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元の場所には戻せない

作者: 七薫

 慶応(けいおう)四年、沖田総司は療養のため大阪で幕医である松本良順に匿われていた。

「こんなところで、なにをしているんでしょうねぇ・・・・・・」

僕は剣だ。

新撰組と共にあり、近藤さんを守らなければいけないのに、体が思うように動かない。

「何を言っている、再び新撰組へ復帰するために、療養しているんじゃないか」

良順先生は、そう言って微笑んだ。

でも、僕は知っている・・・・・・この病気は、この死病だけは、どれだけ療養したって治らないということ。

僕の命が残りわずかであること。

「みんなは、近藤さん、は元気でしょうか」

沖田は知らない。

近藤勇は、新政府軍に捕縛され、板橋にて斬首された事実を。

最期は武士らしく切腹すらさせてもらえなかったことを。

「ああ、新撰組だったものたちは北へ奔走しているらしい、彼らはまだ諦めてはいないらしい」

「そっか・・・・・・僕も、早く戻らなくちゃ・・・・・・」

喋るたびに、空咳が出て、息を吸うたびにヒューヒューと喉が鳴る。

「ゴホッ・・・・・・ゲホッゲホッ・・・・・・・ガハッ」

吐くたびにどんどんとどす黒くなっていく気がする血。

「沖田くん!!大丈夫かい!!」

良順先生が駆け寄ってきて、僕の体を横にして背中をさする。

その手の温もりに、少しだけ咳が落ち着いた。

「ゴホッ・・・・・・大丈夫、大丈夫ですから・・・・・・」

情けない。これが、新撰組一番組組長、沖田総司か・・・・・・

一人で立つこともままならい今の僕。

これじゃあ、近藤さんを守るなんて、出来っこないじゃないか・・・・・・。


(「総司、調子はどうだ」


土方さんが見舞いに来たとき、新選組が今どんな状態にあるかを教えてくれた。

そして、土方さんは北へ向かうと言っていた。僕のいない間に、新選組は大きく変わっていた。


「新選組はこれから名前を甲陽鎮撫隊(こうようちんぶたい)と名を改め、甲府城に向かう」


佐之さんも、新八さんも離隊して、一くんも会津に残って戦うと。

「ねえ土方さん、新選組はもうなくなってしまうんですね・・・・・・・」

そういったら、随分と土方さんに怒られたのを覚えている。


「馬鹿野郎!新選組は無くならねえよ。これから先、例え名前が変わろうが、時代が変わろうが、おれたちが新選組であることは、何一つ変わらねえ。どんなに離れた場所で戦っていようが、俺たちは誠の旗の下で繋がってんだ、それを忘れんじゃねえぞ」)


そう言って、土方さんは大阪を離れた。


「ふふっ」


誠の旗の下で繋がっている。

僕らは、どんなに離れたって、新撰組であることはかわらない。


「どうしたんだい、突然」

「土方さんが来た時のことを思い出したんです。ずっとここに隔離されてみんなに置いてかれて、僕は孤独だと思っていました。でも、土方さんがそうじゃないって教えてくれたんです。新選組は、時代の流れが変わったからって無くなるような脆い組織じゃぁないんです。だって、今指揮をとってるのは、あの鬼副長ですよ?それが、なんだか嬉しかったんです・・・・・・」


もうすぐ僕は死ぬ。

だから、少しでもこの世との繋がりがほしかった。


「先生、すこし疲れたので寝ます。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」



このまま、沖田総司は目を覚ますことはなかった。

近藤勇が斬首されてから二ヶ月後、

とても穏やかな顔で、苦しむことなく息を引き取ったのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 感想じゃなくてすいません。 あらすじに「池田屋で吐血」とありましたが吐血は消火器からの出血なので、肺結核なら喀血が正確です
[良い点] この小説、昔のと少し似ているので… [一言] あなたは、沖田総司の生まれ変わりですか?
[良い点] 新撰組に思い入れあり、拝見しました。鈴木三樹三郎(9番隊)をして「人間じゃない」とまで言われた沖田、最期は迷い猫が斬れないほどに衰えた自分を嘆いていた、と言いますが、彼はあくまで「新撰組の…
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