第93話 「雪村春風」について・2
今回は少し短めの話(?)になります。
「彼の本当の両親は、7年前に死んでしまったんです」
と、爽子に向かってそう言った歩夢の言葉に、周囲から『ええぇ!?』と驚きの声があがる中、
「ちょ、ちょっと待ってわ、海神さん! そ、それってどういうことですか!?」
と、純輝が戸惑いながらも恐る恐るそう尋ねてきたので、歩夢は視線を純輝に移した後、
「言葉の通りだよ正中君。彼の本当の両親は、7年前にとある事故で死んでるの。そして、今一緒に暮らしてるのは、彼の本当のお父さんの友達。血は繋がってないの」
と、答えた。
その答えを聞いて、
「そ、そうだったんだ……」
と、純輝がそう返事すると、
「ついでに言うと、『雪村』って苗字はその人に引き取られた時に変えたもので、彼の本名は『光国春風』っていうの」
と、歩夢は続けるようにそう言った。
その言葉を聞いて、
「あれ? 『光国』ってどこかで……』
と、恵樹が小さな声でそう呟く中、
「ん? やけに詳しいな、海神」
と、それまで黙って話を聞いていた煌良がそう口を開くと、歩夢は彼に視線を移して、
「彼……フーちゃんとは、5歳の時からの幼馴染みで、彼のお父さんとお母さんとも家族ぐるみの付き合いがあるんだ。2人ともいい人達で、私のお父さんやお母さん、そしてお兄ちゃん達とも仲がいいんだ」
と、弱々しい笑みを浮かべながらそう言った。
すると、
「む? 歩夢殿、『フーちゃん』というのは?」
と、今度はウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「彼のニックネームです。彼の名前には、『風』っていう意味の『風』っていう文字が入ってるんです」
と、歩夢は弱々しい笑みを崩さずに、ウィルフレッドに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、
「なぁ、確か『雪村春風』の『春風』って……」
「『春』の『風』って書いて、『春風』だけど……」
「なるほど、『風』を音読みにしたって訳か……」
と、クラスメイト達が小声でそう言い合い、
「へぇ、『風』かぁ! 自由でいいじゃねぇか!」
と、ヴィンセントが表情を明るくすると、
「これもついでに言いますと、『師匠』の陸島凛咲さんとも小さい頃から顔見知りなんです。最も、その頃は『師匠』じゃなくて、本名の『陸島凛咲』の、『ま』と『り』と『い』をとって、『マリーさん』って呼んでたんです」
と、歩夢は更に続けてそう言ったので、その言葉を聞いた周囲から『おお!』と歓声があがった。
その後、
「しかしそれにしても、彼のご両親が既に亡くなっていたとは……」
と、ウィルフレッドが「うーん」と唸りながらそう口を開くと、
「申し訳ありませんが、詳しいことはお話しすることは出来ません。ですが、私と私の家族もその事故に居合わせていましたので、両親が死んだ時のフーちゃんの悲しみは今も覚えています。私も2人が大好きでしたので、その時はフーちゃんと一緒になって泣きました」
と、歩夢は申し訳なさそうな表情で謝罪しながらそう言い、最後にその時のことを思い出したのか、少し悲しげな表情を浮かべた。
そんな歩夢を見て、
「む、むぅ、そうか。ならば、その時の状況についてはこれ以上は聞かないでおこう」
と、ウィルフレッドがそう言うと、
「ありがとうございます」
と、歩夢は深々と頭を下げながらお礼を言った。
その後、
「それで、その事故の後、彼は……?」
と、ウィルフレッドが再びそう尋ねると、
「あ、はい。その後は話し合った末、私やフーちゃんと同じく事故に居合わせていたフーちゃんのお父さんの友達に引き取られて、学校に通いながらその人と喫茶店を営むことになったんです。私と私の家族も、時々その店を利用してるんですよ」
と、歩夢は穏やかな笑みを浮かべながらそう答えたので、それにウィルフレッドが「そ、そうか……」と返事すると、
「で、それから1年が過ぎたある日、冒険家になったマリーさんと久しぶりに再会して、まぁ、ちょっとしたゴタゴタがありましたが、その末にフーちゃんはマリーさんの弟子になって、一緒に世界中を旅するようになったんです。私は両親に反対されて弟子にはなれませんでしたが」
と、歩夢は更にそう説明したので、
「おお、そういう経緯があったのか……」
と、ウィルフレッドが納得の表情を浮かべると、歩夢はチラッと隣の美羽を見て、それに反応するかのように美羽がコクリと頷くと、
「で、それから更に1年後に私に出会って、そこから春風君達と友達になって一緒に遊ぶようになって……」
と、美羽は周囲を見回しながらそう言い、最後にチラッと水音に視線を向けて、それを受けた水音もコクリと頷くと、
「その2年後に、僕と春風と師匠が出会って、先程話しましたように、師匠の新たな弟子になって、現在至る……ということになります」
と、美羽と同じように周囲を見回しながらそう説明した。
その説明を聞いて、
『……』
と、周囲がシーンと静まり返ると、
「ふーむ、そういうことだったかぁ」
と、ヴィンセントが納得の表情を浮かべながらそう口を開き、
「じゃあ、歩夢に、美羽、そして水音に改めて尋ねるが、お前さん達にとって、『雪村』……いや『光国春風』って呼べばいいのか?」
と、「ん?」と首を傾げながらそう尋ねてきたので、
「『雪村』でお願いします」
と、歩夢がそう答えると、ヴィンセントは「わかった」と返事して、
「お前さん達にとって、『雪村春風』はどういう奴なんだ?」
と、3人に向かって真剣な表情で更にそう尋ねた。
その質問に対して、歩夢、美羽、そして水音は躊躇いなく答える。
「とっても、大切な人です」
「うん、私も同じです」
「僕も同じく」
そう答えた3人を見て、周囲はポカンとなる中、
「ははは、そうかい! どうやら、『雪村春風』って奴は幸せ者みてぇだな!』
と、ヴィンセントは笑いながらそう言った。




