表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

つづきのはなし

やっと完結いたしました。

遅くなりすみません。




手から都で買った荷物が落ちて行くのも構わず呆然と立ち上がる炎を見つめる一人の男。



「大変だ!! 先の戦で負けた落武者共が村を襲って火を放っているらしい! お前も早く逃げた方が良いぞ!」


そう言って荷物を抱えて逃げていく男衆の後ろ姿を見ることなく必死に自分の家へと急ぐ。

こんな日に限って……そう思わずにはいられなかった。



外部との連絡を取るために都へと村を代表して男が出掛けた日だった。

烏森を始めとする山々に囲まれ、外部の敵から村を守ってくれていた山々を、歩きやすくしたいが為、全ては人間の為に森を切り崩したり、多くの動物を狩った為にに森は侵入者を拒むことが出来なくなっていた。

そうして恐れていたことが実際に今日起こってしまった。


(何故よりによって今日なんだ……!!)


苛立ちよりも不安の方が大きい。

それは烏森の麓にある自分の家、いや自分と年老いた母親が住んでいる家のことが村の自分がいる位置からは全く様子が分からないからだった。

死んだ自分の父親が唯一遺していったその家と今でも父を想い、女手一つで自分をここまで育ててくれた母親、それ以上に大事なものなど男には無かった。



「母さんっ!! 無事か!!?」


そう言って扉を開けた男の目に飛び込んで来たのは、血にまみれた母親の姿。


「――母さん!!」


涙で前が見えなくなっている男は必死に母親の名を呼ぶ。


「母さん!!」


「……うるさいね、そんなに耳元で騒がないでおくれ。耳が遠くなった覚えはないよ」


憎まれ口を叩きながらも、その唇は色を失っていて大変痛々しい。



心配そうに己を見やる男を愛おしそうに見つめる母親。

慈愛に満ちた瞳が揺れている。


「そんなことよりも早く逃げなさい。奴らはもうとっくにここを出て行ったかもしれないけれど、また戻ってくるかもしれない。ここにいるのは死に損ないの老いぼれだけで十分だよ」


「母さん! 何を言っているんだ!!」


「奴らからこの家を守ろうとして受けたこの傷……もう駄目だってことぐらい自分が一番分かっているさ、だから」


そう言って男の手を握り締める。

冷たく震えている母親の手が痛い程に食い込んでいるが、その手を振り払ったら母が消えてしまいそうで、そのまま自分からも握り返した。


「あんたは私とあの人の子……何よりも大事な宝物だ。あんたが逃げられれば私は幸せだよ……さぁ、早く行きなさい」



尚も男が言い寄ろうとした時、戸口から下卑た笑い声がした。

その声を聞いた瞬間、母親はどこにそんな力があったのかというほど強い力で隠し戸を開け、外へと通じる隠し通路へ男を押し込んだ。


「――!? 母さん!!」


母親の魂胆に気付いて男が叫ぶが時既に遅し、完全に扉は閉まってしまった。

必死に母親の名前を呼ぶが、その決意は変わらない。



「大きい声を出すんじゃないよ! ――いいかい、幸せに生きておくれ。それが最後の親孝行だよ……さ、早く山へ行きなさい。少しだけしか時間は稼げないから」


そして荷物を移動させる音がして、母親が扉を家具で隠してしまったらしい。

これで完全に家の様子が分からなくなってしまった。

最悪なことが立て続けに起きてもう何がなんだか分からなくなっていたが、暗闇の中をただ愛するたった一人の家族の為だけに走った。



通路の出口は巨大な梅の木がある山の麓だった。

ヨロヨロとしながらも重い体を引きずって振り返ってみれば、大きな火に包まれ変わり果てた村の姿、そして――音を立てて燃える父さんの居た、母さんの居る、自分の大切な場所。

梅の木に手を置きながら崩れ落ちる。

膝が笑って立っていることなどもう出来なかった。

嘘だ、と呟きながらも男の目からは止めどなく涙が溢れ、木の根元に小さな水溜まりを作っていく。


(――燃えている)


