第95話 「雪村春風」について・4
「……ん? 『ユニーク』? そうか! 『固有職保持者』か!」
と、何かに気付いたかのようにハッとなったヴィンセント。
その様子を見て、
『ゆ、ユニーク……?』
『ホルダー?』
と、爽子や水音ら勇者達が「は?」と首を傾げていると、
「な!? 固有職保持者だと!?」
「まさかそんな!?」
と、ヴィンセントの言葉にウィルフレッドとマーガレットが驚きの声をあげたので、
「え、待ってください。何ですか? 固有職保持者って……?」
と、爽子が恐る恐るウィルフレッドらに向かってそう尋ねると、
「む。なんだ、センセらは知らねぇのか?」
と、今度はヴィンセントが首を傾げたので、
「あ、ああ、すまないヴィンス。勇者殿達にはまだ教えてないのだ」
と、ウィルフレッドは頭を下げながら、ヴィンセントに向かって謝罪した。
そんな2人の様子に、爽子達が「え? え?」と戸惑っていると、
「爽子殿、そして勇者達よ」
と、ウィルフレッドがそう口を開いたので、それに爽子達が「は、はい」と返事すると、
「其方達は、『職能』に関して何処まで習っただろうか?」
と、ウィルフレッドは真面目な表情でそう尋ねた。
その質問に対して、爽子は「え?」と首を傾げた後、
「この世界の人間達が、15歳……成人となった時に神様から授かるもので、『戦闘系職能』と『生産系職能』の2種類に分けられていると教わりました」
と、ウィルフレッドに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、ウィルフレッドは「うむ」と頷くと、
「そうだ。私も説明したように、『職能』はこの世界の人間が成人となった証として神々より授かるものだが、1つだけ、例外と呼ぶものがある」
と、右手の人差し指を立てながらそう言った。
その言葉を聞いて、
(え? 『例外』って……?)
と、水音が心の中でそう疑問に思い、
「何ですか? その『例外』って」
と、爽子が目を細めながら、ウィルフレッドに向かってそう尋ねると、
「その名も『固有職能』。神々の加護を持たない職能の総称で、それを宿した人間を『固有職保持者』と呼び、別名を『悪魔の力を持つ者』という」
と、ウィルフレッドはそう答え、その答えを聞いて、
『あ、悪魔ぁ!?』
と、爽子ら勇者達は驚きに満ちた叫びをあげた。
その叫びを聞いて、
「そうだ、『悪魔』の力だ」
と、ウィルフレッドがコクリと頷きながらそう口を開くと、
「私自身もその全てを知ってる訳ではないが、戦闘、生産、もしくはその両方の性質を兼ね備えた様々な固有職能が存在し、そのどれもが強大且つ危険なもので、今から250年前、この世界に最初に生まれた固有職保持者によって1つの国が消滅したという」
と、爽子達に向かってそう説明した。
その説明を聞いて、爽子が「な、そんな……」と呟くと、
「えっと……ち、因みに、その国を滅ぼしたっていう固有職保持者の職能は……?」
と、ウィルフレッドに向かって体をガタガタと震わせながらそう尋ねた。
その質問を聞いて、ウィルフレッドは答える。
「『賢者』。それが、『始まりの悪魔』と呼ばれた最初の固有職保持者の職能だ」
その答えを聞いて、
『け、賢者ぁ!?』
と、爽子を除いた勇者達が驚きの声をあげると、
「うお! びっくりしたぁ! え、お前さんら何か知ってるのか!?」
と、ヴィンセントが驚きながらそう尋ねてきたので、
「い、いや『賢者』っていったら……!」
「創作物とかに出て来る……!」
「世界を救う『勇者』のパーティーメンバーじゃないですか!」
と、水音達は口々に自分達が知ってる「賢者」についてそう答えた。
その答えを聞いて、
「ほう、其方達の世界ではそういう認識だったのか。しかし、残念なことにこの世界では、『悪魔』の力……いや、全ての固有職保持者達が、『悪魔の力を持つ者』と呼ばれることになる原因となった職能なのだ」
と、ウィルフレッドは表情を暗くしながらそう説明し、それを聞いた水音達は「そんな!」と絶句した。
すると、
「ちょ、ちょっと待ってくださいウィルフレッド陛下!」
と、爽子が大慌てでそう口を開いたので、それにウィルフレッドが「む?」と反応すると、
「そ、そのような危険な職能を、雪村が持っているというのですか!?」
と、爽子はかなり焦った様子でそう尋ねてきたので、
「ああ、いや。まだそうだという訳ではないが……」
と、ウィルフレッドも慌てた様子でそう訂正しようとしたが、
「いや、確定だろう? 本人だってそんな感じでそう名乗ってた訳だし、そうでなきゃクラりんの状態にいち早く気付かねぇって」
と、ヴィンセントが「待て待て」と言わんばかりにそう否定してきたので、
「え、それ、どういう意味ですか?」
と、水音が「ん?」と首を傾げながらそう尋ねると、
「通常、職能保持者ってのは、レベルが上がるとその職能に因んだスキルしか入手出来ねぇが、固有職保持者ってのは、戦闘、生産問わずあらゆるスキルを入手し、自在に扱うことが出来るんだ。だから、それならクラりんの状態をいち早く察知出来るスキルを手に入れられるかもしれねぇって訳なんだが……」
と、ヴィンセントはそう説明したが、
「いやちょっと待てヴィンス。だからといって、それだけで彼が固有職保持者だとは限らないぞ」
と、今度はウィルフレッドが「待て待て」と言わんばかりに否定してきたので、
「どういうことですか?」
と、爽子がそう尋ねると、
「何度も説明するが、この世界の人間は、15歳になると神々より職能を授かる。しかし、固有職保持者は、どういう訳か生まれた時点で既に職能……固有職能をその身に宿しているのだ。春風殿は其方達と同じ世界の人間。もし彼が固有職保持者なら、『何故彼だけが固有職能を宿したのか?』という疑問が生まれるのだ」
と、ウィルフレッドが真剣な表情でそう答えたので、爽子と水音達は、「ああ、確かに!」と手をポンと叩いた。
するとそこへ、
「いやいや、でもようウィルフ、万が一の可能性だって否定は出来ねぇぜ? もしかしたら、勇者召喚があった日に、そいつに何らかの『アクシデント』っていうか、『奇跡』が起きたのかも知れねぇぞ?」
と、ヴィンセントがそう口を開いたので、それにウィルフレッドが「たとえば?」と尋ねると、
「うえ!? そりゃあ……そのぉ……」
と、ヴィンセントが答え難そうな表情をした後、
「そ、それこそ……『神の奇跡』……とか?」
と、何とも歯切れが悪そうにそう答えたので、それにウィルフレッドが「ヴィンス……」と呆れ顔になった、まさにその時、
「……あります」
と、水音がボソリとそう呟いたので、それが聞こえたのか、
『え?』
と、その場にいる者達全員が水音に視線を向けて、
「ど、どうしたんだ桜庭?」
と、爽子がそう話しかけると、
「1つだけ、心当たりがあります」
と、水音が人差し指を立てながらそう言ったので、
「む!? それは真か!?」
「おいおい! 一体そりゃ何だい!?」
と、ウィルフレッドとヴィンセントが水音に向かってそう尋ねると、
「僕達『勇者』と春風の故郷、『地球』の神々です」
と、水音はタラリと汗を流しながらそう答えた。