No.48 悪意の食卓
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第四十八弾!
今回のお題は「猪」「魔法」「橋」
7/20 お題出される
7/23 別件に追われながらもプロットを考える
7/25 煮詰まる。が、今週はもう時間が無いのでそのまま強行する
7/26 なんとも微妙な作品として完成する
いいのだろうかこれで?
「猪のステーキです」
そういって、給仕は俺の前にクロッシュの乗った皿を出してきた。俺は机に向かい、給仕がクロッシュを空けるのを待つ傍ら、ナプキンを自身の首元に差し込む。
給仕がクロッシュを開けると、そこには真っ白な皿の上に黒々と焼かれた肉と、その上に赤黒いソースがかかり付け合わせの芽キャベツが2つほど置かれていた。
「猪ね。ジビエは初めてなんだけど……寄生虫とか大丈夫なの?」
「ええ、もちろんです。焼き加減はウェルダン。十二分に火を通してございます」
給仕はカタカタと歯をなり合わせて、どこから出ているか分からない声で話す。というのも、給仕の姿はどこからどう見ても骸骨で、ファンタジーに出てくるようなスケルトンが燕尾服に身を包んでいるようにしか見えなかったからだ。
いや、そもそも、ここは何処なのだろう? いかにも高級料理店のような風合いで今食事を俺は取ろうとしているが、30平方メートルほどの大きさのただただ真っ白な正方形の箱のごとき部屋に俺と給仕飲みが居るというこの場所はなんなのだろうか? どうきたか、どう帰るのか、そもそも、どうして食事をしているのかもわからない。
「そう……じゃ、頂こうかな」
俺はそんな疑問を抱きつつもフォークとナイフで猪のステーキを切って口へ運ぶ。弾力のある食感と筋張った肉の食感が濃い目のソースと絡んで美味である。
「……」
「どうされました?」
「え? ああ……いや」
なぜか、二口目を食べようと思えない。何がこんなに疑問を抱かせるのか分からない。ただ、なんとなく……食べたいと思えない。
「……何でもない。御愛想」
「分かりました。それでは、またのお越しを……」
給仕が俺の立ち上がるタイミングに会わせて椅子を引き、俺を部屋の壁の一部へと案内する。すると目の前の壁に切り込みが入り、自動ドアのごとくスライドし、外の風景がそこに現れる。
そこから見えるのは、ただただ広い海の上にこの場所が有り、そこには地平線の果てまで伸びる橋が有るだけであるというだけの光景だった。ここがどこなのか、依然疑問は晴れないが、どういう訳か、俺はそれを疑問に思わない。会計をすることもなく、俺はその場所を後にした。
そんな夢を見た。それが先日の話。いや、正確には覚えていない。昨日だったか、一昨日だったか、それとも先週か、明日だったか? ともかく、ここ数日はそんな夢ばかり見ている。同じ夢だ。
「猪のステーキです」
そういって、給仕は俺の前にクロッシュの乗った皿を出してきた。俺は机に向かい、給仕がクロッシュを空けるのを待つ傍ら、ナプキンを自身の首元に差し込む。
給仕がクロッシュを開けると、そこには真っ白な皿の上に黒々と焼かれた肉と、その上に赤黒いソースがかかり付け合わせの芽キャベツが2つほど置かれていた。
「猪ね。ジビエは初めてなんだけど……寄生虫とか大丈夫なの?」
「ええ、もちろんです。焼き加減はウェルダン。十二分に火を通してございます」
給仕はカタカタと歯をなり合わせて、どこから出ているか分からない声で話す。というのも、給仕の姿はどこからどう見ても骸骨で、ファンタジーに出てくるようなスケルトンが燕尾服に身を包んでいるようにしか見えなかったからだ。
「そう……じゃ、頂こうかな」
俺は様々な疑問を抱きつつもフォークとナイフで猪のステーキを切って口へ運ぶ。弾力のある食感と筋張った肉の食感が濃い目のソースと絡んで美味である。
「……」
「どうされました?」