大切なものは全て無くなってしまった。

まだ何も恩返し出来ていないのに。

まだ何も伝えられていないのに。

瓦礫と化していく景色。

それと同時に、男の生きる意味も希望も無くなってしまったようで。



男の絶叫が山々に木霊した。




『――愛しき人の子よ、何故お前が泣く』


唐突に耳元で声がして驚いて振り返ってみれば、黒く輝く鱗を全身に纏った一匹の巨大な蛇が自分を見下ろしていた。


『お前が泣くと、吾輩も悲しい――人の子よ、何故お前は泣く?』



「――母が!! 母がまだあの家の中にいるんだ! 頼む。何の神様でもいい、母さんを助けてくれ!!」


驚きに固まっていた男だったが、藁にも縋る気持ちで目の前の黒蛇に嘆願した。

その必死さに少し戸惑いながらも指を指された方を見た黒蛇がその瞳をスッと細くした。


『――吾輩の愛した人間の住む屋敷が燃えているではないか……すまぬ人の子よ、少しお前の頭の中を覗かせて貰うぞ』


言うが早いか目の前から黒蛇の姿が消え、代わりに何かが頭の中に入ってくる感覚がした。


「――あ、あああ……」



『――成程。……やはり人間はおもしろき事をする』


そう呟いた黒蛇のその目には剣呑な光が灯っていた。



そして、頭の中のモノが消えた感覚がして辺りを見渡してみれば、既に黒蛇の姿は無かった。




  *  *  *




「大漁だったなー」


「ああ、全くだ。こんなに簡単に儲かるんだったら、こっちを本職にしたいくらいだぜ」


「寧ろ、もうこっちの方を本職にしちまっていいんじゃねーか? もう戻るところも無いわけだしよ」


「そうするかー?」


下卑た笑い声と共に歩いてきたのは四人の変わった髪型をして鎧を着た男達。

背負っている袋にはこれでもかと、村を襲って奪った盗品が詰められている。



「――それにしても全部燃やしちまってよかったのかよ。俺らが住めばよかったんじゃ……」


「バカ野郎。だからお前は『脳筋』だなんて言われるんだよ。派手にやりすぎて血があちこちに飛び散ってただろ」


「それだけでも気持ち悪いが、もしも都の奴らが来た時にバレれば処罰の対象になるしな」


「そういうこった。……でもあの家は惜しかったよな」


「ああ、あの家か。他と随分と造りが違ったな」


「それだけ金持ちだったってことだろ。……クソッ」


「まぁまぁ落ち着けよ、そんなこと言ったって火付けちまったもんはもう戻らねーんだし、お前があの婆さんを刺しただろ」


「随分としつこいババァだったな」



ギャハハ、と一際醜く男達が笑い声が響いたその瞬間。

黒い影みたいなものが横切ったかと思えば、三人の男達の姿が消えていた。

突然仲間が消えて困惑する男の前に妙にお腹を膨らませた黒蛇が現れ、怒りに満ちた眼差しで男を見据えた。


『――何故人間はこんなにも愚かしいのだろう。何故他者を傷付けて平気でいられるのか。吾輩は理解に苦しむ……本来ならば吾輩が手を下す事もないのだが、お前達だけは許せぬ。よくも愛しき者に危害を加えてくれたな』


