第16話:犯人の手掛かりと誘拐目的の謎
<ユーエリア視点>
私、ユーエリア・アークレイとウィキは式神にサーカスの社会見学を任せ
サーカス団員の個人テントを調べる事にしました。
貴族令嬢誘拐の手がかりがあるといいのですが。
ウィキと手分けして個人テント内をいろいろ調べました。
2軍の団員のテントは何も手がかりはなかったので
私とウィキはメインキャストたちのテントをしらみつぶしに探しました。
ハンガーに道化師のフロドの予備の衣装が掛かっています。
フロドの個人テントなのでしょう。
タンスの引き出しを探ってみるととある写真を発見しました。
「・・・この男は?」
フロドらしき少年と若い茶髪の気の良さそうな男性が写っています。
「ノッレからフロドが雇われ団長と言ってたって・・・。
もしかして、この男がパトロンなのかしら?」
写真の男のブローチには牛の顔にナイフがクロスされている
デザインの紋章がある。
そういえばリックにお城からこっそり貴族の紋章の描かれた本を
持ちだしてもらい読ませてもらった事がある。
こいつはバッファロー男爵?
本にその紋章の家の名前が描いてあったわ。
私はこっそり写真をタンスに戻してテントから出ました。
そして、ウィキと合流して写真の事を話しました。
「バッファロー男爵か・・・。
俺も手掛かりを猛獣使いのルルシアのテントから得たぜ。
なんか貴族令嬢の名前ばっかり書かれたリストが見つかった」
サーカス団が犯人と言う可能性が高まりました。
男爵が誘拐を指示してるのかしら?
「それに、リストにお嬢様の名前もあった。狙われているぞ」
「え?」
私も狙われているの?何のために?
「何のために?」
「分からない・・・。だけど、注意した方がいいな。
いつ攫われるか分からない」
「その時はとっちめて犯人を亀甲縛りの刑にしてやるわ!!」
「・・・犯人がかわいそうになってきたな;」
失礼な!!私は悪人には容赦しない性質なのよ!!!
とにかく、式神にテレパシーで連絡して入れ替わる事にした。
(式神はフロドにトイレに忘れ物したと言い訳したらしい)
トイレで待ち合わせして式神を回収してトイレから出た。
みんなの所に戻る途中、黒いフードの男が現れた。
男は目が笑ってない。隙がなさそうな感じがする。ただものではない。
「初めましてユーエリア嬢、遅くなると皆さんが心配しますよ?」
「どうも・・・」
私たちが立ち去ろうとするとフードの男が現れて私を呼び止めた。
「申し遅れました。僕はヤーミと申します。
そういえば『48手の書』という本の作者を御存じですか?」
『48手の書』は私が悪ふざけで書いた出版社に
エッチの体位48通りを図解で解説した本です。
もちろん、あまりに恥ずかしいので偽名で出版しましたが。
「とある貴族の令嬢がその本を書いたと聞きました。
もしかして、貴女が作者なのではないですか?」
「違いますわ」
げっ;なんで、そんな事知ってるの?;;;;
私がポーカーフェイスで違うと言うと
やれやれといった感じでヤーミが口を開いた。
「とあるツテで原本を入手いたしましてね。
筆跡の魔力反応が似ていますね・・・。
王国中探しましたが、今、確信を得ました」
原本って出版社から盗まれたってこの前、連絡があったわね;
もしかしてこいつが盗んだの?
もしかして令嬢たちを誘拐したのもこれが目的?
でも何のために?疑問が残る。
ヤーミは私に近づいてくるとそれを遮るようにウィキがガードした。
「・・・」
「・・・!」
ウィキと目があったのかヤーミが何か気が付いたように足を止めた。
「・・・分が悪いようです。ユーエリア嬢、またお会いしましょう。」
そう言うとヤーミは立ち去った。
なんだったのかしら?
