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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
小さな日常の奇跡

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80/90

家族の手がつなぐ未来

朝の光が差し込む施設の廊下。母・フミはベッドからゆっくり起き上がり、少しぎこちないながらも歩行器を使って廊下を進む。ナースの美咲は横で見守りつつ、記録を手に取りながら声をかける。

「母さん、今日もゆっくりで大丈夫ですよ。焦らず歩きましょう」


夫・忠彦は少し離れた位置から手を添え、母の動きを見守る。以前なら不安や苛立ちで声を荒げていたが、今は落ち着いた表情で、母のリズムに合わせている。娘の美佐も隣で手を握り、家族が一体となった時間を作り出していた。


朝食後、デイルームでのリハビリの時間。母はスタッフの指示に従い、ゆっくりと立ち上がる。だが突然、立ちくらみを起こし、椅子につかまりかける。忠彦はすぐさま支え、優しく声をかける。

「大丈夫じゃ、母さん。父ちゃんがおるけぇ」

美咲は少し離れた位置から観察し、記録に残す。

《家族の手と声かけが、母の安心と安全を支える》


午後、ナースステーションで美咲は職員と打ち合わせ。

「家族が日々の小さな変化に寄り添うことで、母の行動が落ち着くことが増えました。無理に叱るのではなく、声かけや距離感の調整を意識してください」

職員たちはうなずき、日々のケアの工夫を共有する。


庭での散歩中、母はふと立ち止まり、「帰る」と言いかけたが、忠彦は手を握りしめて落ち着かせる。

「母さん、ここでゆっくり歩こう。父ちゃんがおるけぇ安心して」

母は少し安心した顔を見せ、再び歩行を続ける。美佐も後ろから声をかけ、家族の支えが一層強まる。


夕方、施設の談話室で家族会議のような時間。ナースの美咲が座り、助言を行う。

「家族の協力は、母さんの安心につながるだけでなく、職員の負担も減らします。小さな成功体験を積み重ね、日常の中で無理のない関わりを作っていくことが大切です」


忠彦は静かに頷き、自分の介護への姿勢を再確認する。

「焦らず、無理せず、母さんに寄り添う」

娘の美佐も微笑み、手を握り返す。家族の心が一つになり、母に安心を与えていた。


夜、母のベッドサイドで、夫婦と娘がそっと手を重ねる。母は目を閉じ、穏やかな表情で微笑む。

ナースの美咲は少し離れた場所から見守り、記録にこう残す。

《家族の手と心がつなぐ未来 — 日々の小さな支えが、母の安心と家族の絆を育む》


揺れる日常の中で、小さな成長と寄り添いが積み重なり、家族の新しい日常が静かに動き出している — そんな一日であった。


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