表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
新しい生活の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/75

新しい施設の朝

朝日が差し込む中、母は新しい施設の廊下をゆっくり歩いていた。

昨日までの慌ただしい夜とは違い、静かで整った環境が広がる。

ナースステーションから見守るナースは、第三者として冷静に観察する。

母の手の動き、足取り、表情の変化。すべてが、以前の家よりも落ち着いて見えた。



娘は隣に立ち、胸の奥でざわつく感情を押し込めながらも、母の安全を確認する。

「ここなら……安心かもしれない」

父は廊下の端に立ち、無言で施設の職員とやり取りをする。

声を出さずとも、父の目には不安と後ろめたさが宿っていた。



母は時折「帰る」と口にする。

でも、施設の扉は鍵がかかり、安全が確保されている。

職員は優しく声をかけ、落ち着かせようとするが、母はわずかに顔をしかめる。

ナースは、その一瞬一瞬を見逃さずに観察していた。



「大丈夫よ、お母さん。ここでゆっくりしてね」

娘は母の肩に手を添えるが、母の瞳はどこか遠くを見つめる。

父は腕を組み、言葉少なに立っている。

家族全員の心には、安堵と罪悪感、疲労が入り混じる。



ナースは心の中で記録をまとめる。

「徘徊や暴力のリスクは減るだろう。

でも家族の心の葛藤はまだ解消されていない」


母は、ゆっくりと施設の廊下を歩きながら、時折小さな声で「父ちゃん……」と呼ぶ。

家族はその声を聞きながら、初めて「離れて暮らす」現実を少しずつ受け入れ始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