大多良盆地の電脳戦(1)
お館様と一緒に戦に行くことになった康一達。
あくまで見物のみのようだが……
歩くこと20分……くらいだと思う。
木々の隙間から褐色の平らな土地が眼下に見えはじめた。障害物らしきものの全く見えないそこは、山に囲まれているとはいえ、なかなかに広く、東に向けて長く伸びている。
「どうだ、康一? あれが大多良盆地だぞ!」カナタは、やけに嬉しそうに指をさす。
「へー、戦については素人の俺が言うのも何だけど、戦いやすそうなところだな!」
「そう! あそこは、非常に見通しが良いから戦いやすい。だから、昔から良く合戦に使われるのだ。そのせいもあって、あそこに住む者は昔から1人もおらん」
「だろうな。自分ん家の前で戦いが始まったら、たまったもんじゃないからな!」
山を下り終えて盆地に足を踏み入れると、すぐに一団は立ち止まり、武将や兵士達はテキパキと棒を立て家紋の入った幕を張り、あっという間に、手際良く、戦国ドラマではお馴染みの陣営を完成させた。そしてその後、武将や兵士たちはその陣営の入口付近に10列位に並ばせられると、お館様はまるで校長先生みたいに皆を見渡す位置に立って話を始めたのだった。
ちなみに俺とロシは、そんなお館様の後ろ、カナタや益臣さんの横に立たされた。全校朝会の学校の先生達の視点って多分こんな感じなんだろうな……なんだかちょっと偉くなった気がした。
「皆の者、久しぶりの戦じゃ。日ごろの訓練の成果を見せ付けてやれ! 此度の姉崎の軍は総勢10000と聞くが、所詮数にものを言わせているだけにすぎん。恐れるに足らずだ。この武内勝正の采配に従えば、必ずやこの戦、勝利する事が出来るであろう!」
兵士たちからオーと言う声が上がった。
こちらの軍勢の士気はなかなか高いようだ。
「では、各自持ち場について、指示を待て!」
「ははっ!」
お館様がそう言うと、兵士たちは皆、陣営から離れて行った。俺とロシは勿論その場に残る。そして、お館様と益臣さんと一緒に陣営の幕の中に入り、置かれていた椅子に座った。
「ふう……やはり、年じゃのぉ。」お館様は1つだけ金ぴかで偉く豪華な椅子にどっしりと腰を下ろす。「これだけの移動でこうも疲れるとは……康一やロシが羨ましいわい」
「あの……お館様」俺は1つ気になる事があった。
「カナタも戦うんですか? 任せておけって言ってましたけど、鎧も着けずに大丈夫かなぁと思って」
「それはおそらく紀憂じゃろうな、あ奴は若いとはいえ本堂家の者、部隊の指揮官としても既に十分な素養を持っておる」
「へー、カナタってそんなに偉い立場なんですか! ……ところで、俺達は此処にいればいいんですか? ここじゃ、戦の様子なんて見えないんですけど」
「ああ、それは心配するに及ばんよ。今から、見えるようになるからな」
お館様は、前方に手をかざした。そしてこう叫ぶ。
「郭域眺瞰!」
すると! その手の先の空間が輝き出し、ホログラフィのような、半透明の大きな青い亀の甲羅の様なものが縦向きに出現した。そして、その甲羅の中心に一本の線が入ると、そこから左右に甲羅は別れて大きなテレビモニターのようなものが現れる。そこに写し出されたものは……間違いない、今俺達がいる盆地を上空から見たものだ!
桃山は純和風で文明の発展していないところだと思っていた俺は、この近未来的なものの出現に大いに驚かされた。しかし、ここがゲーム<桃山リバイバルの>の世界であるのならば、あってもおかしくない話ではある。だから、ロシの奴は目の前の不思議な光景に動じる事も無く、寧ろ興味津々と言った感じで体を乗り出していた。
「すごい……」
「ロシ、お主は知っておるようじゃの」
「はい。ただ、私の知っているものよりもすごくなってますね!」
「ふぁふぁふぁ、そうかそうか…………むっ!?」
お館様が急に、何かに気付いた。
俺がその視線の先を見ると、そこには、これまた半透明の謎の男が立っていたのだった。