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ショットガン

 白狼宗駕が家に来てから、白狼家は重苦しい空気に包まれた。別に、宗駕氏が兄弟を叱ったりした訳ではない。三兄弟が父の存在にビビりまくり、貝の様に口をつぐんでしまったからである。

 それを宗駕氏は分かっている筈だが、彼はそれを無視して食事に勤しんでいた。

「うん、このトリは旨いね。全部風画が作ったって? いやー、母さんに似て料理が上手いなお前は」

 宗駕氏はそう言って、風画の頭をぺしぺしと叩く。

 ちなみに、現段階でのテーブルを取り囲む状況はこうだ。まず、三人がけのソファに宗駕氏が座り、向かいの三人がけに三兄弟が座る、といった感じである。しかし、その状況たるや、まるで先生が生徒に説教をしている様だった。実際、そこまでギスギスした関係ではないが、とにかく、三兄弟が宗駕氏にビビっているのである。

「うん、このスパも旨い! アサリが良いね。前にギリシャで喰ったのと同じくらい旨いよ」

 大皿を抱え、取り分け用のでかいフォークで豪快に掻き込む。

「そんでさ……。競賀は今日帰って来たって?」

「は、はイっ! そうです」

 一瞬縮み上がり、やたらと引きつった返事をする。

 そんな競賀に、宗駕氏はこう告げた。

「そう固くなるなって!? オレたちゃ『ファミリー』だろ!? かしこまっても楽しくないだろ!? さあ、みんな喰え! 若い力だ、沢山喰え!!」

 両椀を大きく開き、開けっぴろげな態度で食事を勧める。しかし、三兄弟の答えは『否』だった。

「結構です……」

「食欲がありません……」

「ダイエット中です……」

 歳の若い順からそう答えた。しかも、全員俯き加減で、手を胴体に密着させ、足も閉じきっている。

「あ、そう? 要らないなら、オレが全部食べよう、もったいないからな」

 その時だった。

 ピンポーン。と、玄関のチャイムが鳴った。

「オレが行こう。みんなは食事を楽しめ、愉快に!」

 宗駕氏はそう言って席を立った。

 しばらくして、宗駕氏が戻ってくると、彼はどでかい段ボール箱を大事そうに抱えてやってきた。

「よいしょお」

 箱を床に置く。

『?』

 三兄弟は床の箱に見入り、一斉にはてなマークを浮かべる。

「ふふん。気になるか? しかし、これはお楽しみだ。さて、クリスマスパーティの続きをしよう」

 宗駕氏はソファに座り直し、シーザーサラダに手を伸ばした。 

「そうそう。世界中のお土産を見せてあげよう」

 フォークを持つ手を一旦休め、ソファの隣に置いてあるボストンバッグを開ける。

 しばらくバッグを探ると、手で掴んだ物を確認し、一度三兄弟を睥睨する。その時、彼は微かに笑っていた。

『?』

 笑みの意味が分からず、唖然とする三兄弟。

 僅かに間を置いてから、宗駕氏は高らかに言った。

「じゃじゃーん! メキシコ産テキーラ!! アルコール分五〇パーセント!! ん、よいしょお!!」

『!!??』

 三兄弟絶句。何故なら、宗駕氏はテキーラの栓をおもむろに開けると、迷うことなくラッパ飲みしたのだ。テキーラを知らない方の為に説明するが、テキーラはとてもキツい蒸留酒である。

「ぷはー、うめえ!! さあさあさあ! 次はコレだ!!」

 宗駕氏は空になったビンを放ると、バッグから次のビンを取り出す。そして、これも迷うことなくイッキ飲み。

「ああー、ウオッカうめえ!!」

 ビンのラベルをしげしげと見詰める宗駕氏。

『ウオッカ!!??』

 ウオッカとは、言わずと知れたロシアの蒸留酒である。アルコール度数がべらぼうになく高く、臭いだけでもキツい。ロシア人達はそれに唐辛子の粉を混ぜ、「気付け薬」と言って飲むのである。また、ロシアの一部地域で催される「ウオッカ早飲み大会」では、毎年救急車が出動し、死者まで出る始末である。

「はっはぁ! テンション上がってきたぞ!」

 その後も、宗駕氏はバッグから取り出した酒類を矢継ぎ早に飲み干し続け、いつの間にか、空き瓶の山が築かれていた。その空き瓶たるや錚々たる物だった。先述のテキーラ、ウオッカを始め、ラム、リキュール、ブランデー、ウイスキー、ジン、泡盛、パイカル、エトセトラ、エトセトラ……。そこには、世界中のありとあらゆる火酒の空き瓶が転がっていた。

「あー、酒旨い……。飲み過ぎだなこりゃ……。明日からまたロスに飛ぶのに……」

 ソファの背もたれに思いきり身を預け、天井に顔を向け額に手をあて、瞑目してぼやく。

「あー、いつもやっちまうんだよな、コレ……。家に帰ると直ぐさまイッキ……。体壊すの時間の問題だねコレ……」

 既に過ぎた己の過ちを悔いる。

「そういやさ、お前等なんか喋れ……。ずっとだんまりじゃねえか……。せっかく帰ってきたのに面白くない……。なあ、風画……」

 名指しされた風画は、自分に人差し指を向けてキョロキョロする。すると、風画と目のあった海雅と競賀は、ほぼ同時に風画の肩に手を乗せた。

「じ、じゃあ……、げ、元気?」

 口籠もり、噛みながら言った。

「ああ、元気さ。ついでに酒呑んだから、もっと元気だ」

 上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めつつ言った。

「へえ、そりゃ良かった……」

 次の言葉が見当たらず、苦笑いの表情を浮かべたまま固まる。

「おい。会話になってないぞ!?」

「ご、ゴメン! いや、でも、久しぶりだしさ。ホラ、つもる話は何とやらって言うじゃん」

 宗駕氏を怒らせたと思い、必死に弁解する。

「これじゃあらちが明かないなぁ。良し、じゃあちょいと神罰を下してやろう」

 宗駕氏はすっくと立ち上がり、例の段ボール箱を開けた。

 段ボール箱は一〇〇×一〇〇×一〇〇の特大サイズで、外面には何も描かれていなかった。

「えーと、これには用が無いんだよな……」

 箱を開けた宗駕氏は、一番最初に出会った妙な形状と模様のお面を無造作に放り投げる。

「なんだこれ……。どこのお面だ?」

 放られたお面をキャッチした海雅。すると、競賀が顔を覗かせる。

「これは多分……。ポリネシアのお面かな」

「ポリネシア? なんだそれ。ポリエチレンの親戚か。確かにこれは薄っぺらく出来てるけど……」

「違うよ、ポリネシアは太平洋上の島の総称だって」

 海雅のボケなのか天然なのか分からないコメントに対し、冷静に突っ込む競賀。そんな中、風画が震駭した。

「親父! 何を持ってきたんだよ!!」

 腰を抜かして宗駕氏を指差す。その時、風画は目を大きく見開き、完全に怯えていた。

「んん? これはなアメリカ直輸入のショットガンだ……」

 宗駕氏の手には、全長六〇センチほどの黒光りする金属製のパイプらしき物が握られていた。直後、酒に酔い冷静さを欠いた宗駕氏は、ショットガンのポンプを引いた。

 ジャキン。

 重厚な金属の噛み合う音が響く。

 かくして、壮絶なる聖夜は幕を開けた。

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