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3話: 意地悪な少女

合宿一日目

長い説明が終わり、クラスごとの自己紹介時間が始まった。

僕が所属するBクラスには8人いるが、誰も見たことのない顔だ。

別のことで頭がいっぱいになっていたので、メンバーの自己紹介は何も聞こえなかった。

「次、竜崎君」

隣の席の男子が自己紹介を促してきた。いつの間にか自分の順番がやってきた。

名光(めいこう)中学の竜崎賢人です。よろしくお願いします。」

ぶっきらぼうに自己紹介を終える。

「えーっと、趣味とか部活とかは?」

「あー、部活は入ってないです。趣味は・・・映画、ゲームとか。」

さすがに感じが悪すぎたので、ちょっと声のトーンを上げておいた。

「名光って、めっちゃ頭いいよねー。すごーい。」

一人の女子が絵にかいたようなお世辞を展開してきたので、愛想笑いで返しておいた。

「次、どうぞ。」

隣の女子生徒に促す。

「同じく名光中の青山志保といいます。ソフトボール部に所属していて、趣味は読書です。3日間、よろしくお願いします。」

志保は軽く頭を下げた。愛花と並んだら際立つであろう、艶のある黒い髪。胸当たりまで伸びていて、清純派とはこのような姿をいうのかもしれない。

ゆっくりと上げられた志保の顔は一瞬、敵意をむき出しにして、僕のことを睨んでいた気がした。

「竜崎君と青山さんって同じ中学なんだねー。知り合いだったりするの?」

「いや、僕は知らないです。」

「3年間、一度も同じクラスにならなかったので、話したことないです。」

青山志保という名前を聞いたことがなかったのはそういうことか。納得だ。


自己紹介が終わると10分の休憩時間だ。休憩が終わればクラスごとに分かれて授業が始まる。愛花と話せるチャンスはこの休憩時間だろうと思った。

休憩時間に入り、気づいた時にはもう愛花の姿はEクラスの円卓にはなかった。愛花を追うために急いで大広間を抜け出した。しかし、追いかけることはできなかった。

「ちょっと待って、竜崎君。」

振り返ると志保の姿があった。

「・・・何?今急いでるんだけど。」

「話があるの。ちょっと付き合って。」

少し怒ったような口調で志保が言った。

「だから、今急いでるの。後でお願い。」

「愛花のことなんだけど。」

まさかの名前が志保の口から出てきた。

「あんた、愛花のこと覚えてるでしょ?」

「・・・」

「同じ小学校だったんだって?愛花から聞いてる。私、愛花と同じ校舎で仲いいから。」

なるほど。さっき一瞬だけ感じた敵意はこれか。

「結論から言う。愛花とは関わらないで。」

「・・・どういうこと?」

「愛花は純粋で、繊細なの。昔のあんたは知らないけど、少なくとも今のあんたは愛花に悪影響だから。」

「・・・・・・」

「3年間も同じ学校にいれば、噂が回ってくるの。あなたがどれだけ愛花には悪影響かってね。」

どうせ悪い噂でも立ってるんだろうな。

「じゃ、そういうことだから。」

僕の返事を待たず、志保は足早に去っていった。理不尽な意地悪をされた気分だった。


昼休み

講義形式の授業を1つ終えた後、大広間に向かった。そこには人数分の弁当とペットボトルのお茶や水が用意されていた。どうやらホテルとは食事の契約はしていないらしい。割高なんだろうか。弁当の内容は基本的に全員共通で、アレルギーなどがある人は別メニューが用意されているようだ。もし量が足らない人は時間内なら外に買いに行くことも許されているらしい。

僕はそこまで食い意地が張っている訳ではないので、大人しく弁当を受け取りBクラスの席に着いた。ごくシンプルなのり弁。ボリュームはそこそこあるので午後へのエネルギー補充としては十分。昼食も基本クラス単位で席が決まっている。しかし、特に規制はされていないので、別クラスの卓に混じる人も見受けられる。

チャンスなのでは?と一瞬だけ思ったが、Bクラスの卓には志保がいる。こいつの目を盗んで話しかけに行くのは至難の業だ。

少しでもチャンスを増やすため、僕は急ぎ目に弁当を頬張った。食べ終わってしまえばある程度自由が利くし、志保が食べ終わるまでの時間なら抜け道になるのではと考えた。

大広間の中央にでかいゴミ袋の群れがあるので、完食した弁当が入っていたプラスチックの容器と割り箸を抱え、そこに捨てに行く。どうやら志保は昼食をゆっくり食べる派のようなのでまだ半分も減っていない。

「どこ行くの。」

同じ卓の他の人が聞こえない程度のボリュームで志保が聞いてきた。眼差しは疑惑に満ちていて、警戒心が強く現れている。

「これ捨てに行く。あと、トイレ。」

「わかってるだろうけど、変なことしないでよ。」

「はいはい。」

ちらっとEクラスの方を確認する。どうやら愛花もまだ食べているようなので、とりあえず作戦でも練るとするか。

容器と箸を捨て、大広間を出た。出てすぐの廊下には自動販売機が設置されている。パンやお菓子が買える物もある。今はもちろん腹は満たされているので、ジュースでも飲みながらどうやって愛花と話をするか、その作戦を考えよう。

冷静に考えると、愛花と話をするとしても、何の話をすればいいのだろうか。そもそも、愛花と話してどうしたいのか。付き合いたい?いや、飛躍しすぎ。今はただ、彼女の現状を確認したい。記憶の中にいる彼女が変わっていて欲しくない。それだけだと思う。それ以上を期待するとまた自分が傷つく未来が見える。

そんなことを頭の中で巡らせながら買うジュースに悩んでいた。ぶどうジュースにしようか。いや、ソーダも捨てがたい。少し背伸びをしてコーヒーでも。

「どれにしようかな。」

「私はオレンジジュースかな。」

「それもありか。・・・・・・ん?」

「よっ。久しぶり!」

驚いて腰が抜けそうになった。本当に抜けたら格好がつかない。目の前には愛花がいたから。目の前にすると本当にあの頃から変わっていないように思える。中学三年生にしては子供っぽいピンクのTシャツ。長めの黒いスカートも可愛らしいルックスの愛花にはよく似合っている。と思う。ファッションには興味がないので、専門的なことはわからない。

「あっ、賢人と話すと怒られるんだった。」

「青山さんに?」

「そうなの。どうしよう。」

「ばれなきゃ怒られないと思うよ。」

「なるほど!やっぱり賢人は天才だね!」

愛花のことなので、本気で僕のことを天才だと思ってそうだ。なんだか懐かしい感じがする。

「じゃあ、あとでまたゆっくり話そうよ。そろそろ戻らないと志保にばれちゃう。」

「青山さん、ずっと目を光らせてるよ。」

「夜は男女で部屋別でしょ?時間決めて一階のロビーに集合しよ!」

「いいね、それ。じゃあ、20時からの風呂時間が終わって、22時の消灯までは各自自由だから、21時半集合でどう?」

「おっけー!また後でね!」

手を振ってきたので反射で振り返すと、足早に愛花は去っていった。嵐のように過ぎ去った3年ぶりの会話は思っていたよりもスムーズだった。やはり、愛花のペースに飲み込まれた形になったので、深く考える暇も、緊張する暇も与えてはくれなかった。愛花が去った今のほうが緊張している気がする。

相変わらずの彼女を目の当たりにして、安心した自分がいる。期待を裏切らない数少ない人間だと感じる。

夜のランデブーが待ち遠しい。午後の学習が捗りそうだ。

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