第92話 「雪村春風」について
お待たせしました、本日2本目の投稿です。
「それじゃあちょいと悪りぃが、ここからは俺が仕切らせてもらうぜ」
と、ウィルフレッドや爽子ら勇者達を見回しながらそう言ったヴィンセント。そんなヴィンセントの言葉に、全員がコクリと頷くと、
「まずは爽子さん……いや、爽子センセと呼ばせてもらおうか。まずは、あんたが知ってる『雪村春風』について聞かせてほしい」
と、ヴィンセントが爽子に向かってそう言ったので、それに爽子が「わかりました」と返事すると、
「私自身、この子達の『担任教師』となってから日は浅いですが、少なくとも学校の中での『雪村春風』という生徒は、とても静かで、真面目で、周りに迷惑をかけるような問題行動を起こす子ではありませんでした」
と、自身が知ってる春風について、ヴィンセントに向かってそう説明した。
その説明を聞いて、
「へぇ、そりゃまた結構ないい子ちゃんじゃねぇか」
と、ヴィンセントがそう感想を言うと、爽子は申し訳なさそうな表情で、
「ごめん、みんな。私が言えるのはここまでなんだ。ここから先は、みんなが説明してほしい」
と、水音ら生徒達に向かって謝罪しながらそう言った。
その言葉に水音達は「は、はい」と頷いたが、
(と言っても、僕自身も春風について全てを知ってる訳じゃないんだよなぁ。春風、あまり自分のこと話したがらないから。だとすると……)
と、水音は「どうしよう」と言わんばかりの困った表情を浮かべながらそう考えて、
「去年、一緒のクラスの人だったら……」
と、最後にボソリとそう呟いた。
その呟きを聞いて、
『……ん?』
と、クラスメイト達がそう反応すると、水音も「ん?」となって、
「あ、いや、僕達自身も先生と同じように、一緒のクラスになって間もないから、去年、春風と一緒のクラスの人なら……みたいな?」
と、「いっけね!」と言わんばかりに大袈裟に腕を振りながら、クラスメイト達に向かって言い訳するかのようにそう言った。
すると、そんな水音の言葉が届いたのか、
「え? 去年雪村君と一緒のクラスだった人は……」
と、それまで黙って話を聞いていた純輝が口を開き、周囲を見回し、やがてそれに反応するかのように、
「私と……」
「私です」
と、同じくそれまで黙って話を聞いていた歩夢と美羽が「はい」と手を上げ、彼女達に続くかのように、
「あー、俺だわ」
「俺も俺も!」
「……私も」
と、新たに2人の少年達と1人の少女が「はい」と手を上げた。
まずは2人少年達だが、1人は如何にも「熱血漢」を思わせる雰囲気をした短い茶髪の少年で、もう1人は物語とかに出てくるかのような「お調子者」を思わせる雰囲気をした眼鏡をかけた少年だ。
そして最後の少女はというと、こちらは長い髪を三つ編みにした、大人しいというより「暗い」雰囲気をしている。
さて、そんな歩夢と美羽、そして、3人の少年少女に向かって、
「むむ、お前さん達は?」
と、ヴィンセントがそう尋ねると、まずは歩夢と美羽から、
「歩夢です。海神歩夢」
「天上美羽です。美羽が名前です」
と、ヴィンセントに向かってそう自己紹介し、その後彼女達に続くように、
「暁鉄雄です。鉄雄が名前です」
と、短い茶髪の少年と、
「野守恵樹です。恵樹が名前です」
と、眼鏡をかけた少年と、
「……夕下詩織です。詩織が、名前です」
と、三つ編みの少女がそう自己紹介した。
彼女達の自己紹介を聞いて、
「ふむふむ、歩夢と美羽、鉄雄に恵樹に、詩織……だな。よろしくな」
と、ヴィンセントが笑顔でそう言うと、歩夢達は「よろしくお願いします」と返事した。
その返事の後、
「よっしゃ。早速だが、お前さん達の話を聞かせてくれ」
と、ヴィンセントがそう言うと、歩夢達は「うーん」と答え難そうな表情になったが、
「あーその。俺達、去年あいつと一緒に授業を受けてたんですけど……」
と、やがて意を決したかのように暁鉄雄ーー以下、鉄雄がそう口を開き、
「今、先生が言いましたように、雪村君って結構物静かで、自分から進んで何か言ったり行動したりすることはないんですけど、周りへのサポートはしっかりしていて、そのおかげか他の先生達や学業の先輩達からの評価が高いんですよねぇ」
と、野守恵樹ーー以下、恵樹が自分達が知る春風についてそう説明した。
その説明を聞いて、
「うーん、爽子センセと同じか……」
と、ヴィンセントがそう呟くと、そこへ、
「……あとは、実家が喫茶店を、営んでるってところ、です」
と、夕下詩織ーー以下、詩織がそう口を開いたので、
「ん? 喫茶店?」
と、その言葉にヴィンセントは首を傾げた。
それを見て、詩織はコクリと頷くと、
「……『風の家』。それが、その喫茶店の名前、です。雪村君、そこで、お父さんと2人で暮らして、ます」
と、ヴィンセントに向かってそう言った。
その言葉を聞いて、
「へぇ、父親と2人暮らしか。で、母親は?」
と、ヴィンセントが詩織に向かってそう尋ねると、
「いません。彼のお父さんの、話よりますと、既に他界していた、そうです」
と、詩織は表情を暗くしながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「ゆ、夕下、詳しいな」
と、それまで黙って話を聞いていた進がそう言うと、
「私の親、仕事の関係で、よくそのお店、使う。私も、足を運んだことが、あって……」
と、詩織は若干気まずそうな態度でそう言った。
その言葉に対して、
「おお、それは……」
と、ウィルフレッドが表情を暗くした、まさにその時、
「……その人は、違います」
と、歩夢がボソリとそう呟いたので、
「え? わ、海神さん、どうしたんですか?」
と、純輝が恐る恐るそう尋ねると、
「その人は彼の……本当のお父さんじゃないんです」
と、歩夢は真っ直ぐ詩織を見てそう言った。
その後、その質問が気になったのか、
「わ、海神、今のはどういう意味だ?」
と、今度は爽子が恐る恐る歩夢に向かってそう尋ねると、
「彼の本当の両親は、7年前に死んでしまったんです」
と、歩夢は真っ直ぐ爽子を見つめながらそう言った。




