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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
小さな日常の奇跡

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78/90

助け合う手とココロ

朝の光が差し込む施設の食堂。母・フミは、少しずつだが以前よりも落ち着いて椅子に座っている。ナースの美咲は記録を片手に観察する。昨日の夜間徘徊も、夫・忠彦が付き添ってくれたことで大事には至らなかった。


忠彦は朝の準備を手伝いながら、小さな声で母に話しかける。

「お母さん、今日はいい天気じゃけぇ、気分も晴れるとええな」

母は目を細め、かすかに微笑む。美佐もそっと横に座り、手を握る。


美咲は記録を取りつつ、声をかける。

「昨日の夜もよく頑張りましたね。こうやって家族がそばにいてくれると、母さんも安心できます」


忠彦は照れくさそうに笑った。

「わしも、少しずつわかってきた気がする。手を出すのは恥ずかしかったけど、母さんのためならやらんといけんのじゃな」


昼、庭のベンチでは母と夫、娘が寄り添うように座っていた。母は小さな声でつぶやく。

「父ちゃんがおるけぇ、心強いわ」

忠彦はぎこちなくも手を握り返す。美佐もそっと両手を重ね、家族の温かさが小さな波となって広がる。


ナースステーションでは、美咲が職員たちと情報を共有している。

「家族が協力してくれることで、母さんの不安や徘徊が少しずつ減っています。ただ、無理に抱え込ませないよう、声かけのタイミングや距離感を工夫してください」


職員の一人が眉をひそめる。

「でも、家族もまだ慣れてないし、焦ると逆効果になることもありますね」

美咲はうなずく。

「そうです。だから小さな成功体験を重ねることが大切です。日々の変化を観察し、家族と一緒に記録していくと良いでしょう」


午後、室内でのリハビリ中。母は手すりを握り、ゆっくりと歩く。忠彦が後ろから支え、微妙な距離を保ちながら声をかける。

「焦らんでええんよ。ゆっくりでええ」

母は少し安心した表情で頷く。美佐は横で手を添え、成功した歩行の回数をカウントする。


夕方、施設内で小さな問題が発生。母が突然、椅子を倒そうとしてスタッフが駆け寄る。忠彦はすぐに駆け寄り、母の腕を優しく支える。

「大丈夫、母さん。父ちゃんがおる」

スタッフはほっと息をつき、家族と職員の協力体制がうまく機能していることを実感する。


ナースの美咲は一歩引いて観察する。

「家族の手と心が、母にとって何よりの支えになる」

記録にはこう書き残す — 《家族の協力は、安全と安心をもたらすだけでなく、職員の負担軽減にも直結する。小さな成功体験の積み重ねが、介護の質を高める》


夜、忠彦は母のベッドサイドに座り、手を握りながらつぶやく。

「遅うなったかもしれんが、これからはちゃんと向き合うよ」

母は目を細め、静かに微笑む。娘もそっと横に座り、三人の温かい沈黙が夜の静けさに包まれる。


日常の中の小さな成功が、家族の心と母の安心を育てる — それをナースの美咲はしっかりと見守り、記録に残すのであった。


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