腰を抜かして泡を吹き始める男を哀れむことなく黒蛇は淡々と言う。


『直ぐに仲間にも会わせてやる。――そこで地獄を味わうが良い』


そして男の声が途切れた。




  *  *  *




どこかで物凄い声がしたような気がしたが、そんなものに構っていられる時間が惜しい程男は必死に足を前へと動かした。

黒蛇が何者であったかは未だに分からずじまいだが、きっと助けてくれるような気がした。

そして何故だかあの目の優しさを自分は知っているような気がした。




一体どうなっているのか。

山を下りてみて、男は絶句した。

村で燃え盛っていた炎は消え、焼け焦げた家屋がそのままになっていた。

何よりも驚いたのは、自分の家が元通りになっていたことである。

しかし、家の周りには燃えた時に剥がれたのであろう瓦の破片などが落ちていて、さっき自分が見た光景が嘘ではないことを証明していた。


逸る気持ちを抑えて戸を一気に開く。

するとそこには、あの黒蛇がぐったりしている母親の額に鼻先をくっつけて何やら呪文らしきものを唱えていた。


『……遅かったではないか』


呪文を唱え終わった蛇がするすると男の傍に寄ってくる。

どうしようかと思い黒蛇の方をみれば、目だけをこちらに向けている。

……どうやら『行け』と言っているようだ。



倒れている母に近寄る。

目を瞑り口を固く結んだ状態の母の姿に、またもや男の瞳から涙がこぼれ落ちる。


「母さん……ごめん、ごめんな。俺がいなかったせいで」


父さんと同じ場所に埋めてやるからな、とつぶやいた瞬間。



「――勝手に殺してくれてるんじゃないよ」


全く親をなんだと思ってんだい、とぼやきながらも涙にまみれた男の頬を愛おしそうに撫でる母親。

そして、これからもあんたのお世話になるさ。沢山働いて貰うよ、と言って朗らかに笑う母親を力一杯抱きしめた。


「――ちょっと! 骨が折れそうだよ!」


「……良かった。本当に良かった……!!」


途端に胸の中の母親から文句が漏れるが、腕を話す気にはなれなかった。

この幸せが逃げてしまわないようにと腕の力を強くする男の姿に、やれやれと微笑んだ母親が頭を撫で続けていた。




  *  *  *




あれからどれだけ探してもあの黒蛇に会うことはもうなかった。

少しでもお礼がしたいと思っていたのに、と肩を落とす俺の背中を母の手が労るように撫でてくれる。

母にその話をすると驚いた表情をした後、嬉しそうな顔を巨大な梅の木の方へと向けた。


「……あとでお礼をしに行こうか」


そう言う母は家の中へと戻ってしまい話を聞くことが出来なかったが、全てわかったいるような口ぶりだったので、付いて行ってみようと思う。

 



  *  *  *




この村には蛇がいないと、昔から言われていた。

『烏森』と呼ばれる様になった所以――それはその森に住む生き物の姿が、皆烏の様に真っ黒い姿をしていること。

村では黒は邪悪な色だとして忌み嫌っていた。

中でも特に蛇は嫌われていた。

勿論、その森に住んでいた蛇に毒などないのだが、勝手に山に入った幼子がちょっかいを掛け噛まれ、間の悪いことに流行り病で亡くなった、それだけのことなのに人々は「黒い姿をした蛇に噛まれたから呪われたんだ」と、そう噂しいつしか本当であると信じきっていた。


男の父親も恨みに燃えた人々の目から腹の中に子供がいる母親を守ろうと村総出で行なった『黒狩り』に参加したのだという。

そしてまだ幼き黒蛇の姿を見つけてしまった。

しかし優しい性格をしていた男の父親にそんな非情なことが出来る筈もなく、慌てていたがために烏森の麓にある自分の家まで連れてきてしまったのである。

そんな蛇に驚きはしたものの決して父親を罵ることなく、まだ幼かった黒蛇に餌と寝床を与えてくれたこと、決して罵らず温かく接してくれた人間に黒蛇がどう思っていたかなど本人たちは知らないのだろう。

そしてその家に幼子が生まれた時、黒蛇は自ら家を去り、また一人孤独になった。

と言っても本来の住処である山奥ではなく、その家が見える麓のあたりへと移り住み、自分の愛した人間達をずっと見つめていたのだが。

父親が病に倒れた時、何かお返しできないものだろうかと考えていた黒蛇は、泣き叫ぶ母親と幼子の姿に何も出来ない自分を呪った。

そしてそのまま死んでしまったのだが、何の巡り合わせかあの親子に看取られて死ぬことが出来たお蔭で、生まれ変わりを果たした。

そして涙にまみれる二人のことを見てようやくやっと恩返しが出来たと、微笑んで帰っていった。




  *  *  *




まだ冷たさが残る春風に、母親の少し赤くなった手を握る男。

彼らは今、いつもより早く開花を見せた巨大な梅の木の前に立っていた。

そこで母親が手を合わせ出したので、慌てて男も真似をする。

目を薄らと開けると、ふと何か黒いものが視界を横切った気がして木の周りを回ってみるとそこには石で作られた小さな祠があった。


その時、幼き日のこと全てを思い出した男はお前だったんだな、と呟きその祠を少し撫でた。

祠の木の板が嬉しそうにしまったり閉じたりを繰り返している。

もしここにあの黒蛇がいたら笑っているのだろうと思った。


「……ありがとう」



『――いつまでも、変わらないその心を愛そう。面白き人間(ひと)のその心を』




ひらりと舞い落ちた梅の花びらと共に、どうしようもなく愛しい風が二人を包み込んでいた。

いつしか黒蛇の瞳に宿っていた炎は、その優しく愛おしい鱗の色と同じ黒い瞳に吸い込まれ一筋の希望に変わろうとしていた。








気が向いたらさらっと活動報告のほうへ別ルートを書くつもりです。


 すみません!!

 『仕上げの一文祭り』なのに、重要な一文をまさかの入れ忘れ……。

 最低な人間です;;

 書き直し、というか、書いてあった方を投稿し直しました。

 もし最後の一文がダメなようであれば、ご指摘お願いします。


 2012.12.5



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