第7話:リック登場!!
私、ユーエリア・アークレイは店舗予定地の廃墟で2人の幼女と出会いました。
ノッレとイノーゼと言うそうです。
少し抵抗されましたが話し合いに持ち込めましたわ。
さてビジネスの話をしましょう。
「じゃあ商売の話でもしましょうか?」
「・・・商売?」
ノッレは訝しげそうに私を見つめた。
疑ってるわね。
「この建物は私が欲しい、代わりに貴方たちを雇います。
衣食住すべて保証で医療費こちら負担で
老後は厚生年金まで付くおまけ付きこれでどう?」
「雇うですって?;あんたまだ子供じゃないのよ!
ってさっきの声といい見た目の年齢とは違うのかも;あなた何者?」
見た目との年齢が違うっていうのもあながち間違いじゃないけどね。
秘密は教えない。
転生者であることはトップシークレットだから秘密。
代わりにポケットからあるものを取り出す。
「ふっふっふっ、この紋どころが目に入らぬか~」
これぞアークレイ伯爵家特製印籠。
父に無理言って作ってもらった。
ちゃんと伯爵家の家紋が入っている印籠を見せる。
父からは作ってもらった時「他にブローチとかでもいいのではないか?」
と突っ込まれたが気にしない。
ちなみに家紋は左右に飾られた松雪草に
真ん中に箱舟と五芒星の形の流れ星のマークになっている。
「・・・それ何?」
「・・・普通平民は貴族の家紋なんてしらないんじゃね?」
「しまったああああ!!!」
ノッレはきょとんとして訝しんでる。
ウィキの突っ込みに今更気が付いて恥ずかしくなって私は頭を抱えた。
「つまり、あんたは貴族のお嬢様って事?」
「そういうこと。私はアークレイ伯爵家の娘よ。で、どうするの?」
「・・・貴族なんて信用できない。
私たち流れ物のことなんて受け入れてくれない。
この国に来てゴミ目で私たちを見る威張り物の集まりじゃないの!!
石投げつけられたのよ!!」
どうやらノッレたちは貴族からヒドイ目に遭ってきたらしい。
選民思想の威張り腐った貴族っているもんね;
平民に優しい良い貴族もいるのに。
「それにイノーゼは貴族の子供だったらしいけど
魔力がないって森の中に捨てられたのよ。
それを私が半年前拾ったの。
子供を捨てるなんて貴族なんてろくでもないわ」
ノッレは悲しそうにイノーゼを見た。
イノーゼは魔法が使えないのかたまに魔盲な子供がいるって聞いたけど。
その貴族、後で調べてみようかしら?
「おねえちゃん、わたしきにしてないよ
それにリックはきぞくだけど
ながれもののわたしたちをうけ入れてくれたよ」
「あいつは特別なの!!」
どうやらノッレとイノーゼは貴族とつながりがあるらしい。
騎士団がここを奪還できない理由の1つかもしれない。
高位の貴族が協力すれば騎士は手出しできない。
だったらなぜこの子らを引き取らないんだろ?
「じゃあリックって奴になんとかしてもらえばいいじゃない?」
「あいつは騎士の息子だから、貴族でも下のほうだからムリ」
「騎士?緑の騎士団と関係ある?」
騎士の息子だったら引き取るのはムリか。
でもきな臭いわね。ホントに騎士の息子なのかしら?
「リックの親がそこの騎士団長の遠縁なの」
ノッレの言葉に納得した。そういうコネがあったわけね、
どうやらからくりが読めた。
扱いに困って本気で攻撃できないんだな騎士団。
しかし騎士団長は公爵のはず、遠縁といえどもそれなりの貴族なのでは?
リックって奴は嘘を言ってるのか?でも、騎士団を牽制できている。
どういうこと?