「あいつ俺と同じニオイがした・・・;」
「人間じゃないってこと?」
ウィキと同じように悪魔なのかしら?あいつ。
「少なくとも人間の気配をしてなかったな;
あいつも俺の事気が付いたみたいだし。
俺が居なかったらお嬢様は攫われてたかも;」
「あの黒フードはウィキ並みの力があるって言いたいの?」
・・・普通の人間に比べればウィキは強い、
しかし、同じくらい強い存在がいるなんて;
「・・・分からないが注意した方が良さそうだ」
「分かったわ」
とにかくバッファロー男爵の周辺を調べる必要がありそうね。
さっそく、鳥型の式神を飛ばして
バッファロー男爵の周辺を探ってみる事にした。
式神を飛ばした後、みんなの所に戻った。
「ユーエリア様、おかえりやす。
坊たち、ジャグリングもできるようになっとるで」
見るとみんなはサーカス団員から芸を教えてもらっているようだ。
「ユーエ、見てくれ!三本ピンでできるようになったぞ!」
「私は二本・・・;;」
リックがジャグリングを披露していた。王子なのに芸を学んでどうする;
ノッレは二本しかできないようだ。
「ニッキーおにいちゃん玉乗り上手い」
「そうか?俺ってバランス感覚いいもんなw」
イノーゼにほめられてニッキーは片手で逆立ちになって玉乗りしている。
「僕、それで座禅できる」
「マークス、それ商会の商品のバランスボールみたいじゃん;」
「ダイエットできそうですね;」
マークスがバランスボールみたいに玉に乗って座禅してるのを
ロザンナとキラは呆れていた。
「あんたたち;芸人になりたいの?;」
「はぁ・・・・、なんか気が抜けるな」
「はははは!!!あんさんらがサーカス団に入団したいなら大歓迎やで!!」
ため息をつく私とウィキをよそにフロドは大笑いしながら
みんなを勧誘していた。
「私も来てほしいな。一緒にサーカスやると楽しそうw」
「やろうかな?」
「こらこらこら!!ノッレ!!あなたはうちの従業員でしょ!!」
ミーロの誘いにノッレは迷ってる;;;
私が慌てて止めると「冗談よ」とノッレは笑った。
心臓に悪い;;;
こうして、一通り社会見学が終わるとステージのある
本テントの前に戻って来た。
「みんな楽しかったみたいやな。
あんさんらならいつでもサーカス団に来てええでw
入団も大歓迎や!!」
「いつでもサーカスを見に来てねw待ってるからw」
フロドとミーロがそう言うと手を振って笑顔で見送ってくれた。
見た所、犯人には見えなさそうだけどね・・・;
そんな様子を見ながら私たちは別邸に戻っていった。
帰ってきてから、捜査の結果をみんなに言うとノッレは苦い顔してた。
「ますます疑いが深まったわけね・・・;」
「しかも、私の誘拐を企んでるみたい。
まあ、返り討ちにすればいいだけだけど」
数日間は別邸は厳戒態勢にしないとね;
枕元に武器は置いておくように命令しといた。
3日間は何も動きはなかった。
式神も調べてみたがバッファロー男爵の屋敷内には
誘拐された貴族令嬢たちの影もなかったらしい。
サーカス団のテント内もいなかったし。
いったいどこに令嬢たちを隠してるんだろうか?
そして4日目の夜に事が起こる・・・。
<ノッレ視点>
「眠れないわね・・・」
ミーロたち、サーカス団がユーエを狙ってると聞いて私は悩んでいた。
私はどうしたらいいんだろう?
もし、ミーロが悪事に手を染めてたら止めなくちゃ。
何か理由があるだろうけど、どんな事があっても私はミーロの友達だから。
私がそう決意すると何やらひたひたと誰かが歩く音がした。
「誰だろう?」
私は枕もとの杖を持って部屋の外に出た。
廊下の窓から月明かりが照らしている。
音がする方に向かう・・・。
誰かの気配がする。火属性の気配がする・・・。
まさか、あれは・・・。
と考えていると風の切る音がして誰かが殴りかかって来た。
慌てて杖でガードして避けた。夜目が効いた目で見ると・・・。
「やっぱり、ジャンさん」
「・・・よく俺だって分かったな」
筋肉な身体に入れ墨をしたジャンさんが目の前に立ちふさがった。
「・・・まさか、ミーロたちが忍び込んでるの?」
「まあな。バレた以上は死んでもらう」
信じたくなかったけど、ミーロたちが犯人だったんだ!!
でも、何で誘拐なんかするの?
なんて混乱してるとジャンさんが殴りかかってきた。
必死に避ける私。
狭い廊下だと戦いにくい。
パリン!!
私は窓を蹴破って外に出る。1階だから落ちる心配はないし。
「なんで誘拐なんてしてるの?」
私はジャンさんにそう聞くと苦い顔された。
「こうするしかないんだ・・・」
ジャンさんは息を吸い込むと火を吹いてきた。
無属性魔法の『ガードフィールド』で結界を作り防御した。
「『クラッカーストーン』」
私は石つぶてを魔法で発生させて当てる。
しかし鋼の筋肉を持つジャンさんには効かないようだ。
「『火炎の拳』」
ジャンさんは拳に炎を纏い殴りかかってきた。
結界で防御するも熱い!!『ガードフィールド』が砕けた。
衝撃で飛ばされる。
「『ニードルウエイク』」
目の前に複数の地面の突起を発生させて防御するも
「『フェニックスパンチ』」
不死鳥のようなオーラを纏ったジャンさんが拳で突起を砕いた。
クッキーのように脆く石の柱が砕け散る。
「これで終わりだ」
ジャンさんの拳が私に襲いかかる。
私は防御する暇もなく目をつぶった。
やられる・・・!!!
ガキン!!!
その音に目を開けると青灰色の少年の後ろ姿が見えた。
「リック!!」
「ノッレ、無事か?盾持ってきて正解だったぜ」
リックが盾でジャンさんの拳を防いでくれたようだ。
リックはここ数日、別邸に泊まり込みで
誘拐犯を捕まえるためにここにいるんだった。
「新手か?」
「ノッレの友達だよ!!この誘拐犯!!覚悟しやがれ!!」
リックがジャンさんに向けて剣と盾を構えた。
するとジャンさんは口から火を吹いたので
リックが剣の切っ先を向け水の魔法で相殺する!!
私もその光景を見て杖を構えて覚悟を決めた。
闘うしかない。私は汗が流れ落ちて緊張感を感じていた。
つづく
ついにサーカス団が誘拐のため襲ってきました。
次回はバトルの回になりそうです。