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第五話 四ツ辻星系五野星域会戦②

 作戦開始まで、残り二時間。


 艦隊無線に、アストレイアの声が流れる。


「作戦は単純だ。正面突破。二十分後、状況を見て各自の判断で戦闘を続行せよ!」


 ……作戦とは呼べない作戦だった。

 それでも誰一人として質問はしなかった。 本気で戦う気など、最初からないのだ。


 号令と同時に、各艦は次々と灯りを落とし、闇へと沈んでいく。


 通信回線はノイズに覆われ、もはや艦隊無線で交信すら不可能になった。ここで頼れるのは――点滅する信号灯だけだ。だが、信号灯を使えば敵にも見られてしまう。位置を暴露した瞬間、容赦ない砲火が降り注いでくる。だから、信号灯を利用するのは――よほどの時だけ。


 もちろん、敵もどこかで潜んでいた。レーダーが捉えられるのは、五千キロ以内に接近した敵影のみ。ただし、偵察機だけは別格だ。奴らはまるで宇宙の亡霊――探そうとしても、決して見つからない。


 ひょっとしたら今この瞬間も、エンジンを切った偵察機が、〈オーロラ〉のすぐ横で漂っているのかもしれない。


 想像だけで、リュカの背筋を冷たい汗が伝った。


「リュカ、補給艦は隠蔽完了した? 敵の偵察機に見つかったら終わりよ」

「はい! 私の担当分、五百六十隻は二分割して配置済みです」

「卵を一つのかごに盛らないのは賢明だ」

「……艦長ほどでは。ところで、艦長が担当した八百隻は?」

「一箇所にまとめた。兵書に書いてあった。『卵を一つのかごにして、空いた片手で殴りに行け』ってね」


(兵書。あのクソ前任から押しつけられた、ガキのゲーム攻略みたいなもの。まあ……一理はあるけどな)


「……補給艦の火力は小さいとはいえ、あれだけ集まれば防御網になりますしね。悪くない戦略です」

「珍しいな。君が兵書を認めるなんて」

「ただ事実を言っただけです。その策は教材にも書いてあった。」

「なるほど、奇策ではないってことか。とにかく、今回の戦いの鍵は敵補給線の破壊よ。もしリュカが敵指揮官なら、補給艦をどこに隠す?」

「……もし私が敵指揮官なら、すべての補給艦を主力艦隊の後方に集結させます。こちらは戦力が少ないゆえに、突破などは不可能です。主力艦隊の後方は最も安全なところになっています」

「やっぱり。兵書どおりだ。すでに攻撃機中隊を後方へ回した」

「ダメです!」


 リュカは即座に否定した。


「三個の攻撃機中隊では、8000隻の補給艦が構成する防御網は突破できません!」

「慎重すぎるよ。兵書によると、奇襲すれば敵だって混乱して逃げるはずだ」

「それは仮定の話です。戦略ではありません! すぐに攻撃機中隊を撤退させていただきます!」


 リュカは珍しく艦長に怒りをぶつけた。


 しかし、遅かった。


 闇の彼方で、爆発や砲火の閃光が次々と浮かび上がる。


「攻撃機中隊、交戦中! 前方二万キロ、敵の補給艦群を確認! 鬼怒(きぬ)型戦列艦〈星鎧(せいがい)〉、〈夜禍(やか)〉を探知、駆逐艦多数!」

「やれやれ。補給艦に護衛が付いてるなら、仕方がないな」


 その言葉に、リュカは呆れ果てた。


(前もって対策を考えるべきでしょう! そんな無謀な策で取り返しのつかない結果を招いた後に、「仕方がない」と責任を放り出すなんて!)


「......攻撃機中隊、敗走中!」

「大したことはない。敵の戦力が分散してるのは分かった。あとは各個撃破で――」

「艦長! 補給艦から救援信号!」


 後方――二つの地点で爆炎が咲いた。

 リュカが分散配置した補給艦群――両方が同時に叩かれている。


 おそらく補給艦はすでに発見されている。

 ただ、こちらの攻撃機の位置がつかめないために、敵は手を出せずにいたのだろう。

 だが今、我が方の攻撃機は敗退した。 いよいよ敵の攻撃機が動き出す番だ。


「艦長! ご指示を!」

「ないよ」

「補給艦群が蹂躙されています!」

「分かってる。だが増援を回しても間に合わん。正面戦場の主力艦、一隻たりとも動かせない!」

「......いったん撤退したほうが」


「却下。私を信じろ」


(やはりメイド型に、戦場の指揮官は務まらない。

 たとえ処分されるとしても、ここで立ち上がって反対しなければ、『リティ』に回収してもらえるチャンスさえ失ってしまう。

 もう……一かゼロか!)


「艦長のことは信じます! しかし艦長に16年もの借金を背負わせたくず男は信じません!  艦長にさらに多くの借金を背負わせて、艦長を見捨てようとしているだけです——」


「——黙れ!」


 アストレイアの唇は震え、必死に呼吸するが、肺には空気ひとつ届かない。


(そうか……知らないうちに、借金が6億、いや、8億を超えていた。 なのに、まったく実感がない。

 こんな大金、私に返済できるのか!)


「私はそう簡単に騙される単純な女じゃない。黙って信じてくれ」


 アストレイアの瞳は血走っていた。


 彼を信じたい。いや、信じるしかない。 

 八億BTCの借金を抱えた私は、もう後戻りなんてできないのだ。


 兵書どおりに動けば、きっと勝てる!


 ねえ......そうよね? 余計なこと考えるな。きっとそうだ!




 



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