父に相談して裏を探ってみるか・・・。
父は私と感情で顔を合わせたくないとはいえ
ビジネスライクな事は普通に答えてくれる。
たまにこっそり社交に出かける義母がいない隙に聞きに行ってるのよね。
貴族だからその辺の話は利益になれば話してくれるし。
「私も父上に言って緑の騎士団長とあんたたちの事を交渉してみるから
だから私たちを信じて・・・」
「お嬢様危ない!!」
「『瞬発突剣』」
ウィキが危ないと叫ぶと
横から突風がごとく素早く鋭い剣先が私に襲いかかってくる事に気づいた。
とっさに私はそれを避けた。
「ノッレ、イノーゼ無事か?」
「リック!!」
「リックおにいちゃん!!」
青灰色の髪に琥珀色の瞳の少年が乱入してきた。
私よりも2つか3つ年上のようだ。
この子がリックか。
「おいお前ら2人にこんなことして何すんだよ!!
なんだこれ?風?見えない風が取れねー!!ぐぬうううう!!!」
ノッレとイノーゼを縛ってる風をリックが
力ずくで取ろうとするが戒めは解けない。
「その風の魔法は解けないわよ。自称騎士の息子のリックくん?
緑の騎士団長の遠縁らしいけど怪しいわね」
「(ぎくっ)自称じゃねーーー!!!俺は騎士の息子だ!!」
ふーん、少しびくついてるのは見逃さなかったわよ。怪しい・・・。
「たしか騎士団長はどの色の騎士団も公爵の位につかなくてはならないはず。
ってことはあんたはそれなりの貴族でなくてはならない。
騎士団長の遠縁であっても」
そう、どの色の騎士団も騎士団長はみんな公爵位って国で決まってるのよね。
近づくのは下位貴族では無理。
ヒラの緑の騎士団員は平民なんだからそっちの縁者って名乗ればいいものを。
「・・・騎士団長の恋人の遠縁なんだ」
緑の騎士団長って例の美しき天使と名高いある女性と
社交界で噂になってるらしいって父から聞きだした事がある。
とびっきり身分が高い女性です。だとすると・・・。
「確か緑の騎士団長は独身だったわね。恋人もいるわ。もしかして・・・。
あなたの青灰色の髪・・・肖像画で見た事があるわ・・もしかして、お」
「わーーーー!!!!!!とにかく、ノッレとイノーゼを離せ!!」
誤魔化すように私たちに切り掛かって来るリック。
ひゅんひゅんと風を切る音がする。
当たると痛いので避けさせていただきます。
「なかなか鋭い立ち筋だな~」
「でも、まだまだよね~」
「こらっ!!避けるなっ!!」
修行で鍛えた私とウィキには当たらないわよ。
でも立ち筋があのお方の息子らしく鋭い子供なのになかなかの腕だわ。
「けど・・・甘い!!」
私は斬撃の隙を見てカウンターで殴り掛かった。
少しリックが吹っ飛ぶが持ちこたえた。
「『散雨飛沫』」
水を纏った剣の三段突き攻撃を仕掛けてくるリック。
技の甘さが見えるわね。まだまだ甘い。
私はこの1年ウィキと一緒に剣術VS格闘で訓練したから
この程度の剣筋は見え見えなのよね。
反撃しますか。
「『サンダーボルト』」
電撃がリックを襲った。しびれてるわね。
「わー雷攻撃いやああ!!!」
「貴方の血筋は水属性が多いもんね。ほれ、ほれ、ほれ」
逃げまくるリックに次々と電撃を落とす私。
あなたの家系は代々水属性が多い事は有名なのよ。
属性上、電気は水に弱いし。
魔法には9種類属性があるのよね。
それぞれ反発して弱点にもなるし有効に効く場合もある。
反発する属性は以下の通り。
雷⇔水
氷⇔火(水も氷には劣るが火属性に効く)
風⇔土
光⇔闇
それぞれが属性に対応してるわけ。
ちなみに無属性は治癒と補助が多い。
攻撃魔法もあるけど、どの属性にも普通のダメージしか与えられない。
話がそれた、とにかく魔法は弱点を攻めるに限る。
「ふざけんな!!!っておうっおうっおうっげふっ;」
リックは怒るものの雷の魔法攻撃に華麗な動きで避けている。
半分当たりながらよれよれになってるけど。
「おーほっほっほっ!!楽しいダンスを踊りなさい」
「お嬢様がまたドSになってる;」
「普段もあんな性格なのか?」
「調子乗るとかなり・・・」
ウィキとリックはなぜだか引いている。
私は半眼に冷たく睨んでこう言った。
「あんたたちそんなに電撃食らいたいの?」
「お嬢様、敵はあっちですよ;」
ウィキは慌ててリックを指差す。
「お前!!俺を犠牲にするな」
「御冗談を俺も敵だ『サンダーボルト』」
ウィキも私に合わせて『サンダーボルト』を打ち始めた。
変わり身の早さはさすが私の下僕。
「わああああ!!!!増えたぁああ!!!」
電撃攻撃を喰らいまくるリック。
しかし、腐ってもあのお方の息子。半分以上は避けている。
「ふざけやがって!!!!!必殺!!」
「おい、なんかくるぞ;」
「あら本気が見れるのね」
リックが何やら本気の構えをしている。
必殺技でも出すのかしら?
