第13話:サーカスに行こう
「あ、遠足に行こう・・・」
私、ユーエリア・アークレイは京都に行こうなノリでそう呟いた。
「『えんそく』って何だ?」
遠足という言葉を聞いたことないのか別邸に遊びに来ていた
リックは不思議そうに聞いてきた。
「遠足って言うのは寺子屋などで学んでいる者たちがどっかに遊びに行く事」
私は大体のニュアンスで説明した。
この世界は学校と言う物が無く、
代わりに寺子屋というものが街にちらほらある程度。
この世界の寺子屋は日本の江戸時代にやってた感じと変わらない。
違いは裕福な商人や貴族の子しか行ってない点だけである。
「まぁ、うちもみんなに教えてる点では寺子屋と変わらないんだしね」
「で、その遠足って奴はどこに行くんだ?」
「それなのよね・・・娯楽がこの国には少ないし;」
リックもそうだよなと頷いた。
この世界には地球のような遊園地もアスレチックな公園も映画館もない;
ここにあるのは文字ばかりの本が置いてある図書館や
(数年の間に全部読みまくった)、
あるのは血沸き肉躍る闘技場や
(かなり血が出るデスマッチらしい。痛そうなのでパス)
古典劇のやる大劇場や
(ウィキがこっそり見に行ったらしいが大根役者ばかりだったらしい)
美術品の置いてある静かな美術館や古い調度品が飾ってある博物館ぐらいだ。
どれも地球の娯楽レベルには程遠く、
どれも行った事のあるものばかりなのでつまらない。
「じゃあ、サーカス行きたい!
この前、店のお客さんが王都にサーカス団が来てるって噂してたし」
「サーカス?」
ノッレはそう提案してきた。この世界にサーカスなんてあったのか;
「サーカスか~おもしろそうだな。
某昆虫をモチーフにしたサーカスみたいに豪華なのかな?」
「へー、そんなのあるんだ?見たい見たい!」
ウィキの言葉にニッキーは興味を示した。
前世にそういうのもあったなシル●・ド・ソ●イユだっけ?
ウィキは封印されてる間、地球の様子を本から観察してた時に見てたのだろう。
「玉乗り、空中ブランコ、ナイフ投げ、楽しみ」
「マークスくんはよく知ってますね」
マークスの物知りさにキラは感心した。
「チラシ貰った」
「おもしろそう」
「サーカスってカラフルなのね。化粧が派手だわ。服もお洒落ね」
「昆虫の恰好じゃないんだな」
どうやらマークスは街でサーカスのチラシをもらったようだ。
マークスはチラシをみんなに見せるとそこにはジャグリングや玉乗りをした
派手な化粧と衣装のサーカス団員のイラストが載ってた。
イノーゼとロザンナはサーカス団員が珍しいのか目を輝かせている。
普通のサーカスっぽい感じにニッキーは少し残念そうだ。
「芸人なんだから派手にしないと見てもらえないからだろ」
「そうだよな、サーカスっていうくらいだから
すっぴんで芸をしてもつまんないし」
リックとニッキーの脳筋コンビが感想を述べた。
「すっぴんは無いわね(笑)とにかく服装がスタイリッシュなのが良いわね」
「そうよね、カッコいいわ特にこの道化師が」
「そういうもんか?俺には分からん。
けど、サーカス自体はおもしろそうだな」
「ニッキー、お洒落、興味ない」
たしかにチラシの道化師は普通のピエロの衣装ではなく
派手なビジュアル系っぽいマジシャンなカッコいい衣装をしている。
チラシのサーカス団員の衣装を褒める
ロザンナとノッレにニッキーは衣装には興味なさそうだ。
サーカス自体には興味を持ってるようだけど。
マークスはそれに少し呆れていた。
「とにかくサーカス団を見に行きたいわ!!ユーエ!!みんなもいい?」
「「「「「賛成」」」」」
ノッレの言葉に満場一致でサーカスを見に行く事になった。
「じゃあ、決まりねサーカスに遠足へ行きましょう」
こうして翌日、チラシのサーカス団を見に行く事にした。
アドバーグやクレアやアンナの使用人たちはお留守番である。
お土産買った方がいいかしら?
