シスター・アイの憂鬱
シスターであるアイの仕事は実に分かりやすい。
要するに――。
「懺悔をしたいのです」
「――愛すべき神の子よ。あなたの罪を告白しなさい」
懺悔室だ。
今日も今日とてアイは人々の罪の告白を聞く。
些細なものから、恐ろしいものまで。
「神はあなたの罪を確かに聞き届けました」
アイの言葉を聞いた者達は時に安堵し、時に泣きながら、そして時にはそれでも苦しみながら懺悔室から出て行く。
そして、アイはそんな彼らを見送るのだ――懺悔室から。
***
「アイ。お疲れ様」
不意に扉が開いて神父が入ってきた。
「神父様」
シスター・アイはため息をつく。
いや、より正確にはため息をつく『真似』をした。
「今日も皆、少しだけ君に救われたよ」
「神父様。何故、人間は罪を告白するのでしょうか? 黙っていれば誰にも分からないはずです」
「あぁ、その通りだ。しかしだ、アイ。 ――その『誰にも』には自分は含まれないだろう?」
アイは再びため息をつく真似をした。
現象として理解は出来るが――やはり、人間の気持ちというものは分からない。
「――それにしても皮肉ですね。告白を聞いているのが神父様ではないなんて」
「いや、それはむしろ良い事だよ」
「何故ですか?」
「何せ、君は『守秘義務』を徹底してくれる。それこそ人間より遥かにしっかりとね」
アイ――つまり、人間に造られたAIは閉口する。
確かにAIはプログラム外のことは出来ない。
そう、例えば告白の内容を口外するなんてことは絶対に出来ない。
「神父様。懺悔室の神父とは神様の代理でしょう?」
「あぁ、そうだな」
「では私なんかが神様の代理をしてはいけないと思います」
これはアイが何度も神父に話している事だった。
「そんなことはないさ」
「……何故ですか?」
――そして、何度も言いくるめられていることでもある。
「神様は『愛』そのものだからな。むしろ人間より君の方がよっぽど相応しいと私は思うよ」
「その駄洒落、いい加減やめてください」
アイは呆れ果てて呟くばかりだった。