少し興味があるわね。
私はそれを受ける覚悟をしてその技を見てみる事にした。
「『水龍双牙縛斬!!!』」
私の足元に不思議な模様の円陣が浮きあがり、
リックが上空から斬り下ろしてきた。
下からは2つの流れるような水龍の衝撃波が襲いかかってくる。
「これで終わりだぁああ!!」
「お嬢様!」
「でも、まだまだね不完全よ」
私は上空からの剣を真剣白羽取りして、その剣を力づくで折った。
魔力で身体強化しての力業である。
闘気で地面からの水龍の衝撃波も弾き飛ばした。
リックは唖然として叫んだ。
「なに!!!」
「修行の成果よ」
「ハラハラさせやがって;」
威張る私にウィキはほっとしたようだ。
1年で一通りの武術と魔法を制覇した私はこんなことまでできるようになった。
まさに格闘センスと成長度は某霊界の探偵並みである。
私はリックにニヤリと笑った。
「で、まだやるの?」
「降参だよ。剣が折れたら何もできねー」
「まさかリックが負けるなんて」
「しんじられない」
リックはそう言うとペタリと座り込んだ。
その様子を見てノッレとイノーゼはビックリしていた。
「貴方様にこれ以上攻撃なんて不敬罪になりますもんね殿下」
私はそう言ってリックに対して臣下の礼をしながら跪いて頭を下げた。
「「殿下?!!!」」
ノッレとイノーゼはリックの正体を知らなかったようだ。
正体を明かしてなかったから表立ってリックは行動できなかったようだ。
「このお方はエンジェルム王国第2王子であらせられます。
セドリック・サムエル・エンジェルム殿下でございます」
「王子かよ道理で・・・あの魔力反応が奴に似てるわけだ」
私がリックいえセドリック殿下の正体を明かすと殿下は苦い顔をした。
ノッレとイノーゼはまさか殿下が王子様と思わなかったのか
あんぐりと口を開けていた。
ウィキは王族と知り合いなのか納得していた。
「おうじさま?」
「私たちをだましてたの?」
少し怒りながらノッレは困惑した表情で殿下を見ている。
イノーゼは目を丸くしていた。
「そ、この人はあなたたちが嫌う貴族の親玉の息子」
「騙してたわけじゃない!!ただ、俺は王子だからじゃなくて
ただのリックでいたかったんだ」
私が揶揄して言うと殿下は叫んで騙したわけじゃないと否定した。
「・・・・」
ノッレは黙って殿下を睨んだ。
するとイノーゼはノッレの目を見てこう言った。
「でも、おうじさまでもリックおにいちゃんはおにいちゃんだよね。
もじをおしえてくれたり、ごはんたべされてくれたし、
おねえちゃんはリックおにいちゃんから
ほんをよませてもらってまほうおしえてもらったよね」
「慈善活動はしてたみたいね。
この殿下がその辺の貴族とは違うって
あなたもホントは理解してるんじゃないの?
