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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
揺れる日常、支え合う日々

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父の影と母の揺れる記憶

朝日が差し込むリビング。母・陽子は静かに座っていたが、その目には昨日の夜間徘徊や、幼少期の記憶が重なる影が映っている。


ふと、母の頭の中で幼い頃の光景が鮮明に蘇った。父は家で威厳を振りかざす存在で、少しでも自分の思い通りにしないと声を荒げたり、命令口調で叱ることが多かった。幼い陽子はそのたびに「自分は悪い子なんだ」と思い込み、恐怖と従順の間で揺れていた。


「また叱られる…怒られる…」母の心は、当時の感覚と混ざり、今の家族の指示や注意を過剰に恐れてしまう。浩一の声や態度が、無意識のうちに過去の父の威圧的な記憶と重なる瞬間もあった。


直樹は母の様子に気づく。

「母さん…何か思い出してるのかな」


美咲もそっと母の肩に手を置き、安心させるように囁く。

「怖い記憶でも、今は大丈夫。家族が守るからね」


母は一瞬ぎゅっと目を閉じ、肩を震わせる。幼少期の恐怖が心を支配し、声を抑えることもできず、小さな声でつぶやく。

「怖い…父に怒られる夢…」


浩一はその言葉を聞き、少し戸惑う。自分はただ母を守りたいだけで、叱るつもりはない。しかし、母の記憶の中では、自分の存在が幼い頃の父の姿と重なってしまっている。浩一は心の中で決意する。

「怒らず、否定せず、母さんの気持ちに寄り添おう。過去の父の影ではなく、今の俺で支えるんだ」


母は手元のティーカップを握りしめ、震える指先を見つめる。直樹はそっと手を差し出す。

「母さん、怖くても一緒にいよう。過去は過去、今は僕らが守るから」


美咲も笑顔を作り、声をかける。

「母さんの気持ちはわかるよ。でも、ここには安心できる場所がある。私たちがそばにいるから」


徐々に母の呼吸は落ち着き、肩の震えも和らぐ。幼い頃の父の影に支配されそうになっても、家族の温かさがその心を包み込む。


浩一も母の手をそっと握り、優しく語りかける。

「母さん、怖くなったらすぐ言っていい。俺は怒らない。母さんを守る」


母は小さく頷き、涙を一筋流す。過去の恐怖と今の安心が交錯し、複雑な感情の波が少しだけ静まった。


窓の外には朝の光が差し込み、家族の温かさが部屋に広がる。母の揺れる記憶はまだ完全には消えないが、家族の寄り添いと理解が、安心感と信頼の橋となって彼女の心を支えていた。


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