトに渡した。
そして双子に屋敷内を案内してもらいスーナ嬢の部屋に向かった。
屋敷内は重っ苦しいねっとりとした空気で薄暗かった。
双子の雰囲気といいホラーハウスに来たようだった。
そしてスーナ嬢のいる部屋に辿り着いた。
「スーナ様・・・、エリザベス様たちが訪ねに来ましたよ」
「お出になってください・・・」
ローベルトが部屋をノックするが返事が無い。
部屋から双子がいろいろ話しかけるが反応はないようだ。
「ああ!もう!じれったいわね!!
開けるわよ!!」
「「あっ・・・」」
双子をどかしてエリザベス様はドアを開けた。
中は昼間なのに真っ暗だった。
どうやら暗幕の黒いカーテンで日光をシャットダウンしてるらしい。
おそるおそる私たちは中に入った。
「なにこれガイコツ?」
「ひっ・・・;ってゾンビの人形かよ」
「なんかリアルな人形だな」
「面妖な・・・;」
「パンプキンの人形もあるぜ」
「初めてスーナちゃんの部屋に入ったけど;
これは・・・どうしたのかしらね;」
「・・・不気味だ;」
口ぐちに真っ暗なスーナの部屋の感想を言う一同。
ガイコツの頭や全身の人形やリアルに肌が溶けてるゾンビの人形や
パンプキンをくりぬいた人形などがインテリアで置かれていた。
ますますホラーハウスである。
「あれはスーナ嬢?」
「「「「・・・・・;;;;;」」」」
私が部屋の隅を指差すと黒いフードで顔を隠しながら
ぶつぶつ言いながら本を読んでいるスーナ嬢がいた。
まるでどっかの魔女っていうか幽霊である。
みんなその様子に絶句した。
「はっ;ごめんなさい気が付かなくて;」
スーナ嬢は私たちに気づいて暗い顔でそう言った。
そんなこんなで私たちはスーナ嬢と対面したのであった。
「「明かり・・お点けします・・・」」
気を利かせた双子がロウソクの燭台に
火を点けるとますますホラーハウスっぽくなった。
双子がお茶を持ってきて出すとスーナから話を聞く事にした。
「ごめんね;リチャードがヒドイ事言ったから
こんな趣味に走ったのね・・・・」
エリザベス様はこの状況に涙目になった。
「いえ、これはもともとの私の趣味です」
どうやらスーナ嬢はもともとホラーが趣味なようだ。
気にした様子もなくそう言った。
「ん?その本『エルエル街の悪夢』か?」
「そうです、私、この本のファンで・・・」
リックはスーナ嬢の持ってる本に気づいた。
どうやらスーナ嬢はホラー小説もたしなんでるらしい。
「たしかその本、ユーエが書いた本だったよな」
「うん。最近、新ジャンルを開拓したくてね」
「・・・優絵、ホラーものまで手を出してたのかよ」
「お嬢様は基本的には雑食作家だからなぁ;」
「そういえば優絵は作家でもあったな」
リックに言われて私は頷いた。
この『エルエル街の悪夢』は私が書いた本である。
内容はエル●街の悪夢そのままである。
いろんなジャンルに手を出してる事に拓海とウィキは呆れてた。
雷信は私が作家である事を思い出したのか感心してた。
「え?作者のコーノミヤ・ジンジャーさんってあなただったんですか?!」
「うん、そのペンネームで色々書いてるわよ。
本名はユーエリア・アークレイっていうの、よろしく」
「よ、よろしくお願いします!私、スーナ・ナカハラトです;」
驚いてスーナ嬢は私を見ていた。
私が自己紹介するとスーナ嬢は緊張しているようだ。
「私、『エルエル街の悪夢』シリーズの大ファンなんですw
あと、『13日の木曜日』のシリーズも大好きですwww
『エルエル街の悪夢』の右手にはめられた鉄の爪で
相手を引き裂く殺人鬼のフレーデーの鬼畜さがすごく好きでw
『13日の木曜日』はジェーソーのチェーンソーで
炎に包まれた村人を襲うのが最高で・・・(中略)」
しばらく、スーナ嬢は私の書いたホラー作品の感想を
目を輝かせながら喋っていた。
ちなみに『13日の木曜日』はまんまジェ●ソンのパクリである。
「あ、あの!!サイン頂けますか?
