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最高のクリスマスプレゼント

今回は感動物です

 暴れ疲れた父親を自宅に運ぶと、海雅と競賀もリビングで寝込んでしまった。

 風画はそんな三人に毛布を掛けると、庭に出て携帯電話で電話を掛けた。一二月末の夜風は冷たく、戦闘で火照った風画の体の熱を冷ます。

 電話の相手は一番大切な人、美奈である。

『……風画クン……?』

「もしもし。美奈? あの、今日はホントにゴメンな」

 最初の一言を謝罪で始める。

『……うん。でもしょうがないよね……。お父さんが帰って来たんだよね。それに競賀クンにも合ったし、家には海雅兄さんもいるし、久々の一家団欒はどうだった?』

 いつもと変わらぬ、暖かくて優しい口調の美奈。『怒ってないな』と悟った風画は、美奈の問いに答えることにした。

「ああ、すごく楽しかった……かな?」

 風画はほんの一時間前の事を思い出し、言葉の最後に疑問詞で締めくくった。

『ふーん。変なの……』

「美奈。今日はホントにゴメン。七福の馬刺、絶対おごるから許して」

 風画は申し訳なさそうに詫びる。しかし、美奈の答えは意外な物だった。

『ううん、いいの。あれは、ちょっと悔しくて勢いで言っちゃったから……。七福の変わりにさ、一緒にお寺でカウントダウンしよ。そしたら許してあげる』

「美奈……。うん、わかった」

 心優しい美奈の思いをひしひしと噛みしめ、風画は目を瞑った。

 その時だった。

『うわあ……』

 電話の向こう側から、何かに感動したような美奈の声。

「どうした?」

『風画クン……。すごいキレイ……。空、見て……』

 美奈に促される様に空を見上げる。すると、天上から小さな冬の天使が舞い降りてきた。

「……」

『雪……。ホワイトクリスマスだぁ……』

 どうりで寒いはずだ、と風画は思い、コートを着直した。

「これを、美奈と一緒に見れたら……」

『ワタシも、同じ事考えてた……』

 電話越しに空を眺め、互いに言葉を失う。

「美奈……。一つ言いたいことがあるんだ……」

『何……』

「愛してる」

 風画はそう言うなり電話を切った。その直後、美奈からリダイヤルされたが、それを無視して携帯をしまった。

「ちょっと、クサかったかな?」

 微かに笑みを浮かべ、そのまま家に帰った。リビングの大窓を開け、床に腰掛け地面に足をつけ空を見上げる。

 空から無限に限りなく近い雪が降る。風画はその光景にしばらく見入っていた。


 どれほど時間が経ったであろうか、そんなことを風画が考えた頃、空からまばゆい白く淡い光が降りてきた。

「何だ?」

 風画はその光を追った。光は地上に触れる寸前、地上一メートルほどのところで静止し、風画と向かい合う形となった。

「……?」

 光に対しての疑問が湧く中、その光は段々と人の形に変わって行った。

 風画はある程度変形した光を見て、確信した。

「母さん!?」

 光の正体は、風画が幼い時に亡くなった筈の母・白狼由里であった。

「……風君ね」

 由里は目を開け風画と向かい合う。白く美しい肌、背中まで届くウエーブの掛かった黒髪、目鼻立ちはスッキリと整っており、微かに競賀に似ていた。そして、一番特徴的なのは、最中から生えた白い羽である。

「…………」

 口を開けてぽかんとする。

「フフ、久しぶりね。お母さんが死んじゃってから、もう十年近く経つね。これまで、元気だった?」

「う、うん」

 戸惑いながら頷く。

「そうね、風君、元気な子だよね。お母さん安心した、元気そうで」

 優しい瞳は、風画を真っ直ぐに見詰めその中に風画を映す。

「でもね、美奈ちゃんを泣かせちゃだめだよ。でも、仲直りしたみたいだね。これからもちゃんと守ってあげるんだよ」

 そう言って優しく微笑む。

 その時、風画は我に返った。

「あ、母さん。待ってて、みんな呼んでくる!」

 踵を返し他の家族を起こしに向かった風画を、彼女が止めた。

「待って、時間が無いの、このまま、風君とお話したい」

「母さん?」

 風画が振り向いた瞬間、まばゆい存在の由里は、その細い腕で風画を抱きしめた。

「風君、ゴメンね。風君の目の前で死んじゃって。恐かったよね? 寂しかったよね? 本当にゴメンね、こんなお母さんで……」

 由里は風画が幼稚園に入ったばかりの時、交通事故で亡くなっている。しかも、幼き日の風画は、母が車にはねられる瞬間と、握った手が力を無くす瞬間を両方とも経験しているのである。風画は白狼家の中で、一番母の死を体感したのである。そして何より、風画にとって母親の記憶はそれだけしかない。風画は母親の死に様でしか、母親を覚えて無いのである。

 風画は自分の頬を伝う熱い物を感じた。彼女は泣いていたのである。

「みんなによろしくね。もっとお話したかったけど……」

 そう言うと、由里はふわりと宙に浮く。

「え、母さん。どこへ?」

「天国よ。もう行かないと」

「待って。まだ話したいことが」

 風画は手を伸ばした。しかし、由里の手が風画の手に触れる事は、もう二度と無かった。


「!」

 風画は目を覚ました。風画は庭の真ん中で寝ていた所を、携帯の着信で目覚めたのである。

 携帯は、美奈からの三度目の着信を伝えていた。

「もしもし」

『風画クン。さっきの何? よく聞こえなかったんだけど……』

「いや、何でもない。それよりさ、俺さっき……」

 風画は母親の夢を見たことを美奈に伝えようとした、しかし、風画の背中と頬に残る暖かさ、地面に落ちる一枚の羽、そして何より、空を見上げたとき、真っ先に目に飛び込んできた明るい星、天に輝く天狼星シリウスがそれを阻んだ。

「いや、なんでもない。じゃあな、おやすみ」

 風画はそう言って電話を切り、羽を拾って家へと向かった。

 家の床に降り立ったとき、気持ちよく眠る家族に風画はこう叫んだ。

「てめえら!! 母さんの墓参りに行くぞ!! 起きろ!!」

 直後、一斉に飛び起きる。

「何だよ、いきなりぃ〜」

「ふわぁーあ、ロスに行かないと」

「ねみぃ〜〜〜」

 口々に文句を言う彼らを尻目に、風画は心の中で言った。

(母さん。最高のクリスマスプレゼント、ありがとう。これから、俺たちがプレゼントをあげるね)

 風画は羽の芯を人差し指と親指で回していた。

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