紡がれていく安心感
施設の朝。母は窓際の椅子に腰かけ、外の景色をじっと眺めている。
昨日までの落ち着かなさはなく、呼吸も穏やかだ。
ナースはステーションから観察する。
「姿勢も安定、目の焦点も定まっている。体調は良好」と、冷静にメモを取る。
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娘は自宅で、母のために用意した写真や手紙を整理している。
「こうやって気持ちを伝えられるだけでも、少し安心できる」
しかし心の奥には、まだ小さな罪悪感がくすぶっている。
父もリビングで静かに座り、テレビの画面ではなく、心の中で母のことを考えている。
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ナースは母の小さな行動の変化も見逃さない。
手の動き、目の輝き、呼吸の速さ。
「徘徊や帰宅願望は落ち着きつつあるが、時折不安が顔に現れる」と分析する。
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午後、母は施設の庭で他の入居者と小さな会話を交わす。
微笑みながら話すその様子は、家族にとってもナースにとっても、少しの安心材料だ。
ナースはその会話のトーンや表情も記録し、施設での生活の安定度を判断する。
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夕方、娘は施設に訪れ、母の手をそっと握る。
「今日は楽しそうでよかった」
母は小さく頷き、表情に穏やかさが戻る。
父も娘の隣に立ち、静かに見守る。
ナースはそのやり取りを冷静に観察し、家族の心の距離や感情の揺れを記録する。
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ナースの視点では、母の安全は確保され、生活は安定してきている。
しかし家族の心にはまだ揺れが残る。
それでも、少しずつ日常が紡がれていく、その微細な変化を見守ることこそ、ナースの役割だった。