その・・・スーナさんへって書いてくださいw
あと握手もお願いしますw」
「いいわよ」
私は本を差し出されて表紙にサインをした。
そしてスーナ嬢に握手した。
「サイン、一生の宝物にしますw手も洗いませんwww」
スーナ嬢は私がサインした本に頬ずりして喜んでいた;;;;
手は洗った方がいいと思うけど。
それでスーナ嬢が興奮から落ち付いた所で
私はなぜスーナ嬢が引き籠ってるか聞いてみた。
「やっぱり、リチャード様に振られたのがショックで・・・;
美しくないなんて言われたのが悲しくて・・・悲しくて・・・。
あんなにエステにも通って努力したのに・・・。
私は不細工なんだわ・・・日の目が見れないほどの・・・。
こんな私は一生闇に引き籠っていた方がいいんだわ!!
うわああああああああん!!!!!」
引き籠った理由を涙ながらに語ってスーナ嬢は大泣きした。
「こんなにスーナちゃんを傷つけたリチャードは
殴ってボコボコにしてやりたいわ!!」
「確かに王子は男として言ってはならない事を言ったな。
俺もエリと同意だ!!」
エリザベス様とジークハルトも拳を握りしめ
リチャード様に怒りを露わにしている。
・・・たしかにリチャード様の一言の『美しくない』ってあれはキツい。
見た目でしかスーナ嬢を見てなかったんだもんね。
スーナ嬢は見た目はそんなに不細工という訳ではないので
あれはかなり言いすぎだと思う。
私は泣いているスーナ嬢に意を決してこう言った。
「スーナ嬢、今までしてきた努力や思いを無駄にする気ですか?
想い人の心ない一言で終わるような紙きれのような想いなら捨てなさい。
もし、まだリチャード様を愛しているなら美しくなるよう
血へドを吐いてでも努力して振り向かせて見せなさい。
努力家なあなたなら不可能を可能にする力を秘めています」
厳しく私はスーナ嬢の瞳を見つめてそう言った。
スーナ嬢は黙り、しばらく自分の努力してきた
道のりを思い出しているようだった。
「リチャード様への想い・・・」
そうスーナ嬢は呟いて、懐から蔦の模様の入った白銀の懐中時計を取り出した。
かなりアンティークな品で高そうだ。
「それは?」
「これはリチャード様から子供の頃、初めて会った時に貰ったものです」
大事そうに懐中時計をスーナ嬢は握りしめていた。
「あの頃のリチャード様はお優しくて
初めて一緒に王城のお庭を散歩した時に
記念に渡されたものです。
私に優しく微笑んでくださってかわいいねって・・・」
そう言ってスーナ嬢は一筋の涙を流した。
かなりリチャード様を想う気持ちが伝わってきた。
「それを持ってるって事はまだ諦めてないのですね」
「はい・・・」
私が聞くとスーナ嬢は頷いていた。
「私・・・諦めたくないです。リチャード様を・・・」
泣きながらスーナは決意したようだ。
「良く決意したわ!!私も協力するから!」
「俺もできるだけの事はする」
エリザベス様とジークハルトもスーナを励ました。
「問題はあの兄貴をどうやってスーナ姉ちゃんに再び振り向かせるかだな」
リックはそう言って一同、頭を悩ませた。
するとウィキが何か気づいたように口を開いた。
「あのリチャード様、様子が変だったな・・・。
どうやら、かすかに魅了の魔法に掛かってる魔力反応を感じた」
「え?」
みんな、ウィキの言葉に驚いていた。
もしかしてリチャード様は操られているのかしら。
「良く考えてみたら遊び人のリチャードが
1人の女性に心を奪われるなんておかしいわね」
「基本的に女性には平等に優しいリチャード王子の
スーナ殿に対するあの発言も引っかかる」
エリザベス様とジークハルトもリチャードの不審な点に疑問を持った。
「もしかしたらジュディ男爵令嬢が
リチャード様に何か魅了の魔法を仕掛けたのかも」
「そうだとしたら大事件なるな;」
私とウィキは深刻な表情になった。
もし、ジュディが王族を謀って操ろうとしてるなら大変な事件になる。
みんなもそれに気づいて蒼白な表情になった。
「た、大変です・・・!!!」
そこへお城の騎士の伝令がスーナ嬢の部屋に入って来た。
急いできたのか息を切らしている。
「どうしたのですか?」
「お、王妃様が・・・毒を盛られて倒られました!!」
「「「「「「・・・・・!!!!!」」」」」」
思わぬ知らせに一同騒然となった。
真っ青になるリックとエリザベス様。
・・・王妃様に一体何が起こったのだろうか?
私たちは急いで王城に向かう事にした。
つづく
スーナ嬢のモデルは某ビジュアル漫画の主人公のホラー少女ですw
さて、お城では王妃様が毒を盛られたようです。
きな臭くなってきたわね;
何か重大な事が起こっている気がします;
次回に続きます。