第91話 「弟子」になってからの日々
大変遅くなりました。
それから水音は、ウィルフレッドや爽子をはじめとした「勇者」達に、「師匠」こと陸島凛咲ーー以下、凛咲の弟子になってから、彼女と、そして、彼女のもう1人の弟子……兄弟子である春風との日々を話した。
大袈裟に言うと、それはまさに「冒険」とも言える日々で、水音は凛咲と春風と共に祖国である日本を飛び出してあらゆる国を訪れては、そこで様々な出来事に遭遇していたのだ。
ある国では違法に設立された軍隊に追いかけ回され、ある国では『悪い神様』を崇拝するカルト教団に危うく生贄にされそうになり、またある国では古代文明の遺物を巡って、裏社会の組織を相手に危険なギャンブルをすることになったりなど、当時中学生だった水音には刺激が強すぎるんじゃないかと思われるくらいの濃密な日々だという。
そんな水音が、凛咲の弟子となった最初の頃は、
「し、師匠……雪村君……ふ、2人とも……ちょっと待ってください……」
と、凛咲と春風についてくので精一杯だったが、それから時が経って、凛咲と春風との日々にだいぶ慣れてきたのか、
「し、師匠! 春風君! 2人とも危ないよ!」
と、2人の行動に対してツッコミを入れられるようになり、それから更に時が経って、
「春風ぁ! また無茶やらかして! いい加減にしろよなぁ! そして師匠! 春風に変な風に抱き付くのやめてください! ていうか、普通にセクハラですから!」
と、春風と凛咲に対して砕けた感じの口調で言えるようになるくらい成長していった。
それはさておき、
「……とまぁ、こんな感じです」
と、ひと通り説明し終えた水音は最後にそう締め括った。
そんな水音の話を聞いて、
『……』
全員、あんぐりと口を開けたままポカンとしていたので、
「あ、あのぉ、皆さん大丈夫ですか?」
と、水音が恐る恐るそう声をかけると、
「いやぁ水音さんよぉ……」
と、ヴィンセントがそう口を開いた。
それを聞いて、
「あ、はい、何でしょうか?」
と、水音がそう返事すると、
「お前さん……いや、雪村春風もだが、随分と濃密な日々を過ごしてたんだなぁ」
と、ヴィンセントがヒクヒクと頬を引き攣らせながらそう言ったので、
「あー、はい、そうですね。僕もそう思います」
と、水音もヴィンセントと同じように頬を引き攣らせながらそう言った。
すると、
「ちょおっと待て桜庭ぁあああああ!」
と、爽子がガシッと水音の肩を掴みながらそう声をかけてきたので、
「うわぁ! な、何ですか先生!?」
と、水音がギョッと目を大きく見開きながらそう返事すると、
「お、お前ぇ。いや、雪村もだが……なんてとんでもない大冒険を繰り広げてるんだぁ!?」
と、爽子は水音の両肩を掴んでユッサユッサと揺さぶりながら問い詰めてきた。
すると、それに続くように、
「そ、そうだぞ! ここまで黙って聞いたけど、お前と雪村、普通に死ぬ思いしてんじゃねぇかよ!」
「そ、そうだよ! 1歩間違えたら殺されたかもしれないじゃないか!」
「そうよそうよ!」
と、クラスメイト達も怒涛の勢いで水音に詰め寄った。
そんな爽子達を
「ちょ、せ、先生、みんな! ど、ど、どうか落ち着いてください!」
と、水音が体を揺さぶられながらもどうにか宥めようとすると、
「うむ。確かに、『大冒険』と呼ぶに相応しい日々を送っているな」
「そのようですね」
「はは、確かにそうだな!」
と、今度はウィルフレッド、マーガレット、ヴィンセントがそう口を開いた。特にヴィンセントはもの凄く楽しそうな表情をしていて、よく見るとその瞳はまるで幼い子供のようにキラキラとさせていた。
その後、
「しかしそれにしても水音殿」
と、ウィルフレッドが水音に声をかけてきたので、
「は、はい、何ですか?」
と、水音がそう返事すると、
「水音殿もそうだが、春風殿も中々の活躍をしていたのだな」
と、ウィルフレッドは真っ直ぐ水音を見つめながらそう言った。
その言葉に水音は「う……」と呻くと、
「……そうですね。僕自身、師匠や春風には何度も助けられてきました。こう言うのもなんですが、春風は僕と違って『特別な力』を持ってないのに、何度もピンチを潜り抜けたその姿は、本当にかっこいいって思いました。それはもう、嫉妬してしまうくらいに……」
と、表情を暗くしながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「うーん。しかしここまで聞いたが、ますますわからなくなっちまったな」
と、ヴィンセントが考える仕草をしながらそう口を開いたので、
「え、ど、どうしたのですか? 何がわからないのですか?」
と、水音が恐る恐るそう尋ねると、
「いや、雪村春風って奴がそんなスゲェ奴ならよ、なんでお前らを置いてここを飛び出したんだろうなって思ってよぉ」
と、ヴィンセントは「うーん」と呻きながらそう答えた。
その答えを聞いて、水音だけでなく爽子やクラスメイト達までもが「あ……」と声をもらした。
すると、
「うむ、確かにその通りだな」
と、ウィルフレッドが小さな声でそう呟くと、
「水音殿、1つ質問してもよろしいだろうか?」
と、水音に向かって声をかけたので、
「は、はい、何ですか?」
と、水音はビシッと姿勢を正しながらそう返事すると、
「其方の話を聞く限りでは、春風殿は其方と師匠殿以外にも多くの人を助けてきたのだろう。」
と、ウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「……そうですね。確かに春風は僕以外にも多くの人達を助けてきました。それは、自分の命を狙ってきた人間に対しても……」
と、水音は少し表情を暗くしながらそう答えると、
「ただ……」
「ただ?」
「そんな春風は僕達を置いてここを出ていきました。勿論、何か『理由』があるのだろうと思ってはいるのですが、それがどういうものかは……」
と、水音は最後にそう付け加えた。
すると、
「うーん、『理由』ねぇ」
と、ヴィンセントがそう口を開くと、
「だったらよぉ、もうここで色々とぶちまけちまえよ、そいつのこと。で、それをここにいる人間達みんなで考えるのさ、そいつが本当はどういう奴で、そいつに一体何が起きたのかを、な」
と、周囲を見回しながらそう提案してきたので、それを聞いた水音達は、お互い顔を見合わせて、
『うん!』
と、コクリと頷き合った後、
『わかりました!』
と、皆、ヴィンセントを見てそう言った。
謝罪)
大変申し訳ありませんでした。
今回の話の流れを考えていたらその日のうちに終わらせることができず、結果1日遅れの投稿みたいな感じになってしまいました。
本当にすみません。