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記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
揺れる日常、支え合う日々

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夜の不安と家族の決意

夜が静かに訪れ、家の中は柔らかな電球の光に包まれていた。しかし、直樹の胸の奥には、母・陽子の夜間徘徊の記憶がまだ色濃く残っている。昨夜の小さな恐怖と不安が、まるでリビングの空気に漂うかのようだった。


母は居間のソファで静かに座り、窓の外をじっと見つめている。デイサービスでの楽しい時間を過ごしたはずなのに、目はどこか遠くを見ている。


「家に帰りたい…」母は小さくつぶやく。その声は弱々しくも、確かに家族の耳に届いた。


直樹はそっと母の手を握り、優しく声をかける。

「母さん、もう家にいるよ。安心していいんだ。私たちがそばにいるから」


美咲も隣に座り、微笑みながら手を重ねる。

「家が一番落ち着くもんね。だから安心して」


浩一は少し離れた場所から二人を見つめ、胸の奥で揺れる感情を押さえ込む。否認したくなる自分と、母の不安を理解しなければならない現実の狭間で葛藤していた。


「…正直、面倒だと思うこともあった」浩一は低くつぶやく。

「でも、こうして母さんが家で安心できる姿を見ると、守らなきゃと思うな」


母は小さく頷き、安心した表情を見せる。しかしその瞳の奥には、まだ外に出たいという微かな衝動が残っている。直樹はそれを見逃さず、心の中で次の行動を決めた。


「夜間の見守りをもっと強化しよう。センサーも、家族での交代も、全部準備する」


美咲もすぐに頷き、浩一も小さく息をついた。

「俺も…協力する。母さんが安心して家にいられるように」


その言葉に、家族の間に小さな静かな絆が生まれる。母の帰宅願望や不安は完全には消えないが、家族が一緒に支えることで、少しずつ日常の安心が積み重なっていくのだ。


夜が深まり、母は自室で布団に横たわる。直樹と美咲はそれぞれそばに座り、浩一も少し距離を置きつつ部屋を見守る。夜の静寂の中で、母の呼吸は穏やかになり、家族全員の心も少しずつ落ち着きを取り戻す。


直樹は心の中で呟く。

「母さんが安心して眠れる家を守る。それが僕たちの役目だ」


外の月明かりが部屋を柔らかく照らし、家族の決意と温かさが、夜の静寂に溶け込んでいった。


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