表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
揺れる日常、支え合う日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/75

デイサービスの揺れる午後

午後の日差しが窓から差し込むデイサービス。母・陽子は手芸の続きをしていたが、ふと表情が曇る。


「…ここはどこ?私はなんでここに…?」母の声は小さく、しかし確かに周囲に届く。


直樹はすぐに駆け寄る。

「母さん、大丈夫だよ。ここはデイサービス。スタッフの皆さんと一緒に楽しく過ごす場所だよ」


美咲もそばに座り、手を握る。

「少し不安になるのは当然だよ。ゆっくりでいいからね」


母は一瞬落ち着くが、目は再び遠くを見つめ、手の動きも止まる。スタッフが優しく声をかける。


「陽子さん、手芸は途中で大丈夫です。少しお茶を飲んで落ち着きましょうか」


母はコップを手に取り、ゆっくり飲む。だが、まだ心の中は揺れている。外に出たい気持ち、家に帰りたい気持ち、でもここにいる現実――混乱が入り混じる。


直樹は心の中でつぶやく。

「母さんの不安を無理に消さなくてもいい…でも、支えられる方法を考えよう」


美咲も同意する。

「今日は帰宅願望も強く出てるね。でも私たちがそばにいるから、大丈夫」


スタッフはケアマネに連絡し、母の不安定な状態を共有する。ケアマネは提案する。

「午後は少し静かな活動に切り替えましょう。散歩や手芸ではなく、音楽を聴いたり、簡単な体操で落ち着ける時間を作ります」


浩一はその様子を見て、少しずつ自分の気持ちを整理する。

「…否認しても仕方ないな。母さんが不安になるのは自然なことだ」


母は窓の外の景色を見ながら、家に帰りたい気持ちを漏らす。

「家に帰りたい…でも、ここにいるしかないのよね」


直樹は優しく母の肩に手を置く。

「そうだね。でもここも安全で、母さんが安心できる場所だよ。だから今日は少しだけ一緒に楽しもう」


美咲も笑顔で頷く。

「家に帰るのは後で。まずはここで少しだけ気持ちを落ち着けよう」


午後の静かな時間、母は少しずつ呼吸を整え、手を動かし始める。揺れる心の波は完全には消えないが、家族とスタッフの支えで、小さな安定が戻る瞬間が訪れる。


直樹は心の中で思う。

「母さんの気持ちは揺れる。でも、その揺れを受け止めて、少しずつ安心できる時間を作る。それが僕たちの役目だ」


夕方、家に帰る車の中で母は窓の外をじっと見つめ、再び小さくつぶやく。

「やっぱり家に帰りたい…」


浩一は運転しながらも心の中で決意する。

「家が安心できる場所だってわかってもらえるように、家族で支えていこう」


夜の光に包まれた家に戻ると、母はほっとした表情を見せる。家族の手がそっと母を包み込み、揺れる心を少しずつ落ち着かせていく――今日もまた、小さな絆が積み重なった一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