父と子
本堂カナタに案内され白播城にたどり着いた康一とロシ。
昔、学校の遠足で近所の城に行ったことがあった。
でも、そこはもはや城とは言えそうにない。
それくらいに大きくて威圧感のある城だ。外部も内部も造りがしっかりとしていて、戦に備えていると言うのがうかがえる。基本的に城やキャラクターのデザインはロシが担当していたが、この城の様子を見ると流石にその描写能力に感心せずにはいられなかった。
さらに場内は、人で賑わっていた。
みんな、観光客ではない。着物を着た男性女性に、鎧をまとった兵士たちがあちらこちらで話したり、何かを作っていたりしている。その顔には活気のようなものがあった。
「えらく、多いわね」ロシがつぶやく。
「そうか? ここらで一番大きな城なんだから人が多くて当たり前だろ」
「バカ! そういう意味じゃないわよ。私はここまでNPCキャラクターを作った覚えはないってこと」
「ああ、そういう事か」
「この世界は、完全にあのゲームの世界と一緒では無いってことね。そうなると……」
「んん?」カナタが訝しげにこちらを見る。
「いったい何のことを話しているのだ?」
「ああ、何でもねぇよ。カナタの事が可愛いなって言ってただけだ!」
「そうか、二人にそういわれると照れるのぉ……って、嘘を申せ!」
「イテテ! 何で褒めたのに頬を引っ張るんだよー!?」
そんな感じでどんちゃんしながら、俺たちは城の中を歩き回る。
階段を上ったり、木造の渡り廊下をギシギシと言う音を立てて渡ったり、大きい外見を裏切らない広さだ。俺はあんまり方向感覚が鋭くないから、どこに行っているのか、これくらいの広さでもわからなくなる。一人だったら絶対迷子になっていそうだ。
「着いたぞ。ここから先が、我が本堂家の住居だ」
「へー、他の武将たちもこうやって城の中に住んでるのか?」
「いや、城の外に住んでるものも多いぞ。大きい城とはいえ全員暮らすには無理がある。本堂家は、お館様の側近であるから、非常時に備えてこうして場内に居を構えているのだ」
「へー、ずいぶんとお偉いさんだな」
「そうであるぞ! 父上と会ったときはくれぐれもそれを忘れぬようにな」
カナタは、そう念を押して、木製の横開きの扉を開いた。
たてつけが微妙なのか、ギギギと木の擦れる音が響く。
「父上! ただいま帰りました!」
扉の中に入ってカナタがそう発すると、襖に囲われた部屋の一つが開き、中から、いかにも武将と言うような出で立ちのひげを綺麗に生やした男が現れた。おそらくは、カナタの父親だろう。俺は、そんなキャラクターを作った覚えはないが、おそらくロシが知らぬ間に追加したに違いない。
「おお! カナタ、よく帰ってきた!」
「父上~ちちうえ~」
俺たちの目の前でカナタは父親の腰あたりに手を伸ばして抱きついた。
なるほど、あいつが結構甘えん坊なのは設定した俺が知っている。ロシはそれを考慮して、甘えさせる対象として父親を作ったということか。それなら納得できる。それにしても、あんな風にカナタにむぐむぐしてもらえるなんて何と羨ましいことか。是非とも俺に代わってほしい。
「……よしよし、それで、そちらの方たちは何者かな?」
「はい」カナタは軽やかに掴んでいた手をぱっと戻し、方向を変えずに一歩下がった。
「この二人は父上に是非ともお会いしていただきたかったので連れてまいりました」
「ほう……」そう言うと。カナタの親父は俺たちのほうに近づいてきた。
「随分と変わった出で立ちの方々だが、よくぞ参ったな。私は本堂益臣と申す。カナタとは親子にあたる間柄だ」
「ああ、どうも……」
流石は、お偉いさん。カナタとは違い威風堂々とした雰囲気がある。
俺も流石に、こういう人の前では軽い態度ではいられなかった。
「父上、まことに信じがたい話なのですが、その者達は他の世界からここに飛ばされてきたと言うのです」
「……何だと?」益臣の表情が神妙なものになる。
「まさか、あの伝説が本当にあったという事か……?」
「何か知っているのですか? 父上」
「ああ。とにかく、この事はお館様にお伝えした方がよさそうだ。事情は、その場にて聞こう。それでは3人共、ワシに連いて来い」
そう言って、益臣は先頭に立ち、俺たちを一番偉い人の待つ城の最上階の一室へと連れて行った。
テレビ番組でしか見たことのないような風景がそこにはあった。