三人寄れば、なんとやら
劇を観て下さった方には分かると思いますが、都合上カットした場面があります。そこの遣り取りを楽しみにしていた方がいらっしゃったら、すみません
相澤の「話し合うなら椅子に座ってやらない?」の発言により、三人は各々の近くにあった椅子で三角形の陣をつくって座っていた。
その中で本田は、
……まさかクラスメイトの告白を成功させるために一肌脱ぐことになるとはね……。
過去の自分に忠告するならば、もっと無慈悲になれだろうか。いや、急いでいても閉じまりちゃんとしろだな。うん。
――正直、先程の相澤の脅しの発言に色々思うところもあるし、分かったこともある。
だが、本田は今その話題をもう一度出す気はなかった。理由として、
――今日、僕は告白とそれを断るためにここに来ている。
相手が指定してきた場所も、岡本が告白に使おうとしている場所も、ここ――つまりは同じ教室なのだ。
もし、自分を呼び出した相手が今この教室に入ってきたとしたら――さらに話がややこしいことになるな。早々に話を切り上げて、来るべき事態に備えよう。
そう考え、本田は正面にいる岡本に疑問を投げかける。
「――そういや君、相手どうやって呼び出したの? メールかなにか?」
「メルアドなんて知らねーって。そういう仲でもないし。
だからさ。下駄箱に入れといたんだよ、手紙を」
その言葉を聞くと、相澤は、椅子の背もたれを抱えこむように座っていた姿勢から身をのりだすようにし、
「え。それってつまりはラブレターってこと?」
「あー…そうなるんじゃねえの?」
「うっわ女々し」
本田と相澤の声がかぶった。
「女々しいってなんだよ!!」
「だって、ラブレターって……。女子がやるならまだしも男子がやるのは……」
どうよ、と続けようとして、早朝誰もいない昇降口で、目的の下駄箱を前にしてラブレター片手に百面相している岡本を想像してしまい――。
「――っ」
本田は思わず吹きだした。
「なに笑ってんだよ! 男子が女子にラブレター送るのがそんなにおかしいのかよ!」
いや、笑えるのは君の言動の青臭さだから。手で口を抑えて笑いをこらえながら、もう片方の手で赤面している岡本に違うからとジェスチャーを送る。
すると、二人のやりとりを半目で見ていた相澤が、
「――というか、逆は無しにしても……男子が女子の下駄箱まさぐるのは犯罪でしょ」
「味方いねーのかよここには!!」
「そもそもあれだけ君のことをボロクソ言ってた僕らをなんですぐに信用するのさ」
「なんだよ二人そろって俺が悪いみたいな言い方して! じゃあ他になんの方法があるってんだよ!」
「そんなのあれだよ。ほら――相澤、続き頼んだ」
「わかんないからって私に振るのやめない?」
ともかく、とばかりに相澤は肩を揺らし、
「男なら、ラブレターなんか使わず、最初から直接言いに行けってこと」
***
「…んだよ。結局は決めつけかよ……」
ふてくされたように岡本がそう言うのを、相澤は聞いた。
即座に、相澤は左斜め前の椅子に座っている本田とアイコンタクトをかわすと、
え、なにこの空気。お前のせいだろなんとかしろ。あれ、私一人におしつけんの? さっき一緒に「うっわ女々し」とか言ったのに連帯責任じゃないの? ……いいから早くフォローしなよ。
あっれー? と、相澤は思いつつ、
「あーー……、えーーっと、岡本クン? さっきの発言は別に男女差別じゃないからね?」
「………………」
「差別じゃなくて、えと、さっきのは、理想だから。模範的行い、みたいな」
「理想だったら何言ってもいいのかよ。男はこうあるべきだー、女はこうあるべきだーって。
でも、それこそ男女差別で決めつけじゃねーのかよ」
岡本の言葉を聞いて、相澤は、
……それは、違うんじゃないのかなあ。だって、
「理想を述べることは、それを他人に押し付けることじゃないよ。岡本君」
それは、
「そうであったらいいよねっていう願いでさ。だからそうなれよ、って言ってる訳じゃないよ。
――だって、反論できるもんね。○○なら××すべきだ、って言われても、そう、でも私は私だから、って」
それに、
「岡本君がそのことに関して、過去になにか思うことがあったとしても、私からすれば知るかそんなのなのね。
誰だって、他人に対する理想像は持ってるだろうし、それを肯定すんのも否定すんのも本人の自由でしょ? だったら、私のさっきの発言も、ただの一般の意見だと思って聞き流せばいいんだって」
君には君の生き方とか考え方とかあるんだからさ、と。相澤が言い終えると、
「じゃあ、さ……」
岡本だ。
「別に俺のやり方が駄目だとか、間違ってるとか――そういう訳ではないんだよな?」
「そもそも女々しいって罵倒しただけで、岡本クンの意見を否定した覚えはないんだけど?」
「いや、最初の言葉だけでも結構心にグサッとくるっていうかそれ完璧俺のこと馬鹿にしてるよなあ?」
「きーこーえーなーーい」
「……………………」
「――そろそろ本題戻していい?」
本田が呆れたようにそう言うのを聞くと、相澤は場の空気を切り換えるために両手でパンと音を鳴らし、
「――よし。岡本クンのせいで若干話それちゃったけど、始めよっか。議題は『このチキンがどうやって相手に告白するか』!」
「ちょっと待て。訂正箇所が二つある。
一つに話がそれたのは俺のせいじゃないということ。そして一つに俺はチキンじゃねぇよやっぱお前ら俺のこと馬鹿にしてるだろってことだ!!」
「議長。彼は、相手を直接ではなく手紙で呼び出すのはチキンのすることではないと言っていますが――では、それは一体何のすることなのでしょうか」
「良い質問です本田君。つまり、彼は自分のことをチキンではなく――ええ、ウブだと言っているのです。この純情め!」
「お前らぁーー!!」
あまりの羞恥に勢いで立ち上がった岡本を、まあまあと相澤は宥め話を続ける。
「――ま、冗談はこれくらいにしとくけどさ。実際問題、岡本クンどうやって告白するつもり?
――僕の目にはもう君しか映らないんだ……! みたいなキザなセリフでも言うの?」
***
「いや、さすがにそれは……。
――ていうか、お前らの目に俺はどう映ってるんだ……?」
力無く反論するも、岡本は相澤の最初の問いに答えることができなかった。
……どう告白する? って聞かれてもなあ……。
どうやって相手を呼び出すか考えるのに必死で、その先のことは何も考えていない。――というより、告白なんて何を言えばいいのか分からない、というのが本音だ。
……でも、なあ……。
なあなあで済ませられる問題ではないし、事前準備なしに彼女にちゃんと言える自信もない。どうにかしなければ、とは思う。だが、
「――――――――」
ちらりと、岡本は、椅子に座っている相澤と本田を見る。
この二人は、条件付きとはいえ、少なくとも今は協力してくれる仲間だ。どうやって告白するのがいいか聞けば、きっと的確な答えをくれるだろう。
「――でも、それじゃ、駄目だよな」
二人に聞かれないよう、口の中だけでそう呟く。
いくら協力してくれるといっても、これは自分の問題で。なら、自分が得ていいのは答えではなく、助言までのはずだ。
意地を張っていると、そう思う。だけど、自分の考えで、自分の言葉で言わなければ、彼女に一体、何を伝えられるというのだろう。
――――よし。
次に言うべき言葉を心の中で反復し、覚悟を決める。告白を、確かなものにするための第一歩として。まず、
「――どうなんだ? やっぱり告白って、好きになった経緯とか話した方が良いのか?」