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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
小さな日常の奇跡

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82/90

信頼と寄り添いの時間

朝、施設の廊下に柔らかな光が差し込む。母・フミはゆっくりと歩行器を使いながら、ナースの美咲に見守られつつ廊下を進む。忠彦は少し離れたところで母の様子を観察し、言葉をかけるタイミングを考えている。


「母さん、今日はゆっくりでいいんじゃけぇ」

母はわずかに笑みを浮かべ、安心した表情で頷く。娘の美佐も手を添え、家族の支えが一体となって母を包む。


午前のリハビリでは、母が少し不安定になり、椅子につかまろうとした瞬間、忠彦がすぐに支える。

「大丈夫じゃ、父ちゃんがおる」

母の手が忠彦の手に触れると、微かに力が抜け、安心した表情に変わる。美咲は横でその様子を記録し、職員にも助言を送る。


「家族の関与がここまで母さんの安心に繋がるとは。小さな手の動きや声かけも、大きな支えになるんです」


昼下がり、庭のベンチで母と夫、娘が並んで座る。母は手を取りながら、かすかな声でつぶやく。

「父ちゃんがいてくれるけぇ、安心じゃ」

忠彦はぎこちない笑みを浮かべながら、母の手をそっと握る。美佐も手を添え、家族の心が揺れながらも一つになる瞬間を感じる。


ナースステーションでは、美咲が職員に日々の観察結果を共有する。

「家族の関与は母さんの安心と職員の負担軽減に直結します。焦らず、無理せず、少しずつ日常の中で成功体験を積み重ねることが大切です」


夕方、室内での小さな事件。母が椅子を押してしまい、スタッフが駆け寄る。忠彦はすぐに支え、落ち着かせる。

「母さん、焦らんでええ。父ちゃんがおるけぇ安心して」

母は短くうなずき、落ち着きを取り戻す。美佐も横で励ましの声をかける。


夜、ベッドサイドで家族が手をつなぐ。母は目を閉じ、穏やかに微笑む。忠彦は深く息をつき、自分の成長と家族の絆を実感する。美佐も手を握り返し、静かな安心が部屋を包む。


ナースの美咲は少し離れた場所から見守り、記録にこう残す。

《日常の揺れも、家族の手と心で支えられる。小さな成功体験の積み重ねが、母の安心と家族の絆を育む》


揺れる日常の中で、家族の信頼と寄り添いの時間が少しずつ確かな形を作り出している — そんな一日であった。


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