表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

第一話 旅立ち

「艦長はどこ行くんですか? 今日は旦那さんの命日だと聞きましたけど……」


 暗闇の宇宙に潜航し、ウィンスロー級駆逐艦〈オーロラ〉の艦橋で、

 操舵士が、隣の航海士へ、計器の死角を縫うように尋ねた。


「違う違う。今日は()()した旦那さんが完熟した日だぜ。ウヒヒヒ......」


 アストレイアは、ぴくりと眉をひそめた。


 まったく。

 女三人寄れば姦しい。


 聞こえないふりをしても、小さくため息を吐く。


 この艦は借り物。

 乗組員は、買ったばかりの安いアンドロイドたち。

 規律にも、戦闘能力にも期待していない。


 そんなはずだが......


 副艦長リュカが、わざとらしく咳払いをした。


「……艦長、交戦エリアに入りました」


 封印歴824年7月13日。

 《821領土交換条約》から約三年。

 サイラス連邦はまだ黄金縄(こがねなわ)星域を完全に掌握できず、伊弉(いざな)帝国――伊弉嵐(いざならん)一族は、今も激しく抵抗を続けている。


 ――今まさに、交戦エリアに突入してしまった。


 アストレイアは、無言で小さな赤い箱を開けた。

 中に収められているのは、指一本ほどの『骨』。

 

 その骨が――


(……動いた?)


 副艦長リュカが息を呑む。ありえないはずなのに、箱の中で回転し、迷い、そして――ぴたりと向きを定める!

 まるで、意志を持つ羅針盤!


(まさかとは思うが、艦長はこの骨コンパスで、転生した夫を探すつもりなのか?)


 骨が、再び震えた。

 今度は、鋭く震動を繰り返す。――急げ、と催促するように。


 アストレイアは即座に命じる。


「針路修正。五一二・九六三・一六五」

「針路修正。五一二・九六三・い、一六……?」

「『五』! 封印歴元年――西暦二一六五年。そう覚えなさい!」


 思わず、操舵士を叱った。


 ――戦場では、一瞬の曖昧さすら大惨事となる。

 アストレイアが求めるのは、どんな状況でも冷静に命令を聞き取れる人材。それが823名の命を背負う艦長の責務だ。


 巨艦は低速で右へ旋回する。

 同時に、指のような骨が蠕動し、やがて正艦首を指し示す。


「……据えろ」


 舵が左へ切られ、右旋回の慣性を打ち消す。


「遅い!」


 骨は正艦首から逸れてしまった。


 それにしても――

 頭を上げ、スクリーンに視線を走らせた瞬間、異変に気づいた。


 補給艦二隻。隊形が、崩れている。

 本来なら三角形の隊形を維持すべきところを、〈オーロラ〉の右旋回に反応できず、左後方60kmに取り残されている。


 即座に艦隊無線機を掴む。


「〈パトロス〉、なぜ右に回らなかった?」

「隣の〈テラノス〉が右に回ってませんでしたし……補給艦は、ついていかなくていいのかと……」


「〈テラノス〉、なぜ回らなかった?」

「直進してる〈パトロス〉に、私が右旋回で突っ込んだら――ぶつかるでしょう」


 艦ごとに性格がばらばらで、勝手な判断で動く。

 反応の鈍い艦は命令を理解できず、慎重な艦は他の船の動きを見届けてから動き出す。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 アストレイアは怒鳴り散らしたかった。

 だが艦長である以上、ブチ切れは許されない。

 三隻、八百名以上の命が掛かっている。たとえ全員が「安価なアンドロイド」であってもだ。


「〈パトロス〉、〈テラノス〉、デルタ隊形に戻れ。針路修正せよ――五一二・九六三・一六九」

「五一二・九六三・一六五。アイアイサー」


 違う! 

 「一六九」と言ったはず! 

 なのにうちの操舵士が、あっさりと「一六五」と復唱した!


 アストレイアは目を覆い、くそをこらえた! 


 落ち着いて私! 

 ひ、ひ、ふぅ……

 危うく皺を増やしてしまうところだった。


 ポンコツの戦友だけど、敵さえ現れなければ、何の問題もない――。


 敵さえ現れなければ…… な。



◆《821領土交換条約》( 封印歴821年6月1日)

 伊弉帝国の国王伊弉冥(いざなめ)剛心(ごうしん)は、『魔女』に誘惑され、サイラス連邦と悪名高き《821領土交換条約》を結んだ。


 豊な黄金縄(こがねなわ)星域をサイラス連邦に譲り渡し、代わりに虚ろなダーダッディ星域を得た。


 三か月後、国王は急死。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