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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
近くて遠い、でも繋がる心

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暖かく紡がれる信頼

朝、施設のリビング。母はゆっくりと椅子に座り、窓から差し込む光を浴びている。

ナースはステーションから観察する。歩行は安定し、表情にも落ち着きが見える。


娘と父が訪れ、母に声をかける。

「お母さん、おはよう」

母は一瞬戸惑うが、やがて小さく微笑む。

ナースは静かに助言する。

「声のトーンは穏やかに、少し間をあけるだけで安心感が伝わります」



娘は手を握る。最初はぎこちないが、ナースの指示通り短時間で離す。

母は手を握り返すことはないが、目線で娘を追い、微笑みを見せる。

父も少し離れた位置で見守る。

ナースはメモを取りながら、家族に声をかける。

「今の微笑みは、母があなたたちの存在を認識して安心しているサインです。無理に会話を増やさず、短時間でも良いので関わりを続けましょう」



午前中、母は庭に出てゆっくり歩く。

職員とナースが近くで見守る中、母は時折笑顔を見せ、花を指さす。

「この花、きれいだね」と娘が声をかけると、母は少し驚いた表情をしたあと、微笑む。

ナースは小さな変化も逃さない。

「母は短い会話でも反応しています。日常の些細な言葉が信頼感を育てます」



昼下がり、家族とナースの短い面談。

「母との距離感が少しずつ縮まってきましたね」とナース。

娘は笑顔で頷く。

「昨日より、目線がしっかり合う時間が長くなった気がします」

ナースは補足する。

「焦らず、少しずつ触れ合い、会話や手紙を重ねることが大切です。母も家族も安心感を少しずつ築いていけます」



夕方、母は手紙を手に取り、ゆっくり椅子に座って読む。

娘が書いた短いメッセージには、愛情と安心感が込められていた。

父もそばで見守り、娘に小さく頷く。

ナースはその光景を記録する。

「距離は完全には縮まっていないが、少しずつ家族との信頼感が育っている」と分析する。



ナース視点で描くこの日常は、家族愛の積み重ねの瞬間でもある。

短い会話、微笑み、手紙――小さな出来事の連続が、母と家族をつなぐ糸となる。


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