不安
「本当に夜恵は不思議なものばかりを持っているな」
「そうですか?」
いつものように光秀公と夕食をとる。いつの間にかこれが日課だ。
午前中は兵と鍛錬。午後はマシンの修理、夕食時は光秀公と、夜は月明かりとライトを頼りにマシンの修理。おかげであまり修理が進まない。その代わりすっかり明智軍に馴染んでしまった。
「かめらとやらは本当に便利だ。城外の監視にも使えるのではないか?」
思わず茶碗を落とした。この時代にそんな事をしたら反則だろう
「電力は? 電力はどうするんですか? そんな発電施設ありませんよ?」
私はソーラーパネルで自分が使う分の電力は確保してるけど、そんなことは教えてあげない。
「電力? そんなものを使うのか?」
そうして公は考え込む。出来れば食事が終わるまで一人で考えていてくれると有り難い……。
「光秀様、金ヶ崎へ出陣するようにとの令状が…」
そう言って入ってきのは安田国継という人だ。兄ぃほどではないが、時々こちらの事を教えてくれる。割と気に入っている人だ。
「戦か…すぐに出陣準備を」
「はっ」
必要最低限のことだけで国継は戻ってしまう。
「戦ですか?」
「ああ」
「私も同行させてください。自分の身だけは守れますから」
つまり他には手出ししないってことで。
「だめだ。危険だ」
「知ってますよ。でも、私は銃弾も弾き飛ばす肉体なので」
笑って言いうと光秀公も笑う。
「そうだったな。だが、生き埋めにされそうになったら逃げろ。流石にそれはきつかろう」
「脱出して見せますよ。刀を研いだりけが人の手当てくらいのお手伝いならします。後は個人的な情報収集をさせていただきますよ。実は、戦場カメラマンって憧れていたんです」
戦場を撮影なんて不可能な世界になってしまったから、戦場の悲惨さも記録に残して持ち帰りたいと思う。
「夜恵がいれば兵たちの士気も上がるかもしれんな」
そう言って光秀公は自分の部屋へ向った。
「戦場かぁ、ゾクゾクする。大丈夫かな? 本当に…」
行きたいなんて言った事を後悔する。見てみたいのは嘘じゃない。でも。怖いのも本当だ。
(歴史的にも有名な撤退戦…歴史が変わっているならここで死ぬかもしれない…)
私が来た事で歴史が変わっているならばここで明智が殲滅なんて事もありえるかもしれない。
「夜恵様、準備は整いましたか?」
わかさんの声がする。
「うん。大丈夫だよ。…絶対戻ってくるからね」
そう言ってわかさんを抱きしめる。お姉ちゃんがいたらこんな感じなんだろうか?
「お気をつけて…」
そういうわかさんは本当に心配してくれているようだった。
「大丈夫。私よりも公の心配をしてあげて。一応あれでも人間なんだから」
「一応…ですか?」
「うん。一応」
だってあの射撃の腕は人間業だって認めたくない。
(私より上手いなんて…)
これでも結構射撃の腕には自信があったのだ。同じ的を私の銃で八十メートルだ。きっと、いや絶対同じ物を使えば光秀公のほうが上だ。
「帰ってきたらまたわかさんのお話聞かせてくださいね」
「ええ、私も夜恵様とお話できるのを楽しみにしております」
振り向いてそう告げると、今度は笑って見送ってくれた。