サーカスは王都内の外れの巨大な空き地に巨大なテントを張って
公演をおこなっているようだ。
公演を行う本テントの周りにたくさんの小さなテントが点在している。
呼び込み行ったり、
風船を配るサーカス団員がお客さんに愛想良さそうに対応していた。
「はい、かわいいお嬢ちゃん」
「ありがと」
イノーゼはサーカス団員から風船を貰ってうれしそうだ。
さっそく受付のテントで9人分のチケットを買う。
「9名様で13500イエンになります」
ユーエリアが受付にお金を払うと9人分のチケットを
派手なペインティングの受付の団員からもらった。
みんなに配って、いざ、サーカスの本テントへ向かう。
入り口でチケットの半券をスタッフからもぎ取ってもらい中へ入る。
「うわ~広い」
「すげー!!上に空中ブランコの台があるぜ!!」
「高そう」
リックがテントの中のステージの広さに感心し、
ニッキーは空中ブランコの台を指差してはしゃいだ。
マークスはぼんやりとその高さに感心した。
「真ん中がステージなのね」
「あれに乗って芸をするのかしら?」
「はしご?」
ノッレたち女性陣もステージに関心している。
真ん中のステージには色々な形の台があり。
ハシゴも立てかけてあった。あれもショーに使うのだろう。
みんながサーカスのショーに期待をしつつ待っていると
いきなり会場が暗くなった。
そして、スポットライトが照らされて
そこにはチラシと同じ衣装の道化師が現れた。
紫の髪の一つ結びの短いみつあみをしてて、
白塗りの濃いビジュアル系な感じの
目の下に黒い星の形のマークの化粧をしている。
白塗りの顔なので某エアバンドのドラムみたいに見えた。
服も普通のピエロっぽい衣装じゃなくて
エンパイアスタイルの膨らんだ黒いパンツに派手な赤いとがった靴。
白いフリルのついた袖のシャツの上には
赤と白のチェックのベストに緑のリボン、
さらに黒いシルクハットとマントを付けている。
道化師と言うよりやはり衣装は怪しいマジシャンスタイルに見えた。
「れでぃーす・あんど・じぇんとるめーん!!
イケてる紳士、美人な淑女やかわいい女の子や普通の男の殿方、
そしてその他、暇なイケてない非リア充の方々~。
ブルームテンペストサーカスへようこそ!!
あ、ここには猛獣がおるんでモテない非リア充の方々も
リア充のような充実した時間が楽しめまっせw
これぞリア獣wなんちゃって~w
あ、ワイは道化師で団長のフロドといいます~どうぞよろしゅうに~」
と訛った関西弁口調で口上をする道化師がお客さんに手を振っていた。
この世界にもリア充って言葉があったのね;
すると道化師はその場から一歩踏み出そうとするといきなり転んだ。
「なんや?バナナの皮が;いてててて;」
その様子にお客さんが笑う。
なんか、ベタ過ぎる演出ね。
「ごほん。じゃあ、トップバッターは火吹きのジャンの
豪快で華麗な火炎放射でサーカスの始まりや!!!
ジャン!!!」
道化師が火吹き男を呼ぶと
ステージ奥からごおおおおお!!!!!という轟音とともに火が火炎放射され、
そしてオレンジの短髪に上半身裸で刺青の描かれてる筋肉で覆われた男が
現れて口から勢いよくまた火を吹いて場内を沸かせた。
そして次に玉乗りをしてピンをジャグリングして火を吹きまくっている。
皿に片足を上げてバランスを取っている。
「おおおお!!!!」と湧く会場。
「あの巨体でよくバランスが取れるわね(笑)」
「プロだからじゃないか?」
「動きが笑える(笑)」
「・・・どうやってあの肉体を維持してるんですかね?」
火吹き男の足が必死にバランス取って震えているのが笑える。
ウィキは珍しそうにプロの技を見ていた。
さらに口にハシゴを咥えて、その上に数人の団員たちが登って
左右にバランスを取るなどして会場を沸かせた。
その様子にウィキと談義しつつコミカルな芸に笑った。
キラはあの肉体がどうやって維持してるのか興味を示していた。
「次はナイフ投げのガルドや!!!
