第十二話 オペレーション:結婚式招待状
ダメコン(ダメージコントロール)隊員には、ランク分けがある。
【ノーカップ】……新人。実戦経験ゼロ。
【ブロンズカップ】……簡単な修復・戦闘支援なら自力で可能。
【シルバーカップ】……複雑な損傷も対応可能な熟練者。
【ゴールドカップ】……チームを率い、危険任務もこなす精鋭。
【ホーリーカップ】……伝説級。極限状態でも船体を守る。
一隻の連絡艇が、〈オーロラ〉を離れた。
すうっ……。
小さな機影は、暗黒の宇宙へ溶けるように――消える。
◇◆◇
艇内は、狭い。
ぎゅうぎゅう。
五人のダメコン隊員が、肩を押し合うように立っていた。
換気扇が回っている。
ゴォゴォと――鈍く、重く。
だが、空気は死んでいた。
湿気が、肌に貼りつく。
呼吸のたびに、胸の奥がむず痒くなる。
あっ、思い出した。
風の通りが悪い病院の廊下。
鼻炎患者の、炎症に濡れた吐息。
この悪夢のような場から逃げたい。
けれどそんなことは許されない。
僕は、ダメコン隊員だ。
艦が最も危険で、最も脆い瞬間に飛び込み、船をつなぎ止める最後の砦だ!
僕は必要とされている。
攫われた姉さんの身代金を払うためにも。
逃げるという選択肢は――存在しない。
船が加速している。激しい振動が、体中をぶんぶん揺さぶる。
船酔いのせいで、足元はふらふらと定まらず、立っているだけでも精一杯だ。
それでも、他の四人に挟まれて――なんとか、倒れずに耐えている。
そのとき。
隣の隊員がにやりと僕に話しかけた。
「エンジン室に着く直前でな、ドアを開けたんだ。……そしたら、何が起きたと思う?」
「えっと、トラブル?」
「――ドンッ!! ってな。炎が一気に吹き出してきてよ。先頭にいたフォーブスは、そのまま焼き殺された」
(いやなんでそんな怖い話ぶっこんでくるんですか!?)
「それで、エドワードが突っ込んで消火を試みたわけだ。さて、どうなったと思う?」
「火は消えたんですか?」
「逆だ。燃料タンクにまで延焼しかけて、やむを得ずドアを閉めて減圧したんだ」
ウスはさらに声を落とす。
「で、ドアを再び開けたときには――エドワードが窒息死だ。顔は真っ青で、舌を垂らしてな。……首、ずっとかきむしってたらしいぜ」
死者に対するあまりに不敬な言葉に、アンドレイ隊長はぴしゃりと怒鳴る。
「ウス、いい加減にしろ!」
「いや~、新人をビビらせるだけさ。俺はウスルド。ウスって呼べ」
「青璃です。よろしくお願いします」
「ノーカップかい?」
「え……どうしてそれを?」
ウスルドは僕の胸元を突いた。
「見りゃ分かるだろ? ははっ! ちなみに俺はブロンズカップだ。何かあったら面倒見てやるよ」
「はい。ありがとうございます、ウス先輩」
すっ、と視線。
向かいの金髪の美女が、こちらを見る。
じーっ。
……僕の胸元。
けれど、嫌いではなさそうな顔だ。
「あたし、エカテリーナ。カーチャって呼んで。遠距離砲撃と建物爆破が担当」
カーチャは、狙撃銃を胸に押しつけるように抱え、指先で愛おしげに撫でている。
「Cカップだけど、期待外れだったかしら?」
(こいつ、絶対地雷系なんですよ)
「オェッ。きもいからやめろ! ぶす女! こっちは全身ビリビリして、思わず毛が逆立ったんだよ」
びりびりっ。
全身に絶縁テープを巻いた男が、肩を震わせている。
「隣のビッチなんか気にするな。俺ラファエルだ。レフェでいいぞ。スパーク担当だ」
「スパーク?」
「チッ。ただの電気屋よ」
「こらぁ!! 何言ってんだ! このブス女が! 電気屋だ! じゃなくスパークだ」
「ほら! 自分で言ったじゃん、ミスター電気屋」
「うっせい! スパークだ!」
バシッ!!
アンドレイ隊長は二人の頭を叩いた。
「黙れ! 豚ども!」
しん、と一瞬だけ静かになる。
「俺は隊長のアンドレイだ。なあ、新人、こういう危険任務は、見ての通り、だいたい俺たちみたいなクズがカモにされる。俺もブロンズカップだ――肝心なときに、俺が尻拭いしてやると思うなよ」
アンドレイ隊長が手首のホログラムを起動する。
ぴかっ。
端正な顔が映し出された。短い金髪、眉の毛まで再現されている。
「しっかり覚えろ。こいつが今回のターゲットだ――〈ヤズー〉の艦長、ドリアン・アンナ。新郎であるブラックウッドの兄」
「任務は簡単だ。
奴を見つける。
結婚式招待状を手にねじ込む。
そして安全に撤退すること」
「弟のブラックウッドはあの通りの殺人鬼だ。ならば、兄である彼も例外ではないだろう。……もっとも、今は敵に救援活動をしているらしいがな。操られている可能性が高い」
「いずれにせよ、ターゲットは伊弉人に攫われていようが、棺の中で眠っていようが――そんなことは関係ない。
覚えておけ。俺たちの唯一の目的は――」
「このクソみたいな招待状を、奴の手にねじ込むことだけだ」
「フーア!!」
「行くぞ〜」
「死ね死ね死ねー!」
僕は体をくねらせ、小声で呟いた。
「あの……すみません。ダメコン隊員って、修理担当じゃなかったんですか?」
「修理担当だよ。敵を殺してから修理、修理してから敵を殺す。潜在的な敵を殺し、修理しなくて済む。そして何より! 他のミッションを受けて修理をサボるのだ。あはははー」
(えええ! ダメコンの“コン”どこ行ったんですか!!?
コンバットですかそれぇぇぇ!!?)
「ええ……でも、僕、武器持ってないです」
「ネイルガンあげるよ」
アンドレイが腰からネイルガンを取り出し、ひょい、僕に渡した。
「威力最大にセットした。敵の目を狙え」
(ええ!? 本気で言ってるのか? 目を狙えば、下手をすれば人を殺しかねない。いや、違う! これ、完全に人を殺す前提のやつだよな……)
「で……でも……」
「迷うな。生きたければな。よーし! スローガンをやるぞ!」
全員が叫ぶ。
「オレンジは食わない、勝利だけを食らおう!」
「え? オレンジって?」
「いいから、命令だぜ」
「はい! オレンジは食わない、勝利だけを食う!」
「絶対に無事に帰って、艦長様の結婚式で大暴れするぞ!」
(それ、完全に死亡フラグにしか聞こえないんだが……)
「イエッサー!」
(――なぜか、今日だけは死なない気がした)
全長12メートルのトラック運転手です。皆様を異世界へお連れする案内人をやってます。
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冗談っすよ、仕事を増やさないでくれ~(泣)(泣)(泣)




