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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
近くて遠い、でも繋がる心

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優しい眼差し

午前中、施設のステーション。ナースは母の観察記録をまとめながら、ふと家族の表情に目をやる。

娘の眉間には、まだ小さな心配が残っている。

父もソファに座り、無言ながらどこか気がかりそうな表情だ。


ナースは静かに声をかける。

「お二人とも、少し疲れていますね。今日は、母と過ごす時間のポイントを少しお伝えします」



ナースは娘に寄り添いながら、柔らかい口調で助言する。

「母に話しかけるときは、短く穏やかに。無理に会話を増やす必要はありません。手紙や短い言葉かけでも十分に伝わります」

娘は深く頷く。

「そうか…少しずつでいいんですね」


父にも声をかける。

「お父様も、そっと見守るだけで十分です。手を握らなくても、目線や微笑みで十分安心させられます」

父は静かにうなずき、肩の力が少し抜けたようだ。



その後、母が庭に出てゆっくり歩く時間になった。

娘は手を添えようとするが、ナースが軽く合図する。

「今は、そばで見守るだけで十分。母が自分で歩ける時間を大切にしてください」


母は少し戸惑うように立ち止まり、娘の目を見つめる。

娘は穏やかに微笑む。

母はその微笑みに安心し、再び歩き始める。

ナースはその様子を見ながら、心の中で小さくうなずく。

「こうして、母も家族も安心感を少しずつ築いていく」



午後、ナースは家族と少し長めの面談を行う。

「無理に母の過去の話を引き出す必要はありません。日常の些細な言葉、手紙、微笑みの交換で十分です」

娘は涙を浮かべながらも笑顔を見せる。

「少し楽になりました…」

ナースは優しく微笑む。

「焦らず少しずつ。母も家族も、安心して過ごせる時間を重ねることが大切です」



夕方、母は食堂で小さく微笑み、娘と父をちらりと見つめる。

ナースはその表情を見逃さず、記録にメモを取る。

第三者としての冷静な視点に加え、家族に寄り添う親身さが、この日常を支えていた。


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