一撃必中の腕をご覧あれ!!!」
道化師が持っている杖を海賊風の衣装のナイフ投げ師に向けるとその男は
灰色の長い髪をかきあげてナイフを片手に数本持ってポーズを取った。
大きな的に派手なへそ出しの衣装を着た女性が張り付けになって
頭にリンゴを乗せている。
ナイフ投げ師は華麗にアクロバティックをしながら跳びはねてナイフを投げる。
張り付けられた女性の周りギリギリにナイフを命中させて
お客さんをハラハラさせてた。
最後に女性の頭上のリンゴに命中させてポーズを取った。
ポーズが昔のアイドルみたいで古臭い;
「こわかった」
「あれはハラハラさせたわね;」
「芸とは言え、もし当たったらと思って怖かったわ;」
イノーゼはナイフ投げ終わりほっしたのか胸をなでおろしている。
ノッレとロザンナも少し怖かった模様。
「お次は双子の空中ブランコ乗りロビンとデイジー!!
華麗なる空中の乱舞は見事やで~」
ノッレと同じような土色の髪をした羽根のある帽子を被った
幼い男女の双子がキラキラとした
光沢のあるカラフルな水晶が縫い付けているひらひらした衣装で
空中ブランコに乗りながら空を舞っていた。
「おおお!!!すげえ!!!やってみてえ!!」
「やりたい?」
「おう、マークス一緒にやるか?」
「絶対イヤ」
空中ブランコのショーに興奮するニッキー。
対象的にマークスは高所恐怖症なのかきっぱりイヤと怖がっていた。
「次はサーカス団のお姫様ミーロの綱渡りやで~
可憐な姿にメロメロになってや!」
スポットライトが当たり、片方の目が花飾りで覆われて、
ツインテールの亜麻色の髪に銀色のティアラを付けた
ピンクのフリルのついたミニドレスの綺麗な女の子がお辞儀をして現れた。
空中ブランコのあった台に綱が張られてそこにお姫様は登る。
「キレイな女の子ね~憧れるわ」
「ノッレはあんな女の子になりたいのか?」
「そりゃ、かわいい年頃の女の子になりたいわ」
「ああ・・・ノッレはチビだもんな背が;」
バシッ!!
リックの言葉にノッレは軽くしばいた。
涙目のリック。
「デリカシーのない男ね!!」
「叩くことないじゃんか・・・;」
「ふん!!」
機嫌が悪くなったノッレは顔をそむけた。
「なんか最近ノッレもユーエに似てきたような;」
「日ごろの教育の賜物なんじゃない?」
「そんな事まで学ばなくてもいいのに(涙)」
「・・・尻に敷かれる未来しかないのか(涙)」
ユーエリアの言葉にこれから先の自分の扱いに不安を覚える
リックとウィキであった。
そんなこんなで綱渡りのお姫様を見ていると片足を上げたり動きが
バレエ並みに優雅であった。
「綺麗ね・・・」
お姫様にうっとり見とれるノッレ。
どうやらあの女の子のファンになったようだ。
そして綱渡りが終わり最終演目が近付いてきた。
「さあ!!最後はこのサーカスの目玉!!猛獣使いルルシアの登場やで!!」
黒いボンテージ姿のムチを持った
悪役令嬢みたいな長い灰色のドリルな巻き毛のナイスバディな女性と
檻の中に入ったライオンがステージの中央に登場した。
私は猛獣使いの衣装に目を輝かせた。
猛獣使いの足のガーターベルトとタイトな胸が強調された
ボンテージ衣装にくぎ付けになった。
「あの衣装ほしいwwww」
「お嬢様?あれを何に着るんだ?;」
「もちろんプレイをする時に着るに決まってるじゃないw」
「・・・・確かに似合いそうだけど;;;;;(滝汗)」
「プレイって何ですか?」
私は普通の9歳児より年上に見えるらしく胸も膨らんできた。
あれ着ても違和感無いと思うけど。
新たなプレイのオプションにウィキは真っ青な顔をしていた。
キラはプレイの意味が分かっていないようだ。
「このショーにはお客さんにも参加してもらいたいんやけど;
そうやな。そこの銀髪の真っ青な顔をしたお兄さん。こちらへどうぞ!!」
「俺?!!!」
いきなりウィキにスポットライトが当たり道化師に指名されたようだ。
戸惑いつつもステージにウィキは向かった。
「じゃあ、お兄さん、そこの台に横になっておくんなまし~」
と言われたので道化師の指示にしたがって横になるウィキ。
猛獣使いのムチに促され檻の中から猛獣がこちらにやってきた。
しかし、様子が変だ。
「ティガー!ジャンプしてそこを飛び越えなさい!!」
猛獣使いがいくらムチで指示してもライオンは後ずさりして怯えている。
お客さんもざわざわしてどうしたんだ?と不審に思っている。
「ティガー!!ジャンプ!!ジャンプ!!」
ライオンはムチでしばかれても言う事を聞かず涙目になっている。
「・・・・」
「・・・!!(びくっ)がおおおおおんーーーー!!(涙)」
すると、寝っ転がっているウィキと目があったのかびくっと恐怖に震えて、
そのままライオンはテントの奥へ逃げ出してしまった。
会場は唖然となった。
なんで、ライオンはなぜ逃げ出してしまったのか?
