あとがき
この物語を最後まで読んでくださった皆さま、心から感謝します。
認知症という現実は、家族にとって日々の安らぎを奪い、戸惑いや不安、時には苛立ちや悲しみをもたらします。けれどその揺れる日常の中に、家族の手と心が寄り添うことで生まれる、小さな光があります。それは、母・フミのわずかな笑顔や、安心して手を握る瞬間、共に庭を歩きながら交わすささやかな言葉…そんな一つひとつの積み重ねです。
この物語では、母の揺れる心に寄り添う父・忠彦、娘・美佐、そしてナースの美咲を通して、家族と介護者の葛藤や不安、そして愛情の深さを描きました。家族の思いがすれ違い、時には言い合い、涙がこぼれる日もありました。それでも、誰も見捨てず、手を取り合い、互いを支えることで生まれる温かさと絆が、母の日常を少しずつ穏やかに変えていったのです。
認知症は決して消えることのない現実です。回復はなく、思い出は断片的に揺れます。けれど、家族の温かい手と声、優しく見守る第三者の眼差しによって、母は安心し、家族もまた強くなる。悲しみや苛立ちが入り混じる日常の中でこそ、ほんの小さな「笑顔」「安心」「信頼」が奇跡のように輝きます。
私はナースとして、多くの家族と患者さんの姿を見てきました。支えることの大変さ、葛藤の連続、そしてほんの一瞬の安らぎがどれほど尊いかを知っています。この物語に登場する家族も、どこかで現実の誰かと重なるのではないでしょうか。あなたがもし、今日も誰かを支えて疲れた夜を過ごしているなら、この物語の中で描かれた「小さな日々の積み重ね」が、少しでも心の支えになれば嬉しいです。
最後に、家族の皆さま、介護に携わるすべての方々へ。疲れや迷いの中にある日々でも、手を取り、心を寄せることで、確かに光は生まれます。たとえ揺れる日常の中でも、その光を信じ、積み重ねていってほしい。家族の愛は、認知症という壁を越えて、必ず温かい光として届くのです。
小さな一歩が、日常の奇跡を作り出す――この物語が、皆さまの心にそっと灯をともせたなら、それ以上の喜びはありません。




