揺れる心、寄り添う手
朝日が窓から差し込む。
母は布団の中で、まだ夢の余韻に揺れていた。
美咲はそっと母の手を握り、指先の温もりを感じる。
「母さん、起きる時間よ」
母はゆっくり目を開け、小さく微笑んだ。
「おはよう……うち、怖かったけど……でも、ここにおるんよね」
その言葉に、美咲は胸がいっぱいになる。
涙が頬を伝い、でも笑顔にならずにはいられなかった。
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リビングでは、父が朝食の準備をしていた。
静かな手つきで、母の好きな卵焼きを焼く。
直樹がコーヒーを入れながら、静かに呟いた。
「家族って、こうやって支え合うしかないんだな」
父は小さく笑った。
「悪かったな……昔のわしも、今思えば厳しすぎた」
その目には、後悔だけでなく、母への愛情も光っていた。
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母は食卓に座る。
記憶はまだ不安定で、時折混乱する。
でも、家族がそばにいることで、少しだけ安心できる。
「今日は、あの頃の夢見んかったけぇ、少し楽じゃ」
母の声に、美咲も父も、微かに安堵した表情を浮かべる。
朝食が静かに進む中、家族は互いを見つめ合う。
言葉にはせずとも、理解と絆がそこにある。
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その夜。
母の寝言がまた聞こえる。
でも、今度は声に安心が混じっていた。
「……みんなおるんよ……」
家族はそれを聞きながら、そっと手を取り合う。
母の過去も不安も、全てを抱きしめることはできない。
でも、支え合うことで少しずつ、日常を守っていける。
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第3章の終わり。
母の記憶の揺らぎと、家族の葛藤は消えない。
けれど、互いを思いやる手と心が、少しずつ光をもたらしていた。
誰も悪くない。
ただ、寄り添うことで、家族は今日を生き抜く。




