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いろ、色、イロ 13

「チンチロリン、ですか? ……分かりました、すぐに用意します」


 柳は後から入ってきた黒服の男に眼で合図をする。男は無言で頷き、会場へと戻っていった。

 仕切りカーテンの向こうからは、断続的に歓声が聞こえてくる。

 頭上のシャンデリアをぼうっと眺めていると、ポケットの中で携帯が震えた。一回、二回。二回震えたところで携帯は沈黙する。ミドリと話が終わったという合図だ。

 

「こっちもさっさと終わらせるとしますかね」


「何か言いましたか?」


「いんや、なーんにも」


 連絡を返すまでは柳や手下の黒服に見つからないよう柚羽に言ってある。しっかり者の彼女のことだから、上手くミドリを隠しているだろう。

 ほどなくして、ウェイターと黒服が入ってきた。グラスを置いたウェイターはすぐに去っていく。黒服は台に白い陶器のどんぶりとサイコロを三個置くと、部屋からは出ず、壁際に下がった。

 

「親はどうやって決めましょう?」


 柳は霧夜の正面、ディーラーの定位置に立つ。


「サイコロを振ればいいでしょう。あとは出目に関係なく交互で。ところで、勝負をする前に確認したいんだけど、俺が負けたら情報を渡す。じゃあ俺が勝ったら何を貰えるんですかね?」


 サイコロをいじり手触りを確かめながら、含みのある視線を送る。


「私が用意できるものであれば何でも。ですが、山神さんは今宵負けが込んでいる様子。やはりこちらがよろしいのでは?」


 そう言って柳は台の下から“1”のチップを五枚取り出した。五百万円賭けるということらしい。


「ええ、じゃあそれでお願いします」


 こうして、ポーカーの台の上でチンチロリンをするといういささか奇妙な勝負が始まった。

 まずサイコロ一個を一回ずつ振って親を決める。霧夜が四、柳が三で出目の大きい霧夜が親になった。

 チンチロリンはサイコロ三個を最大三回どんぶりの中に投げ入れ、出た目によって勝ち負けが決まる。このとき一個でもサイコロがどんぶりから出てしまうと、しょんべんといって即負けとなるので注意が必要だ。


「何が出るかな、っと」


 ころんころんころんと、どんぶりの中でサイコロどうしがぶつかり合って止まる。出目は一一一。


「おっ、ピンゾロのアラシ! 俺の勝ちですね」


「え、ええ、おめでとうございます」


 柳は引きつった笑みを浮かべながら、霧夜の手元にチップを十五枚置く。同じ目が三つ揃うことをアラシといい、無条件で三倍の勝ちとなる。つまり霧夜はサイコロ一振りで千五百万円を手にしたということだ。


「では次は私が親ですね」


 柳が手の中でサイコロを振り、どんぶりに投げ入れる。一三四。二回目、二四六。三回目、五五二。

 三個のうち同じ数字が二つ出たときの残りの一つの数字が持ち目となるので、柳の持ち目は二だ。子の霧夜は、この数字よりも大きな持ち目を出せばいい。


「よーし、いけっ」


 出た目は二二五。霧夜の勝ちである。五枚のチップが追加され、二十枚となる。


「いやぁ、ついてるなー」


「は、はははっ、お強いですね」 


「まぐれですよ、まぐれ。次はどうなることか」


 わしわしと頭を掻き、霧夜はサイコロを振った。

 会話はほとんどなく、サイコロとどんぶりがぶつかる音だけが部屋に響く。

 親を十回ずつ終えたところで、霧夜の手元にはチップが山積みになっていた。霧夜はほくほくの笑顔である。なにせチップは百五十枚、一億五千万円分もあるのだ。

 対する柳は、もう一片の笑みも浮かべておらず、苛立ちが限界に達しているようだった。顔を真っ赤にして、額には汗で前髪が張り付いている。それもそのはず、彼は一度も勝っていないのだ。 

 実は霧夜は、サイコロの目を自由に出せる特技を持っている。だが、交代で親をやる以上、何回か負ける覚悟はしていた。霧夜が最初にやったように即勝ちの役が出る可能性があるからだ。しかし、彼が役をだすことはなかった。いや、正確には一度だけ出した。一二三ヒフミという即負けの役を。

 おそろしく弱い相手だったが、とにかく次の段階へ移る準備は整った。霧夜はポケットに手を入れ、手探りで柚羽の携帯にかけた。携帯を耳に当てて聞くわけにもいかないため、こちらからのコール回数は決めていない。


「俺ばっかり勝っちゃって、何か悪いですねえ。でも勝負ですから仕方ありませんよね」


 打ち合わせ通りすぐにミドリが来るだろう。


「そろそろ帰ろうかと思うんですけど、いいですか?」


「山神さん、勝ち逃げはずるくありませんか?」


「うーん、でももう俺お腹もいっぱいだし」


 山積みのチップを見ながら霧夜は立ち上がって台から離れる。


「そうだ、次はポーカーでもしま――」


 どうしても霧夜を帰したくない柳が、必死の形相で追ってくる。あと少しで霧夜の腕を掴むというとき、仕切りのカーテンが勢いよく開いた。アタッシュケースを持った黒髪の女性が、ヒールの音を響かせ、堂々とした足取りで入ってくる。


「柳さん! 約束通り来ました。さあ、取引を始めましょう」


 

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