表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
新しい生活の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/74

そこから見えるもの

施設のステーション。ナースはパソコンの前で母の観察記録をまとめていた。

「午前中の歩行は安定、食事量も良好、表情も比較的落ち着いている」と冷静にメモを打ち込む。


そこへ施設長が静かに近づく。

「どうだ、今日の様子は?」

ナースは画面を指差しながら報告する。

「母の徘徊や帰宅願望の兆候はほとんどありません。ただ、時折目が泳ぐ瞬間があり、注意は必要です」


施設長は頷き、少し眉を寄せる。

「なるほど、家族の負担は少し軽減されてきたか。だが、まだ安心はできんな」

ナースは冷静に答える。

「はい。家族が訪問したときの反応も観察しています。少しの罪悪感や心配が見られますが、生活リズムには大きな乱れはありません」



昼下がり、母は庭でゆっくり散歩する。

職員がそばで付き添い、時折声をかける。

ナースは施設長に視線を向ける。

「こうして歩ける時間を増やすと、安心度がさらに上がります」

施設長は少し微笑む。

「ナースの観察があってこそだな。安全確保だけでなく、家族への説明にも役立つ」



夕方、娘が手紙を置きに訪れる。

母は手紙を受け取り、微笑みながら小さく頷く。

施設長はナースに耳打ちする。

「家族の心理も見てくれているのか?」

ナースは淡々と答える。

「はい。表情や行動の細かい変化から、安心や罪悪感の程度を把握しています。第三者目線だからこそ、家族の微妙な心の揺れも記録可能です」


施設長は頷き、静かにステーションを離れる。

ナースはその背中を見送りながら、再び画面に向かう。

母の生活の安定、家族の心の変化、安全管理――

すべてを見守るのが、自分の役目だと理解している。



ナースの視点を通して描かれるのは、母の生活の安定だけでなく、家族の心理や施設運営の現実。

第三者としての冷静さと、人情味の交錯が、この日常の細部に刻まれている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