笑顔の中と乱れ
朝、施設の食堂に母の笑い声が響いた。
昨日までの警戒心は薄れ、他の入居者と自然に目を合わせることも増えている。
ナースは第三者として、食事の様子を記録する。
「笑顔が増えた。箸の使い方も安定している。体調も良好」と冷静にメモを取る。
⸻
娘は自宅で洗濯物を畳みながら、ふと母の顔を思い浮かべる。
「少しは安心できてるのかな…」
胸の奥に、まだ小さな罪悪感が残る。
父は静かにテレビを眺めているが、画面を見る目はどこか遠くを見つめている。
「家族は安心できる状況だ」と頭では理解していても、心は揺れ動く。
⸻
ナースは母の行動だけでなく、家族の反応も観察する。
娘の声のトーン、父の静かな姿勢、手の動き。
「家族の心は少しずつ安堵に傾いてきたが、完全に解消されたわけではない」
第三者ならではの冷静な視点で、家族の心理状態を記録する。
⸻
午後、母は施設の庭に出て日向ぼっこをする。
穏やかな表情で、時折小さく笑いながら花を眺める。
職員がそっとそばに付き添う。
ナースの目には、母の安心の兆候と同時に、「まだ時折不安が残る」という微細なサインも捉える。
⸻
夕方、娘は施設に手紙を置く。
「今日は笑顔を見せてくれてありがとう」
父も娘の肩に手を添え、互いに目で少し微笑む。
ナースはその光景を静かに観察し、記録ノートに書き込む。
•家族は少しずつ新しい日常を受け入れ始めている
•母は安全に過ごせる環境に慣れつつある
•しかし、心の葛藤や不安はまだ完全には消えていない




