第93話:国王の勅命で連れ出されるガンツ
<ガンツ視点>
12月24日。
俺はやきもきした気持ちを抱えながら宿屋の番をしていた。
絶対、カミーユの演奏会なんて行かないからな!!
・・・しかし、本当は気になるのは内緒にしておこう;
そんな事を考えつつ、泊まっていた冒険者の客たちが
服をめかし込んで2階から降りてきた。
なんか、白や赤い服が多いな。派手だ。
「なんだ?そんなめかし込んで?
今日は仕事じゃないのか?」
「おやっさん、今日は国王様が決めた
新行事の『クリスマス』の、祭りの日だぜ!!」
「『くりすます』?なんでぇ?栗でも食べる日なのか?」
どうやら王様が祭りを王都中でやってるみたいだ。
栗って季節でもないのにな。
「栗の日じゃねえぜ!!『クリスマス』!!!
今日と明日、『サンタクロース』って奴らが
プレゼントをばらまくらしいぜ!!」
「そうそう、今日はパレードやって
明日はライヴやるらしいぜ」
「4万人入るエリザベス王立公園の特設ステージでやるらしいぜ」
「4万人って事は王都中の奴らが見に来れるじゃねえか!!」
「こいつはすげえ!!」
客たちの話によるとパレードを今日やるらしい。
・・・ライヴってなんだ?
「ライヴって何だ?」
「おやっさん、遅れてるな!!
今時は演奏会の事をライヴっていうらしいぜ!!」
演奏会?なんかどっかで聞いたような;
カミーユの演奏会のことなのか?;
「お?おやっさんも興味あるのかい?」
「そ、そんなんじゃねえよ!!」
「娘さんの夢を反対してるからって
そう邪険にするなよ;
ほれ、これがライヴのチラシだぜ」
チラシを見ると綺麗な4人の少年や青年と1人のえらいべっぴんな女の子が
派手な服着てカッコつけてポーズした写真が印刷してあった。
・・・!!!その中にこの前カミーユと一緒にいたリックって小僧が写ってた。
「なんかこいつらの他にもスペシャルゲストって奴が出るらしいぜ」
「楽しみだなw俺、チケット予約してAブロックの席をゲットしたんだw」
「いいな~お前」
俺が固まっている間にも客はライヴのことについて話してる。
まさか、スペシャルゲストってカミーユのことなのか?;;;
よ、4万人の前で演奏って・・・;;;;
俺は思わぬ出来事に混乱していた。
「ん?なんだ?表が騒がしいな」
「祭りが始まったのか?」
宿屋の前からなんかすげえ騒がしい。
何があったんだ?客も戸惑ってるようだ。
そう思ってると、宿屋の中にすごい豪華な服を着た奴らが入ってきた。
貴族か?それにしてはかなり気品があるような。
「貴殿がカミーユの父上のガンツ殿か?」
「は、はい;そうです」
青灰色の髪をした渋い男が話しかけてきた。
かなりの位の高いオーラに俺はたじろぎしながら答えた。
「私はエンジェルム王国国王、リムニスタ・サムエル・エンジェルムだ。
勅命により貴殿を我々の祭りに同行してもらう」
「「「「「「「えええええええええ!!!!!!」」」」」」」
こ、国王様だって!!!!!!
なんで、そんな偉い人がこの宿屋に来るんだよ!!!
カミーユの事も知ってるみたいだし;;;;
しかも、勅命で祭りに同行って王様と一緒に来いって言ってるのか?
