表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4話: 夜の約束

午後

昼休み後のBクラスの授業は、実質自習だ。アルバイト講師が監督官として、各自学習を進めているところを見守るスタイルだ。わからないところがあれば講師に質問をして、講師が対応をする。ワークは各教科、3日では解き切ることはないであろうボリューム配られている。ある程度監督官がワークの進め方を指定して、その通りに進める。

早めに昼休憩を終えた僕は、授業開始15分前に教室に入り、着席した。教室には志保と僕を含めてまだ3人しかいない。自己紹介をまともに聞いていなかったので、もう一人の女子の名前がわからない。

「違ったら申し訳ないんだけど、2人って、もしかして仲悪いの?」

もう一人の女子が聞いてきた。

「そんなこともないですよ。藤原さん。」

志保が答えてくれたことで、目の前の女子が藤原さんというのだとわかった。

「ずっと気になってたんだけど、なんで二人はBクラスにいるの?名光中ならAクラスじゃない?」

どうやら、藤原さんは少々デリカシーに欠けているらしい。

「単純に学力が足りてないからだよ。名光って言っても僕みたいな落ちこぼれはいるから。」

「私のことも遠回しに落ちこぼれって言いたいの?竜崎君?」

冷たい視線と圧を感じた。

「あー。名光って高校もあるから勉強しなくても高校行けるもんねー。確かに私も名光入ってたら勉強しなくなるかも。」

名光中に入れる前提の話をしているようで、少しだけ気に食わない。

「私は高校は別の高校を受験する予定なの。」

「へえー。やっぱりもっと上の高校目指すとか?でも名光より上ってなると、やっぱり東名高校になるのかな?」

東名高校は愛知県で一番偏差値の高い高校。自慢ではないが、名光は中高ともに県内では有数の名門私立だ。中学は県内5番目くらい。高校に至っては、県内3番目くらいだろうか。そんな中学に通う僕らがBクラスにいるのは確かに、傍から見ればおかしなことなのかもしれない。

「まだ決めてはないんだけど、別に上のレベルを目指そうって訳でもないの。」

「確かに、Bクラスだもんな、僕も青山さんも。」

「だから、あなたと私を一緒にしないでもらえる?」

終始志保の機嫌は悪い。別に本当のことを言っただけだと思うんだけどな。

 

授業開始1分前

Bクラスの生徒が全員揃い、監督官が教室に入ってきた。

監督官はいかにも大学生といった感じで、陽気なオーラを纏い、若干ぼさぼさ気味の頭を掻きながらやってきた。普段よりきっちりした格好をしていたので、認識が遅れてしまったが、僕はこの人物を知っている。

「この時間の監督官を担当します。松葉幸平(まつばこうへい)です。よろしく。」

松葉先生。普段は僕の担当講師だ。にやりと笑った顔をこちらに向けている。

「普段は南校で竜崎君を担当しています。ってことで、ぼちぼち始めますか。」


2時間にも及ぶ自習は意外にも苦痛ではなかった。というのも、松葉先生がいたことが大きかった。生徒に疲れが見え始めるとすぐに小休憩を挟み、雑談を始めた。コミュニケーションに難のある僕を担当しているくらいだ。とても話しやすい雰囲気を作り、場を和ませてくれた。あの、ツンツンしている志保でさえも松葉先生に対しては常に笑顔だった。

本人には口が裂けても言えないが、松葉先生は先生に向いている人材だと思う。授業はメリハリがついていて、教え方もすっと頭に入ってくる。雑談をしていても引き出しが豊富で、大学生ながら大人の余裕が感じられる。はっきり言って、僕は彼を尊敬している。

 

10分の休憩時間を終えて、次の授業が始まる。午後は同じ自習形式の授業だ。今後も午前は講義形式、午後は自習形式らしい。

本日2回目の自習は至極つまらない時間だった。講師が代わり、見るからにやる気のなさそうな大学生講師が担当した。Bクラスの雰囲気は180度変わり、どんよりしたムードだった。松葉先生の優秀さの裏付けでもある。


