第87話 「鬼」を宿す者達
「僕ら『桜庭家』の人間は、体の中に『魔物』の力を宿してるんです」
と、ウィルフレッドに向かってそう言った水音。
そんな水音の言葉を聞いて、
『えええええええっ!?』
と、クラスメイト達が驚きに満ちた叫びをあげたので、
「うお、びっくりしたぁ! 何だよおい……」
と、驚いたヴィンセントが文句を言おうとしたが、それを遮るかのように、
「ちょ、おい桜庭! 今のセリフ、本当かよ!?」
「そ、そ、そんな漫画みたいな話、あるの!?」
「ねぇねぇ、どんな魔物なの!?」
と、進をはじめとして、クラスメイト達が一斉に水音に詰め寄った。特に一部の男子や女子が好奇心……というより、オタク心丸出しと言わんばかりに目をキラキラとさせていたので、
「お、お、落ち着いてみんな! 順を追って説明するから! というか、みんな僕が冗談言ってるって思わないの!?」
と、水音は戸惑いながらもそう尋ねると、
「いや、冗談って、なぁ?」
「こんな状況だし、ね?」
『うんうん』
と、クラスメイト達全員、水音が冗談ではなく本当のことを話してるんだと確信しているかのようにそう言い、頷いていたので、
「ああ、まぁそうなんだけどね……」
と、水音は「はは」と盛大に頬を引き攣らせていた。
すると、
「コホン」
と、ウィルフレッドがそう咳き込んだので、それに水音達が『あ……』と反応すると、
「あー水音殿、すまないが質問をしてもよろしいだろうか?」
と、ウィルフレッドは困ったような笑みを浮かべながらそう尋ねてきた。
その質問を聞いて、
「は、はい、何でしょうか?」
と、水音が気まずそうにそう返事すると、
「その魔物というのは、どのようなものだろうか?」
と、ウィルフレッドがそう尋ねてきたので、水音は「それは……」と呟くと、
「僕達の祖国『日本』に古くから存在する、『鬼』と呼ばれている人型の魔物です。大きな特徴としましては先程ヴィンセント皇帝陛下が仰ったように、頭に大きな角を生やしてます」
と、チラリとヴィンセントを見ながら、自身の中に宿しているという「魔物」についてそう説明した。
すると、
『えええええええっ!?』
と、再びクラスメイト達が驚きに満ちた叫びをあげて、
「嘘だろ!? 『鬼』って本当にいたのかよ!?」
「昔話とか、漫画とかの中の話じゃないの!?」
と、一斉に水音に詰め寄ってきたので、
「う、うん。勿論、『鬼』だけじゃなくて、『妖怪』とか、『精霊』とかも、普段僕達の目に触れないようにしているだけで、ちゃんと現実に存在しているんだ」
と、水音は苦笑いしながらそう答えると、
『おおおおおおおっ!』
と、全員、まるで幼い子供のように目をキラキラと輝かせた。
すると、
「うおっほん!」
と、ウィルフレッドが再びそう咳き込んできたので、それに水音達が「あ……」と反応すると、皆、恥ずかしそうに顔を赤くしながら大人しくなった。
その後、水音も気を取り直すかのように真面目な表情になると、
「すみません、話が逸れてしまいました」
と、ウィルフレッドに向かってそう謝罪し、
「とにかく、僕と家族の体には、今話したように『鬼』と呼ばれる魔物の力を宿していて、そんな『鬼』の力を体に宿す僕達『桜庭家』の人間は、別名『鬼宿しの一族』とも呼ばれてるんです」
と、改めて真っ直ぐウィルフレッドを見ながらそう説明した。
その説明を聞いて、
「ほう、『鬼宿しの一族』とな。それで、その『鬼』って魔物は、他にどんな特徴を持ってんだ?」
と、今度はヴィンセントがそう尋ねると、
「一口に『鬼』と申しましても、様々なタイプがありまして、人間以上の剛力を誇るものや、この世界でいう『魔術』のような特殊な力を扱うものもいます。そしてこれが一番重要なのですが、『鬼』の中には人間を守り、助ける『いい奴』がいれば、人間に害をなす『悪い奴』も存在しているんです」
と、水音は真っ直ぐヴィンセントを見ながらそう答えたので、
「へぇ、そうかい! てことは、『勇者』として選ばれたお前さんには、その『いい奴』の力が宿ってんのか?」
と、ヴィンセントは表情を明るくしながら再びそう尋ね、それに続くようにウィルフレッドも「おお!」と表情を明るくした。勿論、爽子やクラスメイト達も同様である。
ところが、その質問に対して、水音は表情を曇らせると、
「……いいえ。僕達『桜庭家』の人間が宿してるのは、『悪い奴』のほうです」
と、少し辛そうな感じでそう答えた。
その答えに、周囲が「え?」と声をもらすと、
「あのー桜庭君。まさかと思うけど……その『鬼』ってもしかして、人間を食べてたりして……」
と、耕が恐る恐るそう尋ねてきた。
その質問を聞いて、
「ば! お前、流石にその質問はひでぇだろ!?」
と、進がツッコミを入れてきたので、
「あ、いや、ご、ごめん! 気を悪くしたなら……!」
と、耕が大慌てで水音に向かって謝罪すると、
「はは」
と、水音が困ったような笑みを浮かべたので、それを見た耕をはじめとしたクラスメイト達が、
(な、何だ、違うのかな?)
と、全員頬を引き攣らせていると、
「ああ、そうだよ。これはじいちゃん……母方の祖父から聞いた話なんだけど、なんでもその『鬼』は大昔、大勢の人を殺しては、その血肉を喰らっていたんだって」
と、水音は困ったような笑みを崩さずにそう答えたので、
『うおおおおおおおい!』
と、クラスメイト達だけでなく、ウィルフレッドやヴィンセントも、水音の言葉に大きく目を見開きながらそう悲鳴をあげた。
その後、
「ちょおっと待て! お前、なんてもん宿してんだよ!?」
「大丈夫!? ねぇ、それって大丈夫なの!?」
「ていうか、お前、なんともないの!?」
「というより! 其方、確か『一族』と言ってたな!? つまり其方以外にも、その『鬼』という魔物の力を宿してるということなのか!?」
「つーか、いつから!? いつからんなヤベェもん体に宿してんだよ!?」
と、クラスメイト達に加えて、ウィルフレッドとヴィンセントからもそう詰め寄られてしまい、
「お、落ち着いてみんな、それとウィルフレッド陛下にヴィンセント皇帝陛下も。その辺りにつきましても順を追って説明しますから!」
と、水音は少し慌てた様子で「みんな落ち着いて」と周囲の人達を宥めた。
その後、どうにか落ち着きを取り戻した彼・彼女達は少し恥ずかしそうに顔を赤くしながら水音から数後離れた。
そして、
「水音殿、教えてほしい。其方達一族と、その『鬼』という魔物についてを」
と、ウィルフレッドにそう頼まれて、
「わかりました。ちょっと……いえ、かなり『信じられない』と言わんばかりの内容ですが、それでもよろしいですか?」
と、水音がそれについてそう尋ねると、
「ああ、構わない。是非、聞かせてくれ」
と、ウィルフレッドが深々と頭を下げてきたので、
「わかりました」
と、水音はそう返事した後、自身の一族について語り始めた。




