表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
新しい日常の光

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/90

新しい日常と始まり

朝の光が、施設の廊下に柔らかく差し込む。母・フミは歩行器をゆっくりと前に進めながら、手すりに軽く触れつつ、自分のペースで歩く。廊下の角を曲がるたびに、母は一瞬、遠くの景色を見つめるような目をする。ナースの美咲は少し離れた位置からその動きを観察し、記録を取りながら、時折優しく声をかける。


「母さん、今日も焦らずで大丈夫ですよ」


忠彦は母の背後からそっと手を添え、肩に触れながら、静かに声をかける。

「母さん、無理せんでええ。父ちゃんがおるけぇ安心して」


母はわずかに笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずく。娘の美佐も横で手を添え、そっと母の指を握る。母の手の温もりが伝わるたび、家族の心も少しずつ穏やかになる。


午前中のリハビリでは、母が椅子から立ち上がろうとする瞬間、少しバランスを崩す。忠彦がすぐに支え、美佐も横で手を添える。


「大丈夫じゃ、母さん。父ちゃんがおるけぇ」


母の目が安心に満ちると、自然と肩の力が抜ける。美咲は観察を続け、職員に向けて助言する。


「家族が日常の小さな変化に寄り添うことで、母さんの安心感が高まります。小さな成功体験の積み重ねが、日々の安定に直結します」


昼下がり、庭に出た母は咲き誇る花々に目を向け、わずかに笑みを浮かべる。忠彦はそばで声をかける。

「見てごらん、母さん。花が今日もきれいに咲いとるね」


母は目を細め、少しうなずく。美佐も手を添え、母と花を眺める時間が静かに流れる。鳥のさえずりや風の音に、母の表情が和らぐ瞬間がある。


午後、室内での小さな事件。母が椅子を押してしまい、スタッフが駆け寄る。しかし忠彦は素早く支え、落ち着かせる。

「大丈夫じゃ、母さん。父ちゃんがおるけぇ安心して」


母は短くうなずき、落ち着きを取り戻す。美佐も隣で励ましの声をかけ、家族の温もりが部屋を包む。


夕方、談話室でナースの美咲と職員、家族が集まり、日常の振り返りをする。

「家族の関与は母さんの安心と職員の負担軽減に直結します。無理せず、少しずつ日々の小さな成功体験を積み重ねることが大切です」

忠彦は静かに頷き、家族の手が母を支える意味を改めて理解する。美佐も微笑みながら手を握り返す。


夜、ベッドサイド。母は目を閉じ、静かな呼吸を続ける。忠彦は手を握り、娘の手も重ねる。揺れる日常の中で、家族の絆と母の安心が確かに結びついたことを感じる瞬間であった。


美咲は少し離れた場所から見守り、記録にこう書き残す。

《揺れる日常の中で、家族の手と心が母の安心を育む。小さな日々の積み重ねが、新しい日常の土台を作り出す》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