表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Spica  作者: 新良瀬 むすび
1/2

プロローグ

あなたは、見つけたの? ほんとうの、願いごと

『さよならピアノソナタ/蛯沢真冬』著:杉井 光



「ねえ、見える? あれが、スピカだよ」

 冬の寒気がまだ残る屋上で、彼女は無邪気に細い指を宙に向けた。薄桃色のパジャマと対比するかのような青白い肌からは一層血の気が見えないのに、彼女は俺の手を引いて空に舞叩く煌めきを一つずつ口ずさむ。

「もう、せっかく抜け出してきたんだから楽しもうよ? ほら、あれが北斗七星で……」

 布地の薄い俺のコートを引っ張る彼女の手はどこか嬉々としていたのに、俺は彼女に笑みひとつ向けることが出来ずにいた。それは、彼女を知ってからずっとだったのかもしれない。こうして彼女はいつも俺に星のきらめきに負けないくらいの笑顔を見せてくれているのに、俺には何もできることがないという自虐心に狩られそうになる。

「ねえ。ねえってば――」

 彼女が屋上の錆びついた柵に手をついたところで、俺に好奇心にあふれた子供のような声を出しているのに気付いた頃には、俺は彼女の薄い体を抱きしめていた。彼女は弾んだ声を閉じ込めて、機微に震えている俺の肩に優しく指を掛ける。彼女の顔や痛んだ長い髪は俺の胸元にすっぽりと収まって、肉付きのない体は抱きしめている気がしなかった。

「まったく、早乙女くんは甘えん坊だなあ……えへへ」

 その後、俺は彼女の気が済むまで星を追いかけ、星の名前を憶え、そして同時に彼女に残った微かな温もりを肌に刻み付けるように、彼女の傍にいた。大切な記憶は時に人の心を締め付けて、一生についてくるということを聞いたことがあったけれど、その通りに彼女の名前は今も胸から離れようとしない。

 たった数週間の間に、俺たちは一生分の恋をした。星の名前からすべてが始まり、君が俺を追いかけ、俺もいつしか君を追いかけるようになった。お互いに星の名前を持った俺たちはまるではじめから決まっていたかのようにお互いを追いかけあって、そしてひたすらに好きになっていった。

 そしてやがて、君は俺の前から姿を消した。星の名前を借りた翼が、輝きの向こうに旅立っていったかのように。


短期連載、上下で話が終わります。

2年前に也屋さんから頂いたベースの作品を個人的に練り直して作品にしました。この場ではありますが原案の提供をして頂いた也屋さんに御礼申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