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ただ愛を語るというだけで

 夕日がさし込む放課後の教室。

 ……字面だけでも絵になるよな。このシチュエーション。

 橙色に染まった教室を見て、少年はそう感じた。

 少年――岡本青空(あお)は、一人教室に残っていた。彼以外のクラスメイトは、部活にいったり、帰宅したりで、もう誰も残っていない。

 窓から入り込む夕日。グラウンドのほうから、部活動に従事する生徒の声が微かに聞こえる。

 教室を包みこむのは静寂――などではない。

 教室を歩き回る足音や、苦悶と後悔に満ちた呻きが、そうとなるのを妨げている。それを発しているのは誰であろう、岡本少年本人である。


「……ああ〜!! やばい。すごく緊張してきた……」


 自身の腕時計と教室の時計を交互に見るという、意味のとれない動きをとりながら、彼はそう一人ごちる。


「同じクラスの女子に告白するって、こうも気が張るイベントだったのか? 白昼堂々一人で、18歳未満閲覧禁止の本を買いに行ったときでも、こうはならなかったぞ?」


 彼がこれからしようとしている行為は、告白。

 それも、生半可な気持ちで行うものではない。いざとなったら、世界を救いに行くほどの覚悟を持って、この場に望んでいる。

 恥ずかしい話、岡本は今まで、異性を恋愛対象として見たことがなかった。つまり事実上、これが初恋ということになる。

 告白をして、結果どちらに転んだとしても、岡本にはその先どうなるかなど、予想のつきようがない。故に、極度の緊張が彼を襲う。

 奇行を繰り返し、数秒。

 教室の少し空いている後ろのスペースで、立ち止まる。


「……いや。いや、まてまて。一旦、一旦落ち着こう俺。こういうときこそクールにいこう。

 こんなテンパってるときに夏川に入ってこられてみろ。告白なんて上手くいかないに決まってる……!」


 岡本は気を静めるため、深呼吸を繰り返す。五回ほどやってようやく、


「…………よし。脈拍、血圧ともに安定。いつも通りの正常運転だ」


 自身の手首に指を置き、脈を取りながらそう呟く。

 脈を測ったところで、血圧などわかる訳ないのだが、彼はそんなことにも気付かない。彼の頭からは今間違いなく、冷静の二文字が抜けていた。

 とにかく落ち着け自分……! と、自らを奮い立たせる。


「……そうだ、別に慌てなくてもいいんだ。いつもみたいに、それこそ『今日は良い天気ですね』みたいな、日常会話を持ち出すかのごとく話をすればいい」


 名案だ。そう、思う。

 しかし、どんな日常会話を持ち出せばいいのだろう? 意中の人物(まあ、夏川だが)が来たら、間違いなく、自分は動揺を隠せなくなる。そのとき、話す話題について頭が回る確率は、限りなくゼロに近い。

 ……予行練習をしたほうが、いいかもしれない。岡本は、そう結論付ける。


「まず、どう切り出すかだよな……。やっぱりここはストレートに最初から、『好きです。付き合ってください』……。

 ……いや、ない。さすがにこれはない。遠回しの話から始めつつ、徐々に告白まで持っていくのがベストだよな」


 と、すると――――。

 彼は、考える。

 夏川侑里が来たときの、告白の方法を。


『……あ、夏川。わりぃな、急に呼び出したりなんかして。

 ……その、話っつーか。例え話なんだけどよ。俺の友達がある女の子を好きで、今日その子に告白すんだよ。でもその女の子は、友達のことを何一つ知らなくて、突然の男子からの呼び出しに困惑してるはずなんだ。

 そんな状況で告られたら、……お前だったら、どう返事するのかなって……』


「……って、どんだけ不器用なんだよこれぇーーーー!!」


 岡本はつっこんだ。自分で自分の妄想に。


「例え話するだけなら放課後わざわざ教室に呼び出すなよ! なんで友達の話してんのに夏川に意見求めてんだよ!! 友達がある女の子を好きとか! どうでもいい! 心底どうでもいい!! 遠回しの話にも程があるだろうが!!」


 岡本は床に膝をつき、頭を抱えこむ。


「せめて……せめて教室の中心で愛を叫ぶくらいのことはしろよお……」


 俺、と、彼は最後まで言うことができなかった。

 唐突に、教室の後ろのドアが開かれた。ある一人の男子生徒によって。

 一目見て、見知ったような顔だ、と岡本は思った。少し記憶を漁れば、それは自分のクラスメイトだとわかる。

 そして、そのクラスメイトは、唇は真一文字に結んだまま、目を大きく見開いて岡本を見る。

 おそらく驚いているのだろうクラスメイトは、無言のまま岡本と視線を交わす。

 決して見つめあっているのではない。ここ重要。

 実際は数秒だが、岡本にはその時間が何時間にも感じられた。

 湧き上がるのは、焦りと動揺。

 ……み、みられた……!

 岡本はどうしようと思案するも、一向に打開策は思いつかない。早く弁明をしなければ、今も現在進行形でクラスメイトに引かれてしまっている。

 気まずい沈黙が流れるなか、クラスメイトが口を開いた。


「………………一人妄想に浸っているなか大変失礼しました」





最近ホライゾンを読んでいるせいか、書き方がだいぶそれに引っ張られました。

次はクラスメイト視点になると思います。


駄文失礼しました。

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