また10分の休憩時間を挟んだ後はグループワークとなった。今度はクラスメンバーのみで学習を進める。勉強会みたいな感じだ。互いに教えあい、どう進めるかを自分たちで決める。見張りの講師はいるものの、グループ全員がお手上げの時だけ手を貸してくれるそうだ。

Bクラスの中では志保が最も優秀という話になり、志保がリーダーを任されていた。緊張気味ではあったが、クラスメンバーをまとめ上げ、立派にリーダーをしていた。

今日一日通して感じたのは、志保はとにかく真面目だということ。常に勉強に対して意欲的で進みもダントツで早い。しかし、時々不自然な知識の抜けがある。これがBクラスにとどまっている原因なのだろうか。

 

19時

本日の学習は終了。夕食をとり、風呂に入れば待ちに待った約束の時間だ。

ルンルン気分で夕食の会場である、大広間のBクラスの卓に座った。

「ここ、いいか。」

誰かと思ったら、松葉先生だった。どうやらBクラスの卓で一緒に夕食をとる気らしい。

「松葉先生!ぜひ、一緒に食べましょう!」

すっかり松葉先生と仲良くなった藤原さんが声をかける。

「ってか、松葉先生来るなら先に言ってくださいよ。」

「そこはほら、サプライズ?」

「明日もいるんですか?」

「さすがにこれ食ったら帰るけど、明日も明後日も入ってる。このクラス担当とは限らないけどな。」

絶対に担当予定は決まっている癖に、含みを持たせてくる。サプライズのつもりなのだろうか。

「ま、楽しみにしてな。」

「絶対、松葉先生がいいです!」

「俺も!」

Bクラスは全員松葉先生の虜になっているみたいだ。

 

20時

5階のBクラスの男子部屋で風呂の準備をする。朝に荷物を置きに来ていたので、すぐに部屋にたどり着けた。

さすがの僕でも同部屋のメンバーをこの一日で覚えることができた。竹下君、内田君、森君。下の名前は、明日までには覚えるつもり。

風呂はクラスごとに順番で入るので、今はAクラスが入っているのだろう。しばし、待ちの時間だ。

「なあ、竜崎は青山さんとぶっちゃけ、どうなんだ?」

「そうそう、気になるよな。」

森君が切り出し、竹下君と内田君が同調する。

「ん?特に何も。」

「そんな訳ないだろ。二人で話してたの見ちゃったんだよ。」

「青山さん、かわいいもんなー。いいなー。」

何やら誤解されているらしい。

「むしろ仲が悪いくらいだと思うけどな。」

実際、志保は僕のことを嫌っているに違いない。

「でも、俺は藤原さんのほうが好みかなー。」

「俺は七瀬さん派。」

「いや、西谷さんでしょ。」

流れが恋バナに傾いたので僕は相槌ロボットになって、風呂の順番を待った。

 

20時10分

Bクラスは2番目なので、順番はすぐに回ってきた。入れ替わりというわけでもなく、Aクラスの連中がまだ入っていた。5クラスあるので、全クラス回すにはこうするしかないのだろう。僕らが体を洗っている最中に、彼らは出て行った。風呂の最中も懲りずに恋バナを3人で続けていた。


20時30分

風呂を出て、部屋に戻ってきた。22時まで自由時間となる。

任意ではあるが、クラスごとに部屋で勉強することを推奨されている。それこそAクラスのやつらはこの時間も自ら勉強をするのかもしれない。

「ま、今日は十分勉強したし、この時間はいいだろ。」

竹下君は素晴らしい提案をしてくれるものだ。

「じゃあ、トランプ持ってきたから消灯までやろうぜ。」

「あ、悪い。21時半まででいいか。ちょっと予定あって。」

3人が目配せをする。

「青山さんだろ?」

「残念。違うよ。」

「じゃあ、松葉先生?」

「いや、もう帰っただろ。家に電話してくるだけだよ。」

これ以上追及されるのは怖いので、そういうことにしておこう。


4人でのトランプは意外にも楽しい時間だった。ババ抜き、大富豪、ダウトを一通りやったら一時間はあっという間に過ぎた。内田君はトランプゲームがどれも弱すぎるので、練習したほうがよさそうだ。

 

21時半

3人の疑いの目をよそに一階のロビーへ向かうため、エレベータに乗った。

愛花が待っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