俺と客たちは混乱しまくった。
「し、しかし、宿屋が・・・;」
「宿屋のことは心配しなくてもよい。
従者たちが店番してくれるからな。
では、行こうか」
王様がパチンと指を鳴らすと俺は騎士らしい男たちに
がしっと両腕を持たれて宿屋から連れだされた。
「なああああああああ!!!!!!」
「はっはっはっ!!今日と明日は楽しい2日間になるぞ!!」
楽しい2日間って;俺にとっては肝が冷える2日間になりそうだ;;;
楽しそうな国王様と一緒に超豪華な白い馬車に乗せられてしまった。
「紹介しよう。我が妻と第1王子のリチャードとその婚約者のスーナ殿だ」
「・・・!!!!」
馬車の中には王国の国王一家がいた。
降嫁した第1王女と一番下の第2王子はいないようだけど;
かなりのロイヤルさに俺はびびってしまった。
「ほほほw緊張しなくてもいいのですよw
これはプライベートですので」
「ガンツ殿、今日は祭りですのでリラックスしてください」
「そうですよ。楽しそうにしてください」
王妃様と王子様と王子様の婚約者様にそう言われても
身分が違いすぎて声が出ねえよ!!!!
「今日と明日、2日間。パレードとライヴに参加してもらうぞ。
これは国王としての命令だからな」
「お、王様?なぜ平民の一市民の俺、じゃなくて
私なんかにご命令をしたのでございますか?;;;」
俺は慣れない敬語を使いながら王様に恐る恐る聞いた;;;
なんで雲の上のお人が俺に命令なんかするんだ?;
「息子、第2王子セドリックの頼みでな。
この前、貴殿の宿屋にカミーユ殿と一緒に来たであろう」
「え?王子様とカミーユが一緒に?
・・・・!!!!ま、まさか?!」
国王様の言葉に俺はカミーユの側にいたリックの小僧を思い出した。
まさか、あの小僧が第2王子!!!!!
俺は思わぬ事実に卒倒しそうになった。
「そ、そうとは知らず;お、王子様にご無礼を・・・!!!!」
王子様を腕ずくで宿屋から追い出したことを思い出して
俺は真っ青な顔になった。
へ、平民である俺は王子様になんてことをしてしまったんだ!!!
「そう真っ青な顔をしなくてもよい。
リックもプライベートだったのだ」
「は、はい・・・;;;」
国王様に宥められて俺はほっとした。
う、打ち首になるかと思った;
「それでリックの頼みでガンツ殿を
ライヴに招待しようと思ってな。
ライヴは明日だが今日はパレードもあるし、
せっかくだから2日間クリスマスを楽しんでもらおうと思ってな」
「は、はい・・・;」
ふ、2日間、国王様一家と一緒かよ;;;;;;
俺は人生に味わったことのない緊張に包まれていた。
俺は時折、王様たちと話をぽつりぽつりとしつつも
頭のなか真っ白になりつつ馬車は1番街の大通りに移動していた。
俺たちは国王様の従者や騎士たちに先導されつつ
やぐらの特等席でパレードを見ることになった。
王様たちは王座みてえな豪華なイスに座っている。
俺も宿屋のお金では買うことができなさそうなイスに座らされて
パレードを見させられた。
「街もクリスマスらしく、もみの木に飾られた
天使や星やサンタクロースの人形が綺麗だろう」
「は、はい;;;;」
王様に言われて街を見渡すと所々、木に綺麗な飾りが飾られている。
それらは淡い光を放って街を明るく照らしていた。
すげえ綺麗だ・・・。
俺は見とれていると向こうからパレードの集団がやってきた。
パレードはどうやらサーカス団のようで
普通のサーカスの服とは違って赤い服や帽子を身にまとっていた。
巨大なゾウがカラフルなやぐらを引っ張っていて豪華だった。
「ブルームテンペストサーカス団やで!!!!!!!