「え? ああ……いや」
なぜか、二口目を食べようと思えない。何がこんなに疑問を抱かせるのか分からない。ただ、なんとなく……食べたいと思えない。
「……何でもない。御愛想」
「分かりました。それでは、またのお越しを……」
給仕が俺の立ち上がるタイミングに会わせて椅子を引き、俺を部屋の壁の一部へと案内する。すると目の前の壁に切り込みが入り、自動ドアのごとくスライドし、外の風景がそこに現れる。
そこから見えるのは、ただただ広い海の上にこの場所が有り、そこには地平線の果てまで伸びる橋が有るだけであるというだけの光景だった。ここがどこなのか、依然疑問は晴れないが、どういう訳か、俺はそれを疑問に思わない。会計をすることもなく、俺はその場所を後にした。
そして、今一度繰り返す夢。次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。繰り返し、繰り返し、繰り返し……
「猪のステーキです」
「猪ね。ジビエは初めてなんだけど……寄生虫とか大丈夫なの?」
「ええ、もちろんです。焼き加減はウェルダン。十二分に火を通してございます」
「そう……じゃ、頂こうかな」
俺は色々な物を抱きつつもフォークとナイフで猪のステーキを切って口へ運ぶ……前に手を止めた。
「……」
「どうされました?」
「え? ああ……いや」
なぜか、食べようと思えない。いや、そうじゃない。食べなければどうなるのか、それが疑問だった。いやいや、そもそも、様々な疑問しかないこの夢は何のか……
「……効いても良いだろうか?」
「何でしょうか?」
「俺は、この店に来るのは初めてかい?」
給仕は少し黙ったあとゆっくりと喋る。
「お客様がここに何度か来られている、とそう考えられるのでしたら、おそらくそうなのでしょう」
「そう言う物か? いや、そうじゃなくて……よくわからないんだが……」
給仕は俺の後ろに回り込み、優しげな声色で言う。
「お疲れなのでしょう。本日は食事はこの程度にしてお休みください」
「え? あ、ああ、うん」
給仕が俺の立ち上がるタイミングに会わせて椅子を引き、俺を部屋の壁の一部へと案内する。いつもの出口だ。
やはりそこから見えるのは、ただただ広い海の上にこの場所が有り、そこには地平線の果てまで伸びる橋が有るだけであるというだけの光景だった。ここがどこなのか、依然疑問は晴れない。だがもう疑問に思わない事はなくなってきた。会計をすることは給仕に断られ、俺はその場所を後にした。
なにか、意味が有るはずなのだが、意味が浮かばない。なんだろうか?
そんなことを思いつつ朝起床し、仕事へ向かう。そう言えば、最近食欲が無い。夢で食べているからだろうか? いや、微かに胃痛もする。きっと仕事のストレスのせいだろう。俺はそう思うことにした。
「猪のステーキです」
そういって、給仕は俺の前にクロッシュの乗った皿を出してきた。俺は机に向かいつつも、給仕がクロッシュを開けるのを制止した。
「待ってくれ」
「なんでしょう?」
「……どうして、この料理しか出ないんだ?」
給仕は少し待った後、黙ってクロッシュを開けた。給仕がクロッシュを開けると、そこには真っ白な皿の上に黒々と焼かれた肉と、その上に赤黒いソースがかかり付け合わせの芽キャベツが2つほど置かれていた。
「この夢は何を表しているんだ?」
「どうぞ、お召し上がりを」
給仕はカタカタと歯をなり合わせて、どこから出ているか分からない声で話す。
「待て、待ってくれ。俺は今どうなってるんだ? どうしてこの夢ばかり見る? そもそも、どうしてこんなところで食事をしている? ここは何処だ?」
給仕はその虚の眼窩で俺を見て、そして淡々と言う。
「……先ほどあなたが申されましたように、ここは夢です」
「夢?」
「ええ、偉大なる方が見ておられる夢の一部です」
