告白するのは愛からではなく、ただ表面を好きになるだけ
サブタイが長い…
本田樹はこう思った。
なんだこの状況は、と。
***
今日学校に行くと、下駄箱にラブレターが入っていた。女子らしい色合いの封筒に、ハート形のシールが貼ってある、一目でそれと分かるものだ。
別に、その行為自体は中学時代からよくあることだったので、特に喜ばなかったけれど。
嫌みのつもりはない。中学の頃からよくモテた。顔がいいという理由だけで、勝手に恋をされるのがほとんどだったけど。
……だからかね。異性に恋するってことを、僕はしなくなった。
中身よか外見。きっと今回もそうなのだろう。だから相手が誰であれ、告白は断るつもりでいる。今日は部活もあることだし。
ラブレターに書いてあった指定の教室に向かうため、放課後誰もいない廊下を歩く。すると、
どこかから、叫び声にちかい大声が聞こえてきた。反射的に、歩む足をとめる。
「……………………」
……誰か気でも狂ったのか。
その場でじっと数秒佇んでいると、声は止んだ。ほっとして、先に進もうとすると。
今度は、立て続けに声が聞こえ始めた。
……いや、ほんとに何があった。この声の主。まさか本当に発狂したんじゃあるまいな。
そう思うも、無視を決めこみ目的地へとまっすぐ進む。
厄介事には関わりたくない。これでも平和主義だから。
これから自分が向かう教室に、この奇声の発生源はいないだろうし。……だから目当ての教室に近づくたび、聞こえる声が大きくなっているのも、なにかの気のせいに違いない。
……ああ、最近幻聴がひどいなあ。
目的の教室に着き、後ろのほうのドアを開ける。すると、
「せめて……せめて教室の中心で愛を叫ぶくらいのことはしろよお……」
そこには、床に膝をつき、両腕で頭を抱えこんでいる男子がいた。
あまりの展開に、ドアを開きかけたまま、僕はその場に膠着する。
……なんだこの状況は。
すると、僕がいることに気付いたのか、そいつは勢いよく顔を上げた。そのまま交差する目と目。
無言のまま、そいつと数秒視線を交わし、ふと気付く。こいつ、僕のクラスメイトだ。名前のほうは、ちょっと思い出せないけど。
それともう一つ。思い出せば、さっきまで聞こえていた声に「好き」とか、「愛」なんて単語が入っていた気がする。
それらの事実を統合して、思考する。……ああ、そういうこと。
僕は一つの結論にたどりつき、さっきから驚愕の表情を浮かべているそいつに向かって言った。
「………………一人妄想に浸っているなか大変失礼しました」
そのままドアを閉めようとすると、
「まてまてまてまて!! お前は今ものすごくしてはならない勘違いをしている!」
そいつはすばやく立ち上がると、閉められかけているドアを手で制止し、僕の腕を掴んで教室へと引きずりこんだ。
……妄想じゃないんなら、何なんだよ。
「放課後の誰もいない教室で、『好き』だの『愛』だの叫んでいる人が妄想していないんだとするならば、一体何をしていたというんでしょう」
掴まれた手を振りほどきながら、そいつに問う。警戒心を抱きながら言ったせいか、随分とかしこまった言い方になってしまった。
……いや、実際こいつに引いてるのは事実なんだけど。
すると、そいつは顔を真っ赤にしながら、唾を飛ばす勢いで、
「ただ告白の練習をしていただけです! だからそんなかわいそうな人を見る目で見ないでください!」
……そんな蔑んだ目で見ていただろうか。
……というより告白? の練習? ……まさかね。
頭に浮かんだ疑問を解消するため、ポケットに入れてあったラブレターを見せるように持ちながら、そいつに問う。
「告白……? じゃあこの手紙を出したのはあなた……って、そんな訳ないですよね」
頼む。否定してくれ。僕にそっち方面の趣味はないんだ。
そんな願いが届いたのか、そいつはきょとんとした顔で、
「……は? いや俺そんなの知らねぇぞ」
「ま、だろうね。そこで肯定されても反応に困っただけだけど。
……と、すると運悪くバッティングしたのか。面倒くさいな……」
「? なんか言ったか?」
後半は小声で言ったせいか、どうやら聞こえなかったらしい。首をかしげながら問いかけてくる。
「いや、なんにも。それより、お邪魔して悪かったね。僕はこれから部活だから失礼するよ」
どうせ告白は断るつもりなんだ。だったら、今から青春をエンジョイしようとしている目の前の野郎に、場所を譲るのも一興だろう。
そう思い、僕は教室から出……
「あ、おい! ちょっと待てよ!」
……出れなかった。