あ・・・私は気が付いた。
ウィキの正体は悪魔だった!!!!
だから本能的にライオンは逃げてしまったんだわ;
「えーっと・・・ライオンが逃げてしもうたんで;
ワイが代わりに芸やりますわ;」
慌てたスタッフが道化師にライオンの着ぐるみを渡して
それを道化師は着こんだ。
道化師が代わりに芸を行うようだ。
しぶしぶ道化師にムチを猛獣使いが振る、
道化師はウィキの寝てる台を飛び越えた。
「じゃーーーんっぷ!!がおおおおん!!!」
道化師はライオンの鳴きマネをして芸をした。
「連続火の輪くぐりや!!がおおおおおん!!!」
その後も鳴きマネをしながら火の輪くぐりなどをしていた。
テンポ良く道化師はいくつもの火の輪を潜った。
道化師はライオン並みに運動神経がいいようだ。
お客さんは苦笑いしながら拍手していた。
こうして、最後はサーカスの出演者全員でカーテンコールをして
ショーは幕を閉じた。
サーカスを見終わり私たちはテントを出た。
「おもしろかったね」
イノーゼは外の売店のテントでライオンのぬいぐるみを
買ってもらい嬉しそうだ。
あ、私はアドバーグ達のおみやげにパンフレットや
サーカス団特製クッキーの詰め合わせを買った。
「けど、何でライオンは逃げて行ったのかしら?」
「何でだろ?」
「涙目になってたわね」
「不思議」
「何かに怯えているようでしたけど;」
「ウィキおにいちゃんに怯えていたようだったね」
「ユーエならともかくウィキに怯える要素なんてあるのか?」
みんなはライオンがなぜ逃げたのか疑問に思っていた。
「リック、なんで私ならともかくよ?
私がまるで恐怖の代名詞みたいじゃない!」
「無自覚なんだ;」
「お嬢様は自分の事を良く分かってないな;」
リックとウィキがこそこそ私を見ながら小声で何か言っていた。
失礼だわね!!!
「あ、そうか!!ウィキじゃなくて背後にいる
ユーエに恐怖を感じ取ったんだ!!」
「お嬢様の匂いを俺から感じ取ったのか!なるほど!」
「「「「「「「納得」」」」」」」」」
リックとウィキの推論にみんなはうんうんと納得していた。
こらーーーー!!!!みんな私を見て納得するな!!!
「みんな、しばかれたいの?」
私が冷たい空気で睨むとみんなは真っ青な顔をした。
「「「「「「「いやいやいやいや、そんな事ないです!
勘違いでした!!」」」」」」」
みんなは一斉に首を横に振ってごまかした。
・・・いいけどね;どうせ、私はドSさ;
こうして、サーカス団を見に行った遠足は幕を閉じた。
しかし、これはこれから起こる事件の幕開けでもあった。
つづく
ブルームテンペストサーカス編の始まりですw
某漫画のサーカス団に似てるけどそれとは違うので
突っ込みは勘弁してください;