「その夢の中に俺が出てきて、俺が猪のステーキを食べる。それがその偉大な方の夢?」
給仕は頷きながら答える。
「ここで食べている猪のステーキは、猪のステーキではありません。もっと分かりやすいビジョンにしましょうか?」
そう言って今一度、クロッシュで猪のステーキを隠し、そして開けなおすと、そこにはグロテスクな物が置かれていた。なんだかすぐには分からなかったが、寒気のするそれがなんなのか、直感的に脳みそが感じ取った。
「これは……内臓か? なんの? もしかして、人の、か?」
給仕の筋肉も皮も無い顔が笑ったように見えた。
「然様です。あなたの、胃です」
「お、俺の?」
真っ白な皿の上に置かれているのは血まみれの胃袋。その傍には歯が2つ置いてある。
「偉大なる方は食物である人間で、あなた方で遊んでおられるのです。あなたが、いえ、複数人の人類に試してみて、そのうち何人が、この行いに抗うか……自らの胃が病魔に蝕まれるのを、そう自分の脳が告げるのを、何人の人間が『所詮は夢だ』で済ませるか……ここはあの方の魔術で作り出された空間です」
魔術? 偉大なる方? ……食物である人間? なんだ、どういうことだ?
俺は自分の胃のあたりをまさぐった。そう言えば、ここ数日は胃の不調を確かに感じていたが……
給仕が言う。
「さあ……じゃ、頂いてください」
給仕が俺の後ろに立って、椅子から立てないように抑え込む。
「い、いやだ……これは、俺の胃なんだろう? 俺は、俺は何の病気なんだ? どうして俺なんだ?」
俺のそんな叫びに似た抗議を無視しつつ、給仕は俺の後ろから、フォークとナイフで猪のステーキを切って俺の口元へ運ぶ。ナイフが皿の上の胃を切るために前後に引かれるたびに、体の中から錐で貫かれるような激痛が走る。そして給仕は、まるで親が子供に食べさせるかのように、俺に食べるように催促をする。血まみれの、グロテスクな肉の塊はかすかに痙攣し、どす黒い血を吹きだしている。
「……」
「どうされました?」
「い、嫌だ。俺は、俺は……」
こんなものだと知っていたなら、俺は食べたりしなかった。誰が好き好んで自分の胃を切り刻んで、自分で食べるものか。
全力で口をずらし、逃げる俺に対して、給仕はあっさりと引いた。
「そうですか……食べませんか。いえ、良いでしょう」
「い、良いのか? お、俺を解放してくれ。頼む。俺は……」
給仕は俺の椅子を引く。俺が椅子に乗っていても難なく引くことができる点、やはり力では勝てそうにない。俺は即座に転げるように椅子から、給仕から距離を取った。
「では、お勘定を」
「ま、待て、俺は今日食べてないぞ!」
そんな俺の発言を無視して、給仕は俺を出口の前に誘う。俺はすごすごとそれについて行く。
給仕が言う。
「いえ、今までは『偉大なる方のシナリオに沿っていた』ので、あの方も満足をされていました。しかし、もうそのシナリオから外れてしまいました。それはあの方の望みではありません」
「つ、つまり……?」
「自分で選ばれたことの代金を、払っていただきたく」
「ふざけるな! そ、そんな……勝手にそっちが呼んだんだろうが! それで、思った通りにならなければ、だなんて……理不尽にもほどが有るだろうが!」
給仕は少し首を傾げた後に、坦々と優しい声色で言う。
「何か、勘違いされているようですね……」
その骸骨は子供に言い聞かせるように俺に言う。
「あなたは、家畜の牛や狩猟の猪を選ぶことに『そろそろ食べ時』以上の意味を持ちますか? 対象の肉を食う事を『私は何と理不尽な事をしているのだ』と思いますか? あなたは、いえ、人類は……人類が飼育されて捕食されることが無いなどと、誰が決めたのですか?」
俺は、給仕から距離を取るように後ずさりした。本能的に、距離を取ろうと思った。いや、それ以前にこれは夢だ。夢なのだ。夢から覚めなければ。夢から覚めるにはどうしたらいいんだ? どうしたらこの悪夢から逃げれる?
