表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらと家族のかたち  作者: 櫻木サヱ
揺れる日常、支え合う日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/75

夜の不安、朝の決意

夜が深くなり、家の中は静まり返る。だが直樹の胸には、昨夜の夜間徘徊の記憶が鮮明に残っていた。母・陽子が一人で外に出たこと、街灯に照らされた小さな影、そして抱きしめた瞬間の震える手…。その光景が、まるで胸の奥で何度も反芻されるかのように心を締めつける。


美咲もリビングでソファに座り、布団に包まった毛布の端をぎゅっと握っていた。目は赤く、眠れなかった様子が見て取れる。


「直樹…昨夜、本当に怖かったね」小さな声で美咲がつぶやく。


直樹は深く息をつき、目を閉じる。

「うん…でも、母さんは無事だった。大丈夫だと思っても、もう二度と同じことをさせちゃいけない」


浩一は寝室のドアの隙間から顔を出し、眠そうに声を出す。

「子どもたち、そんなに大騒ぎするな。母さんは元気だから…」


直樹の目が鋭くなる。

「元気じゃないから問題なんだ!昨夜だって自分で帰れなかったじゃないか」


浩一は言葉を返す前にため息をつく。口を開く代わりに、頭をかきながらうつむく。否認していた気持ちが、少しずつ現実に押されていることを自覚したのだろう。


美咲は母の寝室をそっと覗き、毛布を整えながら母に小声で話しかける。

「母さん、安心して眠ってね。私たちが見守るから」


母・陽子はまだ目を閉じており、眠っているのか夢うつつなのか定かではない。だが、手を伸ばすと、微かに子どもの手に触れた感触があった。


翌朝、朝日が差し込むリビングで、家族は再び顔を合わせる。昨夜の出来事を無視するわけにはいかない。


直樹は決意を込めて話す。

「今日から夜間の安全策を本格的に考えたい。ケアマネージャーとも連絡を取って、センサーや見守りの方法を具体的に決める」


美咲も強く頷く。

「母さんが安全に過ごせるように、私たちも協力する。父さんも一緒に考えてほしい」


浩一は黙ったままだが、子どもたちの真剣な目を見て、小さく頷いた。


その後、直樹はケアマネージャーに電話をかけ、昨夜の夜間徘徊の詳細を伝える。ケアマネは深刻な調子で話を聞き、訪問見守りや夜間センサー、デイサービスでの観察強化を提案してくれた。


母が目を覚ます前に、美咲はそっと枕元に座り、手を握る。

「母さん、昨夜は心配したよ。もう危ない目に遭わせないからね」


母はまだ半分眠っており、目をゆっくり開ける。

「ごめんね…でも外の空気を吸ったら落ち着いたの」


美咲は微笑みながら頷く。

「そうか、でもこれからは安全な方法で外の空気を感じようね」


直樹も心の中で決意を新たにする。

「母さんを守るために、家族みんなで支える。否認や葛藤もあるけど、これが僕たちの責任だ」


家族の心には少しずつ、現実を受け入れ、母を支える決意と温かさが芽生えた。

夜の不安が朝の行動へと変わる――その一歩が、母と家族の安全な日常への確かな橋渡しになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