今日はサンタクロースとして街のみんなに
プレゼント・フォー・ユーや!!!!」
道化師の男がそう叫んで白い袋の中から
プレゼントを取り出してばらまいている。
どうやらお菓子を街のみんなに配ってるようだ。
アメにチョコにクッキーやカップケーキなどなど、
最近、お菓子もたくさん種類が増えたみたいで街のみんなも話題にしていた。
「あ、お菓子もらっちゃいましたwww」
「僕もチョコをゲットしたよw」
「後で食べましょうねw」
「交換するのもいいなw」
王子様と婚約者様は投げられたお菓子をもらったようで
笑顔になっていた。
「あら、火吹き男のパフォーマンスも行うようですよw」
「おお!!豪快だな!!」
王妃様はパレードの筋肉質な火吹き男を指差した。
火吹き男の口からは炎が吹き出され街の人を驚かせている。
王様も手を叩いて喜んでいた。
「お、火が空中に浮いているぞ」
「降り注いでいるみたいですよw父上」
「綺麗・・・」
「ホントね・・・」
火吹き男の吹き出した火が丸い輝きを放って降り注いでいる。
触ってみると熱くはないようだった。
国王様一家もあまりの火の美しさに見とれてるようだった。
「あ、こんどは双子の空中ブランコ乗りが
芸をするみたいですw」
「あれは風魔法だな。空中に浮いている」
王子様が空中ブランコ乗りの双子を見ていた。
空中に棒が浮いていてそれに捕まって双子が移動しているようだった。
国王様の話によると風魔法で浮いているらしい。
双子の幼い男女の空中ブランコ乗りは縦横無尽に飛び回って
街の人を沸かせた。
「次は綱渡りのお姫様が綱渡りするみたいです」
「パレードの移動やぐらの間を綱渡りするようだな」
「動きが華麗ですわw」
「かわいいw」
白い華のドレスを着た綱渡りの少女が
パレードで動くやぐらの間を綱渡りしていた。
華麗な脚さばきで綱渡りする姿は綺麗だった。
時折、落ちそうなしぐさをしてハラハラして俺は息を呑んだ。
無事渡りきったのを見て俺はホッとした。
「ガンツ殿、そんなに緊張しなくても;」
「いえ;年甲斐もなくハラハラしてしまいました;」
王様に俺のドギマギしてる姿を見られて俺は恥ずかしくなった;;;
偉い人の前だってこと忘れてた;
「あ、ナイフ投げ師がナイフをジャグリングしてますw」
「その間を猛獣使いがダンスしてますよw」
「猛獣もダンスできるのですね;」
「なんかコミカルだな;(笑)」
妙にカッコ付けた灰色のロン毛のナイフ投げ師がジャグリングしている横を
セクシーな巨乳の猛獣使いの女が
ライオンやうさぎなどの獣たちと一緒にダンスしている。
かなり面白いダンスに国王様たちは笑っていた。
一通りパレードは芸をしながら通り過ぎていった。
「ガンツ殿、楽しんでくれましたかな?」
「はい!!すごいパレードでしたね!」
王様にそう言われて俺は素直に楽しめた事を言った。
確かに緊張を上回るほど楽しいパレードだった。
「よし、それなら街に繰り出すぞ!!!
食べ歩きだな!!!」
「そうですわねw祭りの醍醐味ですw」
王様と王妃様がそう言って立ち上がった。
え?食べあるきって王様がしていいものなのか?
「王様が食べ歩きをしていいものなのですか?」
「何を言う!!!美味いものはどの身分でも
祭りで食べ歩きしてもいいのだ!!
国の法律で決めた!!!」
俺が聞くと堂々と食べ歩きしてもいいと王様は言っていた。
いいのだろうか?
「父上、あそこに鳥の串焼きの屋台がありますよ!!」
「綿あめの屋台もあります」
「よし!!順番に周ろう!!」
「楽しみですわねw」
王子様と婚約者様に促されて、
王様はわくわくしながら王妃様と一緒に屋台に向かい始めた。
「ほら、ガンツ殿も行くぞ!!!
お金のことなら心配いらんぞ!!私のおごりだ!!」
「ひ、引っぱらないでください;;;」
俺は王様に手を引かれて屋台の方に連れて行かれた。
俺はこうして王様達とともに祭りを楽しむことになった。
・・・とりあえずは目の前の串焼きの屋台を食べることにしよう。
もうヤケだ!!!!!!!
つづく
国王様一家に気後れしながらもガンツはクリスマスを楽しんでますねw
ガンツの心を溶かすことはできるのでしょうか?
次回に続きますw




