第88話 「鬼」との出会い
今回はいつもより短めの話です。
「この世界風に言いますと、僕達『勇者』の祖国である『日本』という国は、大昔から『魔物』の脅威に晒されていました。『闇の世界』の存在である彼らは、人間なら誰もが持っている、『怒り』や『悲しみ』、『妬み』といった『負の感情』を糧に、その勢力を大きくしていたのです」
と、そう話し始めた水音の言葉に、
「なんと。まさかとは思うが、それは今もなのか?」
と、ウィルフレッドがそう尋ねると、
「はい。現在でも、人々の生活の裏では、その『闇の世界』の存在と、それから人々を守る者達の戦いが繰り広げています。勿論、僕ら『桜庭家』の人間も、その中の1つです」
と、水音はコクリと頷きながらそう答え、その答えにクラスメイト達から「おお!」と声があがった。
その声を聞いて、
「すみません、話が逸れてしまいました」
と、水音はそう謝罪した後、話を続ける。
「とにかく、その大昔の中でも、最も魔物達の活動が活発だったのが、『戦国』と呼ばれていた時代でした」
(せ、戦国時代!?)
(し! 静かに!)
「ほー、『戦国』とは随分と物騒だな」
「はい。それは、『日本』という国の統一をかけた、人間同士の争いがあった時代で、勝てば『富』や『名誉』といったものが手に入り、負ければ『財産』、『誇り』、そして『命』までもが奪われるといった感じでした」
「おお、人間同士の争いとな。ということは、魔物の活動が活発になったのは……」
「ええ。その争いで生まれた、『悲しみ』や『怒り』、そして『憎しみ』を取り込み、自分達が活動する為のエネルギーにしていたからです」
そう説明した水音に、周囲にいる誰もがゴクリと唾を飲んだ。
「そして僕の先祖も、その争いに巻き込まれ、多くの大切なものを奪われていましたが、ある時、先祖は今にも死にそうになっている1体の『鬼』に出会いました。先程説明しましたように、その『鬼』は多くの人間達を殺し、その血肉を喰らっていましたが、それを阻止する為に戦った戦士達によって、『鬼』は致命傷を負い、その後死の間際に僕の先祖に出会ったのです。これも祖父に聞いたことなのですが、彼らとの間でこんなやり取りがあったそうです」
ーーどうせ死ぬなら、お前が持ってる『力』を全て寄越せ!
ーーいいのか? そのようなことをすれば、いずれ貴様も我と同じような『鬼』となるのだぞ?
ーー構わない! それでこんな時代を生き抜くことが出来るなら!
「……そのやり取りの後、『鬼』は自身の持つ『力』を先祖に差し出し、消滅しました。そして、先祖はその『力』を使って時に人間同士の争いに参加し、時に魔物から人々を守ったりしながら、少しずつ『富』と『栄誉』、そして『家族』を得たのです」
「そうだったのか」
「はは、そいつはすげぇな」
水音の話を聞いて、ウィルフレッドもヴィンセントも、タラリと汗を流した。それは、爽子とクラスメイト達も同様で、皆、水音の話に表情を強張らせていた。
そんな状況の中、
「で、その『鬼』って奴の力って、今、どういう状態なんだ?」
と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、
「勿論、その力は今も僕の中に存在してます。というのも、その『鬼』がとても強い存在だったのか、先祖とその伴侶の間に生まれた子にも、その力が宿っていたんです。そして、それはどれほど時が経っても衰えることなく、寧ろどんどん大きくなっていて、先祖が死んだ後も、その力を持った子孫が生まれて、いつしか僕ら『桜庭家』の人間達は、『鬼宿しの一族』と呼ばれるようになったのです」
と、水音はコクリと頷きながらそう答えると、
「なるほど。因みにだが、今その力を持っているのは?」
と、今度はウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「知っている限りですけど、僕は勿論、母と母方の祖父、そして妹と数人の従兄弟です」
と、水音はウィルフレッドを見てそう答えた。
その答えにクラスメイト達が再び「おお!」と声をあげると、ウィルフレッドは「ふーむ」と考える仕草をした。
そして、それから少しすると、
「では質問を変えるが、其方の家族以外に、力のことを知ってる者はいるのか?」
と、またウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「はい。主に政府の人間や『軍』の関係者……ですね」
と、水音はちょっと答え難そうに答えた。
その答えをきくと、
「もしやとは思うが、ひょっとすると雪村春風殿も……か?」
と、ウィルフレッドは更にそう尋ねてきたので、それに水音は「う……」と小さく呻いた後、
「はい。彼……雪村春風も、僕達の一族や力のことは知ってます」
と、真っ直ぐウィルフレッドを見つめながらそう答えたので、
「そうなんだ……って、ええ!? まじで!? 雪村も知ってんの!?」
と、進が大きく目を見開きながらそう尋ねてきたので、水音はそれに若干気まずそうにしつつも、「うん」とコクリと頷いた。
すると、
「へぇ。雪村春風も、ねぇ」
と、ヴィンセントがそう呟くと、
「なぁ、水音よぉ。その雪村春風とお前さんって、一体どういう関係なんだ?」
と、水音に向かって真剣な表情でそう尋ねて、それに反応するように、爽子とクラスメイト達も、一斉に水音に視線を向けた。
その質問に対して、水音は「う……」と呻きながら答え難そうな表情を浮かべたが、やがて観念したのか、「ふぅ……」とひと息入れると、
「春風が悪いんだからな……」
と、小さな声でそう呟いた。
その言葉に周囲から「ん?」と声があがる中、
「僕と春風は、同じ『師匠』を持つ弟子なんです」
と、真っ直ぐヴィンセントを見つめながらそう答えた。