えっと、ノッレだっけ?許してあげたら?」
私の言葉もフォローするとノッレは殿下に向かって頭を下げた。
「・・・リックいえ殿下、私たちを守ってくれてありがとう」
「ノッレ、こっちこそ騙してゴメン」
どうやら仲直りできたようね。
それを見て私はノッレとイノーゼの風の鎖の魔法を解いた。
空気が和らいてみんな笑顔になった。めでたしめでたし。
ってこっちの用がまだだった。
「で、商売の話だけどこっちにつくの?」
「何の話だ?」
ビジネスの話がまだだった。
殿下は話の途中から入ってきたので要領を得てない。
「わたしたちをあーくれいのおじょうさまがやとってくれるって」
「そういうことか。アークレイの、なるほど」
「私はリックは信じたけど、そこのお嬢様は信じてないわよ」
イノーゼがつたない言葉で説明すると殿下は「ああ」と言って納得した。
私がアークレイ伯爵家の令嬢だと今更ながら分かったらしい。
ノッレはまだ私の事は信用してないらしい。
「う~ん、困ったわね。何を代価にすれば信じてもらえるか。
あなたたちを養うだけじゃ不満?
無理矢理伯爵領へ移住させる事も訳ないのよ」
「貴族はいつも勝手。私たちの意見も聞かずに・・・」
「まあ強制移住は冗談だけど。強制じゃないのよ選択肢はあなたたちにある」
ノッレは貴族を毛嫌いしてる。
まあ貴族にイヤな事されたんだししかたないか。
「貴族なんて嫌いよ」
「嫌だったらここでみじめに暮らす?希望の糸をつっぱねて困るのはあなた。
幼いイノーゼを養う力があなたにある?ないでしょ。
殿下に頼ってもまだ幼いから国王に進言しても断られるわよ」
「うっ;・・・;貴方もリックと同じで幼いでしょ。雇うお金なんて・・・」
「私は個人所有の光属性の魔道石の鉱山持ってて
月1000万イエン以上稼いでるし。
貯金して1億以上の資金もあるし、お金には困ってないわ」
5歳の誕生日に父から強請ってじゃなくてお願いして手にいれた鉱山です。
「・・・・」
ノッレは迷っているようだ。
蜘蛛の糸を掴むのはあなたしだい。
「おねえちゃん、そこのきぞくのおねえちゃんをしんじてもいいとおもう」
「アークレイ伯爵家といえばかなりの名君だと聞いてる。
ノってもいいんじゃないか?
いざとなればそこのお嬢が俺に不敬を働いたってオヤジに進言しても」
イノーゼと殿下の言葉に迷うノッレ。
・・・国王に告げ口とは殿下いい度胸ね。
「なかなか食わせ物ね、殿下?電撃くらっとく?尻に」
「ひっ!!!」
私が手に電撃を発生させるとそれを見た
殿下は真っ青になってお尻を抑えてびびっていた。
「すいませんでした;;;;;;」
「お嬢様ドS~」
殿下は土下座をして謝った。この世界にもジャパニーズ土下座はあるのね。
ウィキはその様子に大笑いしていた。
「とにかく、決めるのはノッレとイノーゼあなたたちよ」
「・・・わかったわ。私たちを雇ってください」
「おねがいします」
ノッレとイノーゼは私に雇われる決意をしたようだ。
私はにっこりと笑った。
「了承しました。そこの殿下も協力者になってもらうわ。
そのほうが信用されるだろうし」
「俺?まあいいけどさ」
「言質を取ったわよ。
もし逆らったら張り付け電撃の刑ね。
陛下にばれないよう従順になるまで隠れて調教するから安心して」
私は殿下を見ながらムチを取りだして構えた。
「・・・・このお嬢怖い」
殿下はぶるぶると震えていた。え~これぐらい軽いと思うけどな。
「ドSなお嬢様に目を付けられたんだ諦めろ殿下。
で、お嬢様、それはイザと言う時の後ろ盾か?」
「さすが私の下僕wさっしがいい」
私は下僕のウィキに向かってにっこりと満面の笑みで微笑んだ。
「褒められているのかいないのか…;」
「もちろん褒めてるわよウィキ」
「・・・なんかうれしくない(涙)」
「お前も被害者なんだな」
ウィキはがくっと肩を落とした。
それを見た殿下に慰められている。
とにかくノッレとイノーゼには伯爵家の他に後ろ盾もとい保護者が必要だし。
共犯者じゃなくて協力者が居れば将来商売も安泰だし。
王族と言うコネができたのでオールオッケー。
無事にコネと店舗ゲット完了。
つづく
新キャラの王子のリックが登場しましたw
ユーエリアの第2の下僕になる予感がします(笑)