と、給仕に背中を向けて逃げ出そうとした俺は、目の前に現れた存在に目を奪われた。
背後で給仕が言う。
「ああ、これはこれは……よくぞいらっしゃいました。この人間は食べごろですよ、我らが偉大なるお方……」
俺だ。俺が居る。いや、“これ”は俺じゃない。一目で人の認識外から来た存在だと感じ取れた。背筋を悪寒が走るのを、喉元まで鉄臭いにおいが上がってくるのを感じた。
その怪物は手に誰か見た事の無い人間を、首を持つ形でぶら下げている。持たれている人間は顔がうっ血し、目が飛び出しつつある。もがき、必死に手から逃れようとしているが逃げられそうにない。ただ、ひゅーひゅーと呼吸の、息が抜ける音だけがする。
俺の姿をしているが、顔が無い。顔が有るべき場所には縦に大きく唇が、額から顎まで伸びている。それが左右によだれで糸を引きながら開く。中から黄色い色の歯が覗き、その口の奥に、猪の頭が入っている。いや、正確には猪の頭をした人の胎児が入っている。その猪と目が合った。
猪が言う。そのしわがれた耳に残る音で、骨に響く声で言う。
「食え。喰え。その次は、お前だ……」
そして、手に持っていた人間の頭をそのまま噛み砕いた。噛み砕かれた人間の涙ぐんだ目線が、俺と合った……
俺は目が覚めた。午前3時46分、月曜の深夜。激しい胃痛と共に目が覚めた。体をねじって激痛に耐えながら、必死に携帯を取って救急車を呼んだ。
医者曰く、胃癌だったらしい。だが、かなり早期の発見で、ここまで痛むことは無いはずだ、ということで、緊急入院。食事は難なくとれるとのことであったが、俺は一切の食事を拒否した。
今も頭に響く、あの猪頭の退治を口の中に入れたあの怪物の声。
「食え。喰え。その次は、お前だ……」
あれは……そういう意味なのだろうか? それとも、このまま病死することで、奴は俺を食べるのだろうか? どちらか分からないが、俺は以来、何か物を食べるのを拒否している。胃に物を入れるのも、腸に管を繋ぐことも拒否した。点滴でのみの栄養摂取をしているが、着々と衰弱していっている。そのうち、俺は衰弱死するだろう。俺は体力も少なく、ただ寝ることにすら恐怖を抱きながら、眠ることを拒否しながらうたた寝を繰り返していた。
ただ、恐怖だけが俺を取り巻いていた。
気が付くと俺は暗がりの中に居た。俺は自分が居る場所が電車のように揺られていることに気付いた。なんだ? ここはどこだ? また夢なのか?
「猪のステーキです」
あの給仕の声がし、唐突に視界に光が差し込んだ。目の前に居る人間が、フォークとナイフを持って、皿の上に乗った俺を見ながら唾を飲み込んだ。
解説を入れますと
人間を捕食する得体のしれない存在が、暇を持て余したので人間で遊んでみることにした
という理不尽な全容です
食べ物で遊んではいけません
ただ暴虐なるただ人間への善意の欠片も無い存在に人間が振り回され
次にその被害にあうのは誰か分からない
それどころか、今被害に会っていても夢を忘れる人間も多い……
実は、すでに食われる直前まで来ているかもしれない……
そんなホラーとして伝わりましたら成功でありますw
ここまでお読みいただき ありがとうございました
追記
なぜかNo.47とPVの表れかたに類似性が有りますね……