第86話 そして、水音の「秘密」へ
「お前さん……ただの人間じゃねぇだろ?」
と、水音に向かってそう尋ねたヴィンセント。その質問の内容に、ウィルフレッドやマーガレット、更には爽子とクラスメイト達(ただし、一部を除いて)までもが、
『……え?』
と、皆、一斉に首を傾げていると、
「そりゃあ、僕も先生達と同じこの世界の神様に選ばれた『勇者』ですから……」
と、水音は困ったような笑みを浮かべながらそう答えた。
そんな水音に対して、
「確かにそれもあるだろう」
と、ヴィンセントは真剣な表情でそう言うと、
「だがな、お前さんがエレンに最後の一撃をお見舞いしようとしたあの時、俺は確かに見た」
と、最後にそう付け加えたので、
「……何をですか?」
と、水音が警戒しながらそう尋ねると、
「あの時のお前さんの姿が、一瞬明らかに人間以外のものに見えたんだ」
と、ヴィンセントは真剣な表情を崩さずにそう答えた。
その瞬間、謁見の間内に緊張が走り、その場にいる誰もがゴクリと唾を飲んでいると、
「ヴィンセント皇帝陛下、仰ってることの意味がよくわかりません。僕はご覧の通り『勇者』であること以外は普通の人間ですよ?」
と、水音は再び困ったような笑みを浮かべながらそう言った。
しかし、それでもヴィンセントの表情は崩れることなく、
「悪いな水音。あの時のお前さんの姿は、俺だけでなくヴィンスや他の勇者さん達までもが見てるんだよ」
と、ジッと水音を見つめたままそう言ったので、
「え!? 嘘!?」
と、水音は驚いた表情で周囲を見回した。
だが、
「……あれ?」
と、水音が首を傾げながら声をもらしたように、爽子やクラスメイト、そしてウィルフレッドやマーガレットまでもが、
『え!? 何事!?』
と言わんばかりに大きく目を見開いていたので、
「……ヴィンセント皇帝陛下」
と、水音は「騙したな!?」と言わんばかりの「怒り」に満ちた眼差しをヴィンセントに向けた。
その眼差しを受けて、
「いやぁ、悪りぃ悪りぃ……」
と、ヴィンセントはなんの悪びれもなく「あはは」と笑いながらそう言うと、
「だが、今のでお前さんが只者じゃないってことがわかったわ」
と、また真剣な表情になってそう付け加えた。
その言葉を聞いて、水音は「はぁ」と溜め息を吐くと、
「……それで、その時の僕の姿、あなたにはどう見えたのでしょうか?」
と、ヴィンセントに向かって警戒心を剥き出しにしているかのような表情でそう尋ねた。
その質問に対して、ヴィンセントは「うむ」と頷くと、
「見た目はムッキムキボディの人間なんだが、頭にデケェ『角』みてぇなのが生えてたわ」
と、答えた。
その答えを聞いて、
「え、頭に角って……」
「それってまさか……!?」
と、クラスメイト達からそんな声が聞こえたが、そこへ水音が、
「っ……」
と、「ちょっと黙ってて」と言わんばかりにスッと右手を上げたので、それにクラスメイト達は「う!」と反応すると、その後はシーンと静かになった。
それを見て、
「ごめん、みんな……」
と、水音は申し訳なさそうな表情でそう謝罪すると、ヴィンセントに向き直って、
「驚きました、そこまでわかるんですか?」
と尋ねた。
その質問を聞いて、
「ふふん! 俺、結構そういうのわかるタイプなんだよねぇ!」
と、ヴィンセントは胸を張りながら答えたので、
「はは、左様ですか」
と、水音は苦笑いしながらそう言った。
その後、
「で、どうなんだい? お前さんのあの姿っていうか、あの『力』っていうのかな? 何となくだが、明らかに『スキル』が生み出したものじゃねぇんだろ?」
と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、それに水音が「それは……」と困ったような表情を浮かべると、
「……」
と、チラッと爽子やクラスメイト達、そしてウィルフレッドとマーガレットを見た。
『……』
全員、「知りたい!」と言わんばかりに無言で水音をジッと見つめていたので、
「うぅ……」
と、水音は更に困ったような表情を浮かべると、
「ふむ。だったら……」
と、何かを察したかのような表情を浮かべたヴィンセントはそう言って、自身の懐に手を突っ込み、そこから何かを取り出した。
それは、ちょっとした装飾が施された手の平サイズの水晶玉のようなもので、それを見た水音達が「ん?」と首を傾げていると、ヴィンセントはその水晶玉のようなものをグッと握り締めた後、
「ほいっとな!」
と、その水晶玉のようなものをポイッと上に放り投げた。
次の瞬間、水晶玉のようなものから眩い光が発せられ、謁見の間全体に広がった。
その光景を見て、
「あ、あの、ヴィンセント皇帝陛下。一体何を……?」
と、爽子が恐る恐るヴィンセントに向かってそう尋ねると、
「ん? 何やら重要な話になりそうだから、『結界』を作らせてもらった。これで、ここの話の内容は外にもれることはないぜ」
と、ヴィンセントは爽子に向かってそう答え、最後にチラッと水音を見てニヤリと笑った。
その表情を見て、
(ああ、これはもう逃げられないな)
と感じた水音は、「はぁあああ……」と大きく溜め息を吐いた後、観念したかのように、
「わかりました。ですが、これから僕が言うことは全て他言無用でお願いします」
と、ヴィンセントだけじゃなく、ウィルフレッドやマーガレット、そして爽子とクラスメイト達に向かってそう言った。
その言葉を聞いて、その場にいる全員が「只事じゃない!」と理解すると、全員、無言でコクリと頷いた。
それを見て、水音が「ありがとうございます」と言うと、
「ヴィンセント皇帝陛下。先程の質問の答えですが、確かにあれはスキルが生み出したものでありません」
と、ヴィンセントに向かってそう言った。
その答えを聞いて、
「ほう。てことは、あれはお前さんが元々持っている『力』ってことだな?」
と、ヴィンセントが更にそう尋ねると、
「はい。正確に言えば、僕がというよりも、僕の一族が持っている『力』ですが」
と、水音はコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「む? 其方の一族とな?」
と、今度はウィルフレッドが水音に向かってそう尋ねると、
「はい。この世界風に言いますと……」
と、水音は真面目な表情で、
「僕ら『桜庭家』の人間は、体の中に『魔物の力』を宿してるんです」
と、ウィルフレッドに向かってそう答えた